取り引きしましょう
「…ウォーター国?」
アルバンドは紗季の台詞を繰り返した。
「それに……王だと?」
そう…と紗季は静かに頷く。
少し説明した方が良いとも思い、簡単なウォーターの情報も付け足す。
「…ええと、5、6日 かな?それくらい前に出来た国よ。場所は海を隔てた場所。クデルト国の前にある。…私は、その国の王。」
アルバンドは何か考える様に俯き、紗季に戸惑いの視線を向けた。
「…簡単に信じられない。何か証明出来る物はあるのか?」
…あー
そうきたか…。
相手の反応に内心げんなりしながら、懐の厚い書物を取り出した。
「…これでどう?」
「…なんだ、それは?」
「神書。」
はっきり発した言葉に、アルバンドは眉を上げて紗季の手元を凝視した。
「………いや。言われても、俺は神書を実際拝見した事が無い。」
そう言って黙ったアルバンドは、小さい息を吐く。
「…悪いが俺には時間が無い。他に無ければもう良いか?」
…はい?
こっちだって、遊びで来たわけじゃ無いんだけど!
踵を返そうとしたアルバンドに、紗季は口を開いた。
「…確かに物的な証拠は無い。でも、私はケープラナの民に頼まれたから、貴方に会いに来たの。」
「?」
アルバンドは足を止め、眉を寄せる。
「…民に?」
「そう。現在のこの国は、小さな町や村から酷い被害に合い、国も手が回らないのでしょう?だって、王の居ない国は一年経たず滅びるから。」
アルバンドは息を呑み、唇を噛んだ。
「ああ。そうだ。」
紗季はアルバンドに真っ直ぐ目を向けた。
「私なら、助けられる。」
「…本当に、王なのか?」
アルバンドの表情に、初めて違う感情が生まれつつある。
しばらく瞳が交差し、アルバンドの顔つきが変わった。
先ほどまでの半分不審がっていた表情は無く、宰相としての振る舞いを示す。
「先ほど、取り引きをしたい…と仰っていたが?」
…んん?
あれ。食い付いてきた?
紗季は不思議に思いながら、自身も姿勢を正した。
「そう。2つほど。」
…私がここに来るまで考えていた事。
紗季は逃がさないとばかりに、アルバンドに足を進めた。
アルバンドはやはり、身体を揺らして後ずさる。
「ちょ、近付かないでくれ!」
…はい?
紗季は勿論それを聞かず、最後は走り出しアルバンドの腕を掴んだ。
「宰相なら逃げないで聞きなさい。」
至近距離で鋭い視線を向けた紗季に、アルバンドはまた顔を朱に染めて瞳を揺らす。
「…ねぇ、聞いてる?」
紗季が更に顔を近付けると、アルバンドは突然紗季の腕を振り払った。
驚く紗季を尻目に、アルバンドは沸騰しそうな顔を腕で隠し、壁に身体を寄せて座り込んだ。
「…っすまない。俺は、その、女に近付かれるとどうしたら良いか、分からないんだ…!」
…はあ?!
「何それぇ!」
思わず声を上げた紗季は、口をあんぐりと開いた。
…ちょっとそれ。
面白いんだけど。
座り込むアルバンドに、紗季はニンマリ笑みを浮かべる。
静かに近付くと、アルバンドの肩にポンと手を置いた。
「…これも駄目?」
「…っひぃぃ!!」
鋭い目を上げ、端正な顔立ちを崩すアルバンドに、紗季は楽しくて仕方ないと身体に触れる。
「はい。」ポン。
「っ!!」
「こっちは?」トン。
「…ぎやああ!」
アルバンドは半分白目になり、精根尽きそうになり始めていた。
その時、その場に呆れた様な声が掛かる。
「…お前いい加減にしろ、サキ!目的忘れてねぇか?」
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