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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
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苦悩の8日目

遅くなりました;

…懐かしい夢を見た。

朝起きると焼いたパンの香ばしい匂い。

自分を急かす母親の声。

新聞を捲る父親からの挨拶。

部活動の準備に急ぐ妹の姿。


「いってきまーす。」


眠いし授業はつまらないし、面倒くさいなと思いながら急ぐ学校への道のり。

友達とは何を話そう。

授業で当てられると困るな。

購買で何を買おう…。


決して変わらぬ日常だった。

単調だったけれど、そんな日々が結構気にいっていたのは確か。


…あれ?あんな所に猫が。


見つけたのは、道路の中央を渡る猫と近付く車であった。





紗季はそっと目を覚ました。


「………………」


回らない頭で辺りを見渡し、ようやく現状を思い出す。


ああ、此処はケープラナか…。


昨晩の出来事を思い浮かべ、息を吐く。


…みっともない。


覚えていなければ良かったが、頭にはハッキリと情景が思い浮かぶ。

夜に訪れて来たモリスという官吏の前で泣いてしまい、とりとめのない事をグチグチと口にしてしまった…。

確かにモリスは話しやすい人物だったが、初対面で失礼だったな。


そういえば、会議はどうなったんだろう。


ふと、最も重要な事柄を思い出すと、軽く身支度を整え部屋を後にした。


すれ違う者は直ぐにその場に膝をつき、紗季が通りすぎるのを待つ。

それが徹底されている辺り、歴史のある大国だと伺える。


長い廊下を歩き出したと同時に、向かい側から静かな沓音が耳に入った。


「おはようございます、良く休まれられましたか?」


昨日の事を全く感じさせない穏やかな相手に、知らず知らず頬を緩める。


「ええ。大丈夫、側近フェルトニア。」


「どうか、モリス…と。煩わしい呼び名でしょうから。」


落ち着いた雰囲気のモリスに紗季は気付かない内に、今まで接して来た相手とは異なる物言いとなっていた。

紗季自身勿論自覚は無いが、僅かに年相応な口調と無自覚に甘える視線を向けていたのだ。


「…分かったわ。モリス…。そういえば、もう昨日の結果は出たの?」

あくまで他国の王相手の態度を取るモリスだが、又彼も、主君を失った穴を無意識に埋める様に、殊更恭しい姿勢となっていた。


モリスと同様、今まで王を失っていたケープラナの城内は不気味な静寂を保っていたが、紗季(王)の存在により生き生きと息を吹き返している。

あくまでも、この世界の国とは王という事であるのだ。


紗季の問い掛けに、モリスは僅かに思案するが直ぐに肯定を返す。


「一応の決着は…アルバンドから、お話しがございますでしょう。」


お話し…か。

結局どうなったんだろう。


「…いつ?」


真っ直ぐに問う紗季に、真摯な視線が返される。


「…今日にでも。」


短いが端的な返答に、紗季は静かに頷く。

その様子にモリスも察した様で、昨日とはまた異なる落ち着いた部屋に案内をした。


室内には趣味の良いテーブル、向かい合わせに椅子が数脚置いてある。

中には既に、レビュートとローマネが座っており、簡単に挨拶を終えると彼らの間に腰掛けた。


…何か緊張するな。

どうなるんだろうか…。


紗季は、そっと息を吐いた。





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