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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
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迷子王


…何やってんだろ、私。

城には遠く及ばずとも、それでも大きな館の地下牢に、紗季は入っていた。


ケープラナは1年を通して過ごしやすい気候の為、寒さで震える事は無いが、牢の鉄の臭いと心細さで気落ちする。


…何でこんな事に。


埃っぽい床を見つめながら、ここまでの経緯を思い出す。


クデルトとケープラナの国境まで着いた時、セラが体調の不調を訴えた。


紗季は近くの宿にセラを置き、ネルビアとレビュートを連れて聞き込みを始めた。


しかし、突然レビュートが何か察知した様に走り出した。

紗季は慌てて追いかけ、その間にネルビアとはぐれてしまったのだ。

更に、レビュートの姿も見失い、気付けば見知らぬ館の庭に出ていた。


そこで館の近衛に見つかり、捕らえられたのである。


近衛に問答無用で牢に入れられたのが先ほど。


そして、今に至る。


…牢に入れられた王様ってありなの?


…うん。

良いよね?


自問自答して、ひとり頷いたが、それを知る者は誰もいない。


…どうしよう?


周りを見ても、遥か上に小さな窓が一つあるのみ。


牢の入口は、三種類の鍵で頑丈に閉められている。


紗季は牢の固い床に座りながら、出る方法を考える。


…はぁ。

ネルビアか、レビュートが見つけてくれれば良いんだけど。

ごめん、セラ。




試しに牢の扉を蹴ったり、殴り叩き続けたが意味は無い。


途方に暮れた紗季が深い溜め息をついた時だった。


紗季の後方から、衣擦れの音が聞こえた。


…?


不思議に思い振り返ると、全身黒いローブの何かが近付いて来る。


「…何?人間?」


好奇心半分、恐怖半分、紗季は声を掛けた。


何かはゆっくりと、紗季の前まで来ると止まりそのローブを少しずらす。


上部のローブをずらすと、何かの口元が露になった。やっと黒いローブが衣服だとわかった。

「…誰?」


紗季の疑問に、相手の口元が弧を描く。


「…人間ではないのう。」

男女、年齢も伺えない不思議な声が響いた。


「…お主、何故ここにおるのじゃ?」


はい?


「…てゆうか、貴方こそいつから此処にいたの?…私は、まぁ不法侵入したから、かな?」


不審そうな紗季に、特に相手は反応せず頷いた。


「…館の主は現在、遠方に出ておるからお主が出られるのは、良くて半年後じゃな。」


…半年後?!

冗談じゃない!


「それって本当?」


相手は笑みを深める。


「会ったばかりの儂の言を、信じるかはお主次第じゃが。」


紗季は少し考えたが、すぐに頷く。


「…分かった。私を騙す意味が分からないしね?」

そう言うと、身体を反転して牢の外側に向いた。


「…誰か来いやー!!こっちは暇じゃないんだから、出しなさーーい!!」


思い切り声を張り上げた紗季に、答える者は勿論居ない。


ローブの者は、口元に笑みを浮かべながら、紗季の側に寄った。


「…お主面白いのう。良ければ手を貸すぞ?」


通常なら怪しむであろう言葉に、紗季は即答していた。


「お願いします!」


あ…でもさ、手を貸すぞって…


「でも、貴方も捕まってるんでしょ?どうするの?」


首を傾げる紗季にローブの者は頷いた。


「なぁに…儂が出られ無かったのは、1人で居ったせいで、術が使えなかったからじゃ。 …それに、魔力と体力も回復したしのう?」


魔力?!


紗季はローブの者をじっと見つめた。


「…貴方、魔族なの?」


「うむ。そうじゃ。」


紗季の驚きとは逆に、ローブの者は淡々と答えた。


マジで?

…だって、魔族って滅多に居ないんじゃ?


「…あと、何で私がいると使えるの?」


「ああ。それはな、魔術は生き物の精力を使う為なのじゃ。…まぁ、お主が嫌だと思えば出来ん。強制は出来んのじゃ。」


精力か…

体力って事かな。


紗季は少しだけ考えた後、口を開く。


「分かった。出られるなら、私の精力?使って。」

どうせ死なないし。


ローブの者は少し黙ったが、ゆっくり頷いた。


「…ふむ。分かった。嫌ならばすぐに言え。」


ローブの者は、紗季の前まで行くと、自身の目深のフードを取る。


それから、一度咳をして声を上げた。


「今より、魔族ローマネは魔術の使用を開始する。」


その声は、低く艶やかで紗季は知らず胸を高鳴らせていた。


しかし、声より心を奪われたのは、相手の顔だった。


濡れた烏の羽よりなお、黒々した髪、切れ長の瞳、通った鼻筋、薄い唇。

少し不健康そうな、青白い肌も気にならない面立ちをしている。




ローマネは、ローブから手を伸ばし、紗季の頬に手を添えたのだった。






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