思考中
「どうか、お願い致します!!」
泣きながら事情を話した少女に、紗季は口を閉ざした。
…助けてって言われても。
紗季としては、ただキリス・トレガーを連れ戻しにケープラナに来たのだ。
民や国を助けるなんて頭は勿論無かった。
しかし、身体を震わせてひれ伏している少女に、簡単にあしらう事もしづらい。
紗季が戸惑っていると、先にレビュートが口を開いた。
「…おい女。自分の国は自分でどうにかしろよ。…まだ出来たばかりのウォーターに頼ってんじゃねぇよ。」
淡々と言うレビュートには、人間への憎しみだけでは無い様子が見えた。
「…冷たい奴じゃのう…。」
ぽつりとそう呟いたローマネに、レビュートは不快そうに顔をしかめる。
「国を定めねぇ魔族だけには、言われたくねぇ…。」
ネルビアとの言い合いとは異なり、ローマネに対しては侮蔑を露にしていた。
ローマネは特に気にした様子も見せず、ただ頷いく。
「そうじゃな。」
ローマネの態度に更に不機嫌そうになったレビュートは、苛立ちを浮かべ口を曲げた。
紗季はひれ伏している少女に近付き、腰を下ろすと目線を合わせる。
「…貴女の名前は?」
紗季に話し掛けられ、少女は慌てて顔を上げた。
「…父は地方官のメディアテーク・ リケットです。 私は、宰相アルバンド様の召し使いをしております、ナディアルト・リケットと申します。」
ナディアルト…か。
長いなぁ…ナディアで良いか。
「…ん?此処って宰相の邸なの?」
「…はい。」
ナディアの返事に、首を傾げた。
「え…じゃあ、その人に言ったら?町を助けて…ってさ。」
ナディアは力無く頭を横に振る。
「宰相様は、陛下が崩御されてから戻られていません。…きっともう戻れないでしょう。それに、ただの1召し使いが話す機会等…有り得ません。」
そこまで言い、故郷を思ってか、ナディアは嗚咽を洩らした。
…うーん。
あー
うー
むむ…。
腕を組み、眉を寄せた。
考えていると、トレガーの事を思い出す。
元騎士団団長の彼が、城に居る可能性は低く無い。
「…例えば」
紗季は思わず口に出した。
涙を止めたナディアが、紗季に目を向ける。
「…例えば、ケープラナを助けるってさ…何をするわけ?」
紗季の言葉に、ナディアの瞳が希望に輝いた。
「あ…畏れながら、申し上げても?」
「うん。」
返事を待ちナディアは深々と頭を下げる。
「ケープラナの民を、ウォーターの民として受け入れる事でございます!」
…なるほど。
頷きながら、沸いた疑問をローマネに向けた。
「…それってどうやるの?」
「うむ。王がするのは、神書に民の数を書き入れる事。あとは、政を託す…まあ、この国で言う宰相もしくは側近に、【政書】に民の名を書き入れさせる事じゃな。」
…政書?
初めて聞いたんだけど。
というか、民の名をって…
「…全員?」
ローマネは口元に笑みを浮かべた。
「勿論。」
…マジか。絶対吐きそう。
まあ、私が書くんじゃないみたいだけど。
そこまで話し終えると、不安そうに見てくるナディアに顔を向けた。
「…分かった。ちょっと、この国の城に行ってみる。」
そう言った紗季に、ナディアは目を丸くして頭を下げる。
「…お願い致します!」
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