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ウォーター国創世記  作者: 雪香
3章―ケープラナ動乱編―
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キリス・トレガー視点

やっと、彼の心境が明かされます。


王を刺した瞬間、




全てが終わったと確信した。




刺した時の王の見開かれた瞳が俺を映したのは、一生忘れられないだろう。










「…団長!騎士団長!」



元部下の声に、トレガーは直ぐに顔を上げた。


「…もう俺は騎士団長ではない。そう呼ぶな。それより、殿下や王妃方はどうだ?」


呼ばれた元部下は、苦しげに顔を歪める。


「団長…いえトレガー殿。…殿下方はまだ幼い故分かっておられず、王妃様はただ嘆くばかりで何もなさいません。」


そうか…とトレガーは嘆息してしまう。


「俺はクデルトに救済を求めたが、相手にされなかった。当たり前か。 …それを行うのは、本来王の正妃か子息女だ。」


それに俺の身形を見て、愚弄されたとでも思ったか…?

相手方の王に会うことすら、出来なかった。


元部下は、更に顔を俯かせ重い口を開く。


「…世の決まりとして、神書に書かれた者は一年で元に戻る。国民は半年足らずで自由民に……早くしなければ、ケープラナの民は自由民として生きるのは困難でしょう。」


トレガーは目で同意をすると、直ぐに全く楽しく無い会話を続ける。


「官吏達はどうしている?」


「歳重の文官方は、各地で起こり始めた災害の対処を…。若い官吏達は、遠き各国に向かい働きかけています。」

しかし、クデルト以外の国は馬を走らせても一月はかかる。


その上、ケープラナとの交流を持った事は全くと言って良いほど無い。


王族が立ち上がらない限り、協力は難しいだろう。


「…俺も行く。少しでも役に立たねば。」


元部下は静かに目をつむった。


「…はい。皆分かっております。陛下の崩御は、自ら行った故だと…。」


トレガーは黙って頭を振る。


「…きっかけは俺だ。」


ですが…と元部下は顔を歪めて叫んだ。


「ですが、もうケープラナはおかしかった!旧臣下はともかく、若い官吏達は自惚れて自尊心ばかり高く、あのままいけば、遠からず崩壊していた…。」

「…言うな。何を言おうと変わらん。…俺達に出来る事をしよう。」


そのまま、それぞれの馬に乗り込んだ。


道中、トレガーはかの国を思い浮かべていた。


美しきウォーター国。


山に棄てられた己を、細腕で運び命を拾い上げてくれた人。


…本当は、縋ろうかとも思った。


新しく出来た国だ。

彼女は、王はまだ何も分かっていない。


俺が頼めば、了承してくれる可能性が高い。


それに、ケープラナで側近では無かった自分が、王の側近になるなんてなんと魅力的な響きだ。


簡単な書き置きの後に、《また戻る》とつけ足して城を出た。

しかし、城を出た瞬間俺は衝撃を受けた。




豊穣の土地の、何も無い美しさ。



山に囲まれた清らかな国。


俺は知らず、膝を折って拳を握った。


…なんという愚か者だ。


ここには、純朴で逞しい自由民が民となりえるのに…。


賑々しくひ弱なケープラナの民を、住まわせるつもりだったのか…。


…自分の罪を消したい為に?


俺はウォーター城に戻り、最後の文を消す。


城を出て、深く息を吸った。


この国に、俺は居てはいけない。


まして、ケープラナの民などもったいない。


ケープラナの神書に書き加えられて、35年。


俺は、もっと遅く生まれたかった!


ウォーター国で、彼女を手伝いたかった。

ああ…





そうか。






俺はミズハラ サキに、抱いてはいけない想いを持ったのか。


ふ…と苦笑した。


女人を想った事の無い自分が、まさか他国の王に惚れてしまうとは…。


軽く髪を混ぜ、ウォーターの方角をそっと見た。


願わくは、貴方の幸せを。


愛している。


…サキ。






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