グレそうな2日目
もう朝か…。
窓から差し込む光に、夢では無かったのかと実感し溜め息をついてしまう。勿論寝付くのは遅く良く眠れ無かった為、身体の調子はすこぶる良くない。一度体を起こしたものの、また布団に体を横たえる。
…起きたくない。
しばらくうだうだと布団に潜ったりしていたが、最終的には仕方なく起き上がり、寝台から時間を掛けて降りたのだが。昨日の出来事を思い返し、着替えを終えてから執務室に向かう事にした。
洗濯は、また後で考えよう。
自分以外に誰も居ない空間にすっかり気は緩み、椅子に深く座り込む。机の上に置いていた昨日の読みかけの紙に気づき、忌々しく思いつつそっと手を伸ばす。
「えっと…何々?」
『…まずは国名を決めて下さい。
ちなみに、食料庫の中身は約10年分程です。
その為、10年の内に国民を集めて国を機能させていく必要があります。
最初は側近を決めるところから、始めると良いでしょう。』
そこまで読み進め、沸々と沸き上がる怒りに任せ紙をぐしゃりと握り締めた。
なら、やり方教えろや!ひとつひとつ説明してくれないと、分からないっつーの!…側近か。
もし、ここに人がたくさん居て、この中から選ぶ…なら良いけど。
私以外誰もいないのに、何処から側近でも国民でも集めるわけ?
ゼロからのスタートなんですけど、 てゆうより、マイナス?
たとえ居ても、頼めばなってくれるわけ?
そんな風に悶々と考えていると、外の日は高くなってきていた。そこで仕方なく、顔を上げて執務室から出て行く。誰も居ない嫌に静かな廊下を歩き、しっかりと門を踏み越えた。城壁を出ると、本当に何も無いまっさらな土地が広がる。
これが自分の物って言われても、特に嬉しくは無い。そういえば人はともかく、何で動物もそれどころか虫すら居ないんだろう?
大地からまた視線を戻して城を観察していると、城門に長方形でシルバーのプレートがついている事に気付く。まるで、そこに何か書かれるのを待っているかの様にも見えた。
もしかして…。
頭の中にある言葉が浮かび、口を開く。それはごく自然な事で、どうしてか疑問にも思わない。
「…国の名前は、ウォーター国。」
そう言い終えた瞬間、プレートに『ウォーター』と日本語で彫られていた。
マジか?!
ウォーターという名前は自分の姓の水原から取ったのだが、紗季は文字を凝視した。満足するまで見つめた後、また相変わらず何も無い周りを眺める。
「…やっぱり私がやるしか無いのか。」
そう呟くと、一度城を睨み付け地面を踏み仁王立ちした。
「…やってやろうじゃんかよ!私を選んだこの世界、後悔すんなよ!」
それからは早かった。部屋にあった袋に調理無しでも食べられそうな食料を詰め、城から一番近い山に歩みを進め始めた。
四方の山々までは私の物というならば、それから外側は違うはず。外なら人がいるよね?
近いとは言え、年若い女の足には結構な距離があり約一時間はかかっていただろう。それでも弱音は吐かず、足を進めて山の麓にやっとの思いで辿り着けた。既に夕日が差し掛かった空を見上げ、叫ぶのも疲れ果て唇を引き結ぶ。
1日が早いっつーの!
さすがにすっかり疲労した為、近くの大木を見つけ背中を預ける。その時少し離れた場所の茂みが揺れたが、それには気付かずそのまま座り込んだ。
少しだけ…仮眠とろー。
そう思い、目を錘った。限界を超えて悲鳴を上げる体は少しだけ…の思いなど知らずに、紗季はそのまま熟睡してしまったのだった。
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