ナント視点
上級官吏ナントは、モリスの質問に何やら考え出した少女を見つめた。
ナントは下級、中級官吏を経て、40代初めに上級官吏となった。
下積みが長く、様々な官吏の裏を多く見てきている。
…可哀想に。
心ではどもらず、スラスラ言葉が続くナントは、若い王に同情した。
出来たばかりの国を背負い、心を預けられる側近も居ないまま、このような交渉の場に立たされたのか…。
元々肝が座っているのか、ウォーターの王は落ち着いて見える。
しかし、部下に聞いた所によると、ウォーターはまだ6、7日らしい。
訳の分からないまま、自国も整わないまま、此処に来たのだろう…。
その上、どう見積もっても20歳前にしか見えない少女である。
本来ならそこを配慮し、宰相か王族で対応すべきなのだ。
如何せん、宰相のアルバンドは若すぎた。
こんな官吏がズラリと並んだ場所へ来させるなど、無礼と取られても不思議ではない。
相手が何も知らない若い王だからと、失礼だろう。
若い世代の官吏達は、アルバンドの対応に疑問無く集まったが、年かさの官吏は違った。
王に心酔し敬慕していたシュラは、ウォーター王が入って来た時から険しい表情を浮かべている。真面目過ぎる彼にとって、アルバンドの措置はあまりに相手に不似合いであると感じたのだろう。
本来ならモリスが言うべきだろうが、ただ必要最低限の発言に徹している。
顔に似合わず厳しい所があるからか、自分で気付けとでも言うのか…。
先ほど発言した女性官吏のエリリィアは、穏やかな彼女には珍しくアルバンドに冷たい視線を送っていた。
そして、ご意見番でいつも冷静に物事を見るハンニエルは、静かに座るのみ。
アルバンドは、宰相らしく分厚い政書を傍らに置き、真剣にウォーター王を見ているが、若い官吏と熟練官吏の雰囲気の変化には気付いていない。
…しかし、自分が出来る事は成り行きを見守る事しか出来ない。
ナントは小さく息を吐いた。
官吏達の視線を受けている少女王は、静かに口を開いた。
「…交換条件は2つだけ。」
少女王の瞳には、強い意思が宿っている。
「1つは、政の出来る官吏が欲しい。」
ざわり…と室内がざわめく。
熟練の官吏は冷静に続きを待ち、若い官吏は驚きを露にしている。
上級官吏等は見た目で年齢を判断する事は困難だが、異なる反応にウォーター王も不思議そうな表情を浮かべていた。
「…理由としては簡単。まだ、たいして官吏がいないし、政に詳しい者もいないから。」
ウォーター王の言葉に、皆口を閉ざして思案を始める。
…確かに、長く続いた我が国の官吏なら役立つだろう。
その時、新たな声が静寂を破った。
「…畏れながら、私達の様な年かさの人間では、古臭い考えをウォーター国王陛下にお与え申し上げてしまいましょう。…私はともかくとして、まだ年若い官吏を役立てて下されば、嬉しく存じます。」
穏やかにかつ、流れる様な物言いにウォーター王は聞き入れている。
モリスやハンニエルもその意見に、さりげなく頷いた。
…新しい国に、古い人間は不要だと。
ナントは知らず俯いた。
…中途半端に生きた自分はどうしようか、と。
しかし、次にその場に発された発言に、また流れは変わり始めるのだった。
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