クデルトでの交渉
※主人公出ません。
「…ファウル将軍でしたか…。申し訳ないが、いくら上級官吏でも王族では無い者が、父上とは会えないのです。」
「是!私ごときご無礼は重々承知!…しかぁし、時は一刻も迅速な対応が必要な時分!…何とぞ、御容赦願い致す次第…!」
美しい装飾の施された室内では、中央のテーブルに二人の人物が向かい合い座っていた。
部屋の入り口に控えている衛兵は、後から話した人物の声に眉をひくつかせた。
始めに話した人物が、眉を寄せて眼光を鋭くする。
「…例え、やる気が無かろうが幼かろうが、王族の責務が果たせないものですか?」
相手の鋭い視線を真っ直ぐ受けながら、全く怯まず視線を返した。
「…仰る通り。返す言葉もございません。だが、王亡き今は、動かぬ王族が動くまで待つ時間は…毛頭無い!官吏自ら出向くこの思い、切に受け止めて頂きたいのです。」
真摯に語る曇りの無い灰目の官吏に、相手は小さく息を吐いた。
(…本来ならば王以外の王族は所詮飾り。実際は彼ら上級官吏の立場は王に次ぐ。…私も心苦しいものだ。)
「…確かに、安穏としていられる状況では無いとは思います。しかし、古くからの習わし。…妃でも幼い王子でも、自ら出向き言葉を頂く必要があります。」
将軍ファウルは、頷いたが怯まずに続ける。
「…王族へは、国の官吏達が働きかけております。それ故、次期に必ず参ります。何とぞ、我が国民を受け入れて頂きませんか!」
相手は思わず頷きかけ、なんとか堪えた。
若い自分にとって、大国の上級官吏相手は中々骨が折れるのだ。
最近何やら物患いをする父が、私に交渉を任せたのには驚いたものだ。
いつもなら、厄介事は大臣か側近に任せているのに…。
その上第4王子の自分で良いのか…?と思ってしまった。
クデルト国第4王子、フォーラムは頭を小さく振る。
(…いや、頭の切れる兄君や、弁の立つ弟王子では無く私なのだ。きっと、何かしら理由があるはずだ。)
妻子に関心の無い父王を思い浮かべた。
ファウルは、黙り込む第4王子を見つめる。
「…拙は国は違えど、民を守る立場は変わらないと存じます。交渉の場を頂き、こうして第4殿下と向かいあったのは薄くない縁かと…。」
今までとは変わり、常人より通る声を抑えたファウルは、静かに語り出した。
「拙は、500年近く生き永らえました。いつ終えても良い命。…しかし、今日正に産まれる命がある。貴国でも違いますまい。……是非、良き計らいを!」
30代ほどにしか見えないファウルを、18歳の王子が見つめる。
(…驚いた。我が国が80年だと言うのに…。500年、か。)
自分に頭を下げるファウルに、フォーラムは何だか落ち着かなく思った。
相手は父王より倍以上生きる人物。
自分が王の子で無かったら、見る事すら無かっただろう。
ファウルは、年若い王子の返答をただ待った。
(…なんとケープラナは情けない。クデルトは4番目の王子でも、他国と交渉が出来るのに…。
数多くいる子息女は、誰1人動かず…。)
ファウルの脳裏には、気だるげに玉座に座る亡き王が思い浮かんだ。
…何故、モリス殿もハンニエル殿も、王と王族をあのままにしたのだろうか…。
いや…今更何もかも遅い。
全ては、アルバンドの苦しみに気付け無かった、我らの怠慢。
ファウルは、この交渉と民を救う事を、官吏人生最後の仕事だと感じていた。
気持ちを整えるべく、ゆっくり息を吐いたのだった。
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