仮側近と獣人
※主人公出ません。
「キリス様…!!」
「…セラ?!」
涙を溢し馬上の青年に飛び付く鳥人。
それを冷めた目で見つめるのは、獣人で狐人のネルビアであった。
…全く。
ネルビアは端正な顔に苛立ちを浮かべる。
好意を持つウォーター国王サキと行動していたが、宿で眠る筈の鳥人が移動する気配に気付き直ぐに追った。
…またこの雌が人間にでも捕まったら、心配するのはサキだ。
あの娘の悲しい表情など見たくない。
サキに連絡する間もなく追えば、この光景だ。
元々肉食の獣人であるネルビアは、気が長い方では無い。
「…お前がセラの育ての親って奴?」
ネルビアの淡々とした問いに、セラを受け止めた青年の瞳が細まる。
「…ああ、そうだが。君は?」
不審そうな視線にネルビアも表情を消す。
相手がセラの育て親とは言え、人間である以上機嫌を取る必要はないと感じたからだ。
不穏な空気を感じ、セラは慌てて青年に向く。
「…キリス様!彼は狐人のネルビアですわ。此処まで色々手伝ってくれて…クデルトでも…」
「!…クデルトに行ったのか?」
いい募るセラから出た良くない国名に、キリスの眉が潜められた。
それに、セラはコクコク頷くと気弱に続ける。
「はい…でも…サキ様に助けて頂きました。」
「……サキ?」
セラの言葉に、キリスの顔からスッと色が消え、その様子にセラは小さく首を傾げる。
「?ええ。ウォーター国王陛下サキ様に救って頂きまして…今はケープラナで、一緒にキリス様を探して下さって…。」
キリスの固い表情には、複雑そうな感情が垣間見える。
「…まさかな。セラが頼み込んだのか?」
勿論キリスには、ウォーターの場所を知らないセラがサキに頼みに行くのは出来ない事だと分かっていた。
ただ理由が欲しかった、期待してしまわないような。
セラはゆっくり頭を振った。
「いいえ。サキ様は、私が頼むより前に、キリス様を捜すつもりだったそうですわ。」
瞬間キリスの体温が急激に上がり、冷静さを保とうと目を閉じて静かに開いた。
まさか、とキリスは自問自答する。
まさか、自分の為にあの少女が態々動いてくれたのか?
勝手に出ていった自分を?
セラの心配そうな表情に、曖昧に笑みを返す。
「俺は…ミズハラ様の元に戻る資格は無い。」
セラの瞳が揺れる。
「…っキリス、様…でも…」
戸惑い狼狽えるセラとは異なり、狐人ネルビアの口調は全く感情の無い物だった。
「…そう、じゃあ俺が伝えて置くよ?直ぐにサキちゃんと会う予定だしさ~。」
サキへの感情をしまい込んだといえ、意識しまっているキリスはネルビアの口調を流す事は難しい物だった。
「…気安い物言いだが、君はウォーターの官吏なのか?それなら少し無礼では…。」
「何で出て行った奴が気にするわけ?てか、俺はまだ官吏じゃないし?…まあ、サキちゃんの事好きだし、なっても良いかな。」
緩く笑む獣人に、キリスの心中は穏やかでは無い。
「官吏とは、その様に気軽になるものでは…。」
僅かに眉を寄せたキリスは、自分らしく無いと思ってもつい口が出ていた。
ネルビアの煽りが痛い所を上手くついている上、彼女が好きという台詞に対抗心が膨れていたからである。
「一国の王に、好きだと軽々しく言うのもどうかと思うが。」
生真面目に言われ、ネルビアの不快指数も緩やかに上がる。
「はい?ウォーターに関係ない人間に言われる謂われ無いんだけど。…それに、個人的感情に口出ししないでくれない?」
冷たい光を宿すネルビアの瞳に、キリスは憶さず続ける。
「確かに関係ないが…ただの元官吏としての一意見だ。」
うるさい、とネルビアは口だけで告げる。
「もう黙れうるさい。…何?サキちゃんが好きなの?」
からかい半分のネルビアの問いに、キリスは常の余裕が何故か保てなかった。
眉を寄せ、知らず視線が揺れた。
その様子にネルビアは知らず妙な苛立ちに襲われ、追求を止める事にしたのである。
口内で舌打ちし、これからの動きを思案するのだった。
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