気付かぬ変化
紗季の変貌からしばらく、アルバンドは黙り込み考えに耽っている。
時間が経ち、紗季も通常の雰囲気に戻っていた。
紗季は気付いていないが、影から見ていたローマネの見る目は変わっていたのである。
今までは、面白半分に紗季を見ていたが、瞳には探る様な光が生まれた。
また、レビュートは驚いてはいたが、態度自体に変わりはない。
王という存在を理解していないという点もあるが、彼の元来の性格の為である。
アルバンドは自国の王の王気に触れずに過ごしてきた為、動揺を隠せずにいた。
思考を重ねても、良い案が全く思い浮かばない。
とうとう痺れを切らした紗季は、悩むアルバンドに詰め寄った。
「…もう!時間が無いってのにいつまで待てば良いの?…貴方宰相でしょう!すっぱり返事をしてよ、一体何年官吏をしているわけ?」
詰め寄られたアルバンドだが、女相手の拒否反応が出る所では無く、紗季イコール王という方程式が浮かんだ。
アルバンドは、なんとか後ろに下がらず小さく答える。
「……20年です。」
…?意外と短いんだ?
ケープラナって700年なのに…。
「…じゃあ、実年齢は40歳くらい?」
上級役人以上は、神書に書かれてから歳をとらない。
アルバンドは直ぐに首を振った。
「いや、24歳です。」
「へぇ若いんだ……って、はぁぁ?!」
目を丸くした紗季に、アルバンドは少し決まりが悪そうに目を逸らした。
「…俺は、貴族の子弟でしたので4歳から城に上がり、運良く前宰相に見い出され政を師事されました。」
そして、深くため息を吐く。
「…神書に加えられたのは22歳、2年前でした。」
それを耳にして紗季は眉根を寄せた。
…本当に若いんだ。
官吏を貰いたいと思った時、実は宰相も欲しかった。
しかし、あくまで経験の長い人間だ。
「…そう。前宰相はどうしているの?」
紗季の質問に、アルバンドの瞳に一瞬影が過った。
「…今は、宰相では無く王の側近となっております。 ですが、まだまだ政に関しては力を持っておられます。」
なんとなく気落ちした様なアルバンドに、紗季は薄々勘づいた。
…自分の能力への不安。
前宰相への劣等感。
若いから仕方ないのかもだけど。
ふむ、と紗季が思考しているのを見て、何を思ったかアルバンドは顔を引き締める。
「やはり…俺では役不足ですよね。」
「…え?」
…何が??
不思議そうな表情の紗季に、アルバンドは勢い良く背を向けた。
「…暫しお待ち下さい!上級役人方を連れて参ります。」
「え…ちょっと、待っ…。」
固まる紗季を他所に、アルバンドは駆けて行ってしまったのだった。
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