それから7日目
紗季が口を開いた時、突然地下牢全体が揺れた。
何事?!
驚いて周りを見たが、原因が分からず戸惑っていると、衣服を直したローマネが天井を見つめていた。
「…上じゃな。」
「え…。」
紗季の声に、ローマネは直ぐに頷く。
「どうやら、これは自然現象ではなく、人為的なもののようじゃな。…上階で騒ぎが起きとるのかのう?」
ええ~!
紗季の驚きとは反対に、ローマネは落ち着いた様子で紗季に向いて来た。
「…では、続きを行うか。」
そう言うと、また紗季を抱き締める。
…良いのかなぁ?
まだ上から音がするけど。
しかし、自力で牢から出られない為、仕方なく動かず待った。
しばらくそうして待ち、なんとなく眠気が襲って来た時、ローマネが顔を上げた。
「…もう良いぞ。」
…本気で寝そうだった。
離れたローマネを見ながら、紗季は身体をほぐす。
「で?どうするの?」
首を傾げた紗季に、ローマネは少し笑みを浮かべた。
「うむ。……こうじゃ。」
言い終えた瞬間、ローマネは牢の一部に手で触れた。
そして、聞き取れない声で何か呟き、格子を何度か擦る。
すると擦った場所からみるみる内に、ビクともしなかった格子が砂と化していく。
…おお~すご!
紗季がその光景に釘付けになっていると、全てを砂にしたローマネが振り向いた。
「…これで出られるぞ。」
ローマネの言葉に、紗季は表情を明るくした。
「本当に?…ありがとう!…でも、貴方はどうするの?」
どっか行くのかな?
ローマネは何故か一瞬止まり、思案顔になる。
「…ふむ、特にないのう?強いて言うなら、魔術が必要な輩の所へ行くくらいじゃな。まぁ、急ぎじゃないがの。」
…いいなぁ。
気楽そうで。
そう思いながら、地下牢屋を過ぎて階段を登っていく。
上から聞こえる喧騒が、次第に近付いて来る。
少し距離のある階段を登り終わり、出口らしい扉に手をかけた。
扉を開ける直前、紗季は思い出した様にローマネを振り向く。
「…そういえば、自己紹介して無かったよね。私は、水原 紗季。貴方は?」
紗季の言葉に、ローマネは軽く頷いた。
「…儂は、魔術士ローマネじゃ。」
…職業つける必要なくね?
不思議そうな紗季に、ローマネは言いたい事を察したのか、紗季に目を向ける。
「何か言いたそうじゃな?」
あ…気付かれたか。
「うん。いや、どっちでも良いけど。…何で職業も名乗るのかと思って?」
その疑問に、ローマネは微かに苦笑した。
「ああ。まあ…………うむ。秘密じゃ。」
言葉を濁したローマネに、紗季は特に追求せず視線を戻す。
ま、いっか。
そんなに興味ないし。
それより、時間どれくらい経ったんだろう。
そして、扉をゆっくり開けて覗いた。
「………。」
そして、ゆっくり閉めた。
深い溜め息を吐いた紗季に、ローマネは首を傾げる。
「どうした。開けぬのか?」
「…わかってる。」
仕方なく、今度は思いきり扉を開け放った。
「…レビュート!」
見失っていた狼人に向かい、紗季は呆れまじりに叫んだ。
その頃には既に日が変わっていたのだが、紗季は気付いていなかった。
.




