国に戻りました
あの妙な夢から覚めた朝。
後から起きたセラに朝の挨拶をすると、旅支度を整えた。
と言ってもたいした荷物なんて無いが…。
声を掛けてみたがサイラの兄は、やはり何の反応も無い。
皆で朝食を摂り、宿から出るとセラが周囲を見渡し羽を広げた。
バサッ
…おお、圧巻だなぁ。
その様子を見れば、鳥人には人が10人は乗れるという意味が分かる。
羽は大きく丈夫、横にも幅広い。
紗季、サイラと兄、背の高いネルビアが乗り込んだ。
全員が乗り込むと、セラはすぐに空高く上昇し始め、この国へ来た時と同じ様に、凄い速さで元の場所を目指した。
紗季はセラの体調を気にしていたがそれほど時間はかからず、クデルトの見える海辺に辿り着けたのである。
海辺に着くと、紗季は皆に顔を向けた。
「じゃあ、これからウォーター国に向かうから、着いて来てね。」
その言葉に全員が肯定を返す。
そうして歩き始めた時、セラがそういえば…と自分の斜め前を進むネルビアを見た。
「…今さらだけど、何であんたまで一緒にいるの?」
セラの疑問に、ネルビアは微笑んだ。
「いや、だってねぇ。サキちゃんと一緒に居たいからね。」
ネルビアの動機に呆れ、セラはまなじりを吊り上げた。
「そんな事の為に?サキ様、この男帰らせましょう今すぐ!」
「あっははーセラって厳しい~。鳥ってちょい神経質だよねぇ?好きな雄に嫌われるよぉ?」
軽い口調だが明らかに相手を逆撫でする言葉に、セラは怒りに身体中の温度が上がるのを感じた。
「狡猾でズル賢く、冷徹な狐なんかに言われたくないわ!」
言い争っても、私には違いが良く分かんないけどね。
ピリピリした雰囲気の二人に、紗季は口を挟まず放って足を進めた。
…それよりサイラが兄を案じてか、厳しい顔つきで黙っている事が心配。
四方の山を越えた頃、紗季はずっと硬い表情のサイラに向いた。
「そうだ、サイラのお兄さんの名前は?」
「兄貴の?」
サイラは不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに口を開いた。
「レビュートだ。」
そっか…と頷き、紗季は思わず懐の神書を撫でる。
…これしか方法が無いなら。
山を越えると、何もない肥えた土地が広がっている。
「…ここが、ウォーター国だよ。まだ民は居ないんだ。」
紗季の言葉に、一同は周りを見渡す。
ネルビアは一度空気を吸って吐くと、笑みを浮かべた。
「うん。…空気が澄んでいて、良い所だね。」
サイラとセラは興味深そうに、静かに辺りを見ている。
皆の感触の良さに、紗季は安堵して城を目指した。
城まで着くと、紗季は黙って城門をくぐった。
それを見て、ネルビアは何かを察したのか紗季に視線を向けた。
サイラはいぶかしげに紗季を見た。
「…まだ、門兵も居ないのか。良いのか、勝手に入って?」
セラはそれに何かを言おうとしたが、やっと足を止めた紗季に制されて口を閉じた。
皆に振り返り、紗季は1人ずつに目を向けた。
「…城に着いたら言おうと思ったんだ。言うのが遅くなったけど、この国の国王、及び城主は私。ウォーター国王、水原 紗季です。よろしく。」
…距離取られるかな?
沈黙が降りて気まずく思い、顔を見れずに視線を下げていると、誰かの動く気配を感じた。
「…ありがとう。」
その優しく響いた声に紗季が顔を上ると、ネルビアは口元を綻ばせた。
「新しい国の王が君で良かった。…クデルトに言って欲しい事を言って、奴隷を否定した。どれだけ嬉しかったか…ありがとう。」
心からのネルビアの声に、紗季はゆっくり瞬きをする。
…こちらこそありがとう。
私を認めてくれて。
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