大国官吏と新米王
…正直吐きそう。
紗季は巨大な扉の前で、深く息を吐いた。
アルバンドが城内の上級官吏を呼び集めたのは、城の中央広間だった。
出払っている官吏達も多い為、全員とはいかないが多くの上級役人達が集まったらしい。
緊張で鼓動を速くしつつ、開けられた扉に足を向けた。
レビュートとローマネは、何も言わず後ろに着いて来た。
…まあ、1人よりは良いけど。
部屋の中には長いテーブルと、等間隔に椅子が置いてあった。
若そうな官吏が扉を開けた。
「…ウォーター国王陛下が参られました。」
「ご苦労。」
先ほど聞いたばかりの声に、紗季は足を進めた。
部屋には、アルバンド、他に見た限り上級役人が20人近く待っていた。
…帰りたい。
紗季が入ると、全員がそれぞれ礼をしたり、頭を下げて敬意を表した。
緊張を押し込め、紗季は空いている椅子に腰かけた。
レビュートとローマネは、紗季の後ろに立ち止まった。
紗季が座ったのを確認し、アルバンドが口を開いた。
「…此処にいらっしゃるウォーター国王より、ケープラナへ取り引きをしたいとのお話しを受けました。…重要な話しの為、皆さんにお集まり頂きましたが…。」
アルバンドの言葉に、金髪美少年が声を上げる。
「…うんと~?無知でごめんねぇ。ウォーター国って、どの辺りにあるのかなぁ?」
金髪美少年…ハンニエルの疑問に、他の官吏も同意を示した。
アルバンドが答えようと口を開きかけたが、ある人物の声に口を閉ざした。
「…あの、クデルト国の、あっ…前に位置する…新しい、国でしたっけ…?すみません…。」
ゆっくり途切れ途切れの話し方には、皆何も言わず内容に関心を持った。
「…何故それを?」
驚いた表情のアルバンドに、また自信なさげに返した。
「…各地にいる部下、から…連絡が、あありまして。ある日、突然…その、新しい土地が、出来たと…。」
不安そうな表情の官吏は、しかしその瞳には知性が伺えた。
「ふぅん。そうなんだ~。まあ、ナント君が言うから本当だろうね。」
ナントと呼ばれた官吏は、オドオドと頷く。
「…いえ。」
「それよりも、取り引きというのはどういったものですの?」
柔和な笑みを浮かべた女性官吏が、ゆったりとした口調で紗季に向ける。
…へぇ。女官吏も居るんだ。
内心感心しつつ、軽く息を吸い呼吸を整えた。
「ええ。この取り引きは、この国にも利点があると思うの。」
紗季の台詞に、官吏達の表情が変わった。
…緊張するって!
今までは少人数ゆえの紗季の度胸も、長年生きる百戦錬磨の官吏達の視線に汗をかいた。
……やるしかない。
「…私は、この国の国民を、ウォーターに貰い受ける。」
紗季が言い切ると、目を見張る者、口を開けた者、表情を固くする者が見えた。
若そうな官吏には、唾を呑み込み者もいる。
そんな中で、ローマネは面白そうに瞳を煌めかせた。
(…さあて、どうするのかのう?)
一拍の静寂の後、アルバンドの隣から声が上がった。
「…それは願ってもない申し入れですが〈取り引き〉ゆえ、勿論…貴女様から交換条件があると…?」
30代前半頃の、理知的な男性が淡々と言い終えた。
男性の声には誰も口を挟まず、皆紗季に視線を戻した。
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