魔術の儀式
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「それで…手、額、唇…どれが良いのじゃ?」
美麗な顔に見つめられ、紗季は一瞬返事が遅れた。
「…え、あ…何が?」
魔族ローマネは、そんな紗季に笑みを浮かべる。
「…精力をお主から貰うには、儂の体と同じ箇所を触れる必要がある。…場所によっては、時間が掛かる場合があるがのう。」
やっぱり、無難に手かな?
「…手ならどれくらい?」
ローマネは、考える仕草をする。
「…半日かの。明日の昼までじゃ。」
長い!
「…他は?」
ローマネは頷く。
「…額なら今日中。唇ならほんの少しの時間じゃ。体ごとなら、その中間ほどじゃな?」ローマネの言葉に、紗季は難しい顔をしてしまう。
唇はちょっと…。
いや、確かに美形相手だし、嫌じゃないよ?
でも、一応初めてだからなぁ…。
しばらく黙って考え込み、やっと顔を上げた。
「…わかった。体ごと?っていうのにしてみる。」
ローマネは頷くと、紗季の前に立つ。
「…嫌なら言うのじゃ。」
?
また言ってる…。
ローマネは、腕を広げると紗季を抱き締めた。
…体ごとって、こういう事か。
鼓動を速くしながら、ローマネの顔に目を向ける。
ローマネは浮かべていた笑みを消し、眉を寄せて目を細めていた。
紗季はそれを見て、不思議に思った。
「…精力を身体に移すのって大変なの?」
紗季の疑問に、ローマネはキョトンとする。
「…?何故じゃ?」
「だって、何か辛そうにしてるし。」
違うの?
ローマネは、何とも言えない表情を浮かべたが、顔をスッと戻す。
「…辛いか…顔に出てしもうたか。…確かに、儂は出来ればあまり、触りたくないのじゃ。」
……ん?
「…人嫌いとか?潔癖?」
「否。」
短く答え、ローマネは手に嵌めていた手袋を外し、黒い装束を脱ぎ上半身を露にした。
それを見た紗季は思わず息を呑んだ。
鍛えられ、細身だが筋肉質な体躯には、首元から腕、手の甲、背中にまで及ぶ黒い文様が刻まれていた。
紗季の反応に、ローマネは寂しげに眉を下げた。
「…魔族は生まれ落ちた日、親より魔力を受け継ぐ。魔力は、元来自然と異なる異質な物…呪術を身体に掛けなければ、受け入れられないのじゃ。」
《近付くな!》
《…うわ、魔族だ!》
《気味が悪い…》
《化け物っ》
魔族の寿命は、それぞれ大きく違いがある。
ローマネの一族は短命で、彼以外は既にこの世に居ない。
18年生きたローマネは、一人には誰より慣れていた。
脱いだ装束を戻し、手袋を手に取る。
「…気味が悪いじゃろ?」
薄暗い牢屋の中で、嫌にローマネの声が響き渡った。
そんな中紗季は、ゆっくり口を開くのである。
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