少女視点
私が生まれたのは、ケープラナという大国の田舎町だった。
他の国も、町も知らなかったけれど、私は住んでいる場所が大好きだった。
優しい両親、町の人達も親切で仲が良かった。
父は町の役場で役人をしていた。
国の官吏の中では、一番下だと言っていた。
でも、真面目で皆の相談をきちんと聞く父さんは、立派な官吏だと思っていた。
母はすごく働き者で快活な人。
私達兄弟の事を、いつも考えてくれていて料理上手だった。
小さな弟妹達は、私を慕ってくれて皆可愛いの。
幼なじみのキャルアとは喧嘩もするけれど、お互い大事な存在だった。
15歳の誕生日を迎えた私は、そこまで裕福では無かった家の為に、働きに出ようと決意した。
仕事先は、ある貴族で上級官吏の邸。
運良く召し使いとして雇ってもらえたのだ。
仕事は大変だったけれど、給金も良く仕事仲間とも程よい関係を築き、上手く行っていた。
家族とは定期的に手紙をやり取りしていた。
そんな日々の中、3日前に父から手紙が届いた。
内容を見た瞬間、息が止まりそうになった。
まさか…と思ったが、父は下らない嘘を吐く人では無かった。
「…王様が、亡くなっ
られた?」
父が官吏だからこそ知った事実に、身体が震えた。
…王が亡くなった国は、一年で滅びる。
幼い子どもすら知る常識に、汗が滲んだ。
更に手紙を読み進めると、嫌な情報に頭がクラクラした。
王が亡くなったと同時に始まり出した災害。
田舎であり、大した設備の無い町が被害を受けて来た事。
宮城の官吏は他にしなければいけない事があり、小さな町に構っていられない。
町には凶暴な獣が入り、田畑が荒らされ、有り得ないほどの強風が吹き荒れているらしい。
私は仕事で暇を貰おうと考えたが、私が行って何になるのだろう?
足手まといになるだけだ。
泣く泣く手紙を仕舞い、私は考え抜いた。
城に行き、直接助けを求めよう。
それしかない。
邸の主人は留守の今、それしか方法が無かった。
そんな時だった。
邸の主人に媚びて、宝石類を売り付けに来る商人が訪れた。
小太りでいつも威張り散らす男の為、あまり使用人達は関わりたくなかった。
私は仕方なくお茶を出したが、聞きたくも無い獣人の奴隷の話を始めた。
人と変わらない生き物を殺した話を、楽しそうに話す男に寒気がした。
私が席を外そうとした時だった。
突然、部屋の窓が吹っ飛んだ。
驚いてそこを見ると、雄の獣人が凄い顔で男を睨んでいた。
私は怖くてすぐに逃げ出した。
部屋の外で息を殺していると、しばらくして反対側の扉から部屋に人が入って来た。
顔立ちはまあまあ整った17、8くらいの女の子と黒い服装のたぶん男だった。
何故か妙に人目を惹かされる女の子は、獣人と知り合いらしく話をしていた。
女の子が話せば話すほど、目が離せなくなった。
凛としていて、何故か従いたくなる。
話を聞いていると、信じられない言葉が聞こえていた。
なんと、あの女の子は王様らしい。
それも、新しい国の…。
驚きだったが、それよりも私の中に強い思いが芽生えていた。
私の町を、故郷を、国を助けて!
震える身体を叱咤して、私は部屋に飛び込んだのだった。
.




