宰相アルバンド
外見は20代半ば頃の、吊り目の青年だった。
「どうかしましたか?」
青年が周りの官吏達に問うと、すぐに官吏達が口を開く。
「…この案件ですが…」
「…都市部の被害を…」
「災害の悪化が…」
口々に言い募る官吏に、青年は熱心に聞き手元の資料を見ながら答えていく。
官吏達は話が終わるとすぐに、忙しそうにその場から立ち去った。
官吏達が居なくなった後は、青年は真剣な表情で手元にあった紙に、筆で何か書き付け始める。
集中している青年を見て、紗季は少し思案するが最後は決心した。
…聞いてみるか。
レビュートとローマネに目配せすると、レビュートも紗季に着いて行こうとした。
しかし、ローマネがレビュートの肩を掴んで引き留めた。
「…何しやがる、魔族。」
苛立ちを浮かべ眉を寄せたレビュートに、ローマネはただ首を振る。
「いきなり儂とお主も一緒では、あまりに怪しいじゃろう。少しミズハラサキに任せてみよう。…何かあれば、出ていけば良い。」
レビュートはその言葉に仕方なく留まる事にした。
青年は、集中している為、近付く紗季に全く気付いていなかった。
「…ねぇ?」
「!」
声を掛けると勢い良く顔を上げ、紗季を視界に入れると凝視する。
「…!だ、誰だ?」
驚いて目を見開く青年に、紗季はゆっくり近付いた。
「…ええ。少し話が…。」
「っ!」
紗季が近付く度、青年は大袈裟に肩を揺らして後退る。
…何なの?
青年は慌てながら手のひらを紗季に向けた。
「そ…そこまでにしてくれ!それ以上は困る!」
「何で?」
不思議そうに聞きながらも、更に距離を縮める。
青年はとうとう背を壁につけ、視線を横に逸らした。
「…頼む、それ以上は…!!」
必死な青年に、紗季は不思議に思いながら青年を観察する。
…ん?もしかして女嫌いとか?
でも、その割りになんか顔が赤い様な?
耳も真っ赤…。
紗季は青年の制止を無視し、顔を近付けた。
すると、青年の顔が茹で上がった蛸の様に、みるみる赤く染まる。
「…っ!近い近い近い!もうやめてくれ…。」
…しょうがないなぁ。
仕方ないと言う様に嘆息して、少しだけ離れる。
青年はやっと安堵するが、やはり警戒して距離をとった。
まだ赤い顔に、緊張を滲ませて紗季を見つめた。
「…それで、俺に何の用なんだ?」
「うん。」
紗季は頷くと、青年を真っ直ぐ見据える。
「…貴方がこの国の宰相で良いの?」
紗季の言葉に、青年は先ほどとは変わり顔色を戻す。
「…ああ。ケープラナ国二代目宰相、アルバンド・ライトーク。確かに現宰相をしている。」
…ライトークね。
アルバンドの言葉が終わり、今度は紗季が口を開いた。
「…私は、水原 紗季。ウォーター国の王。宰相の貴方と取り引きをしにきたの。」
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