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ウォーター国創世記  作者: 雪香
2章―クデルト道中編―
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クデルト王


「…そこの馬鹿、その汚い頭をどけな。」


キレた紗季は、サイラを押さえつける男に向いた。


男は一瞬固まるが、すぐに眉を吊り上げる。


「何だと小娘、生意気を…!」


しかし、紗季は全く表情を変える事はせず、男を見据えていた。


「聞こえる?どけろ、と言ったけど。」


紗季の静かな怒りに、男は知らず背に汗を滲ませサイラから離れた。


「…おい、何言うこときいてんだよ!」


「いや、何か妙に迫力あんだよ?」


男が離れると、すぐにサイラの傍らに近寄った。


「…大丈夫?」


サイラはそんな紗季をまじまじと見つめ、すぐにハッとし身体を起こした。


「…兄貴!」


あ…そうだ。


サイラの言葉に、紗季は顔を上げた。


「…そこの夫人の連れた獣人、見せてくれる?」


紗季の無意識に放つ威厳に、周囲は口を挟まず見守っている。


夫人は身体を震わせながら、連れた獣人を連れ出した。


サイラは繋げてある鎖を爪で切り離すと、獣人の顔を覗いた。


「…っ兄貴!俺だよ、サイラだ!何で、人間の奴隷なんか!」


しかし、サイラの声に相手は全く反応を示さない。


「兄…貴?」


兄の感情の無い表情を見て、サイラは夫人を鋭く睨み上げた。


「兄貴に何をした!人間!!」


紗季も隣で、じっと視線を送る。


夫人は恐怖と緊張でか、口をまごつかせているだけである。


その時、その場に不似合いな声が響いた。


「…奴隷って薬を飲ませて、喋れなくしたり、感情をなくしたりするんだよね!僕も奴隷持ってるから、知ってるよ。ねぇ、爺や?」


そう言ったのは、会場でわがままを言って騒いでいた少年だった。


少年の言葉に、紳士はゆっくり頷いた。


「はい。…薬、というよりは、魔族の呪いを込めた液体を身体に入れる事で、身体の機能が老いる事ですね。」


淡々とつけ足す紳士に、紗季は眉を寄せた。


「…直す方法は?」


「無いよねー?」

「…難しいです。」


二人の答えに、サイラは愕然とした。


紗季は更に眉間の皺を濃くする。


「…難しいとは?」


紳士はそれに小さく頷き口を開く。


「…呪いを解くには魔族の力が必要ですが、魔族は滅多に人前に現れません。しかし、他の方法というのは…もしかしたら、王ならば…。」


王…!?


「それって?」


紗季は真剣に聞いていた為、新たな人物の出現に気付かなかった。


その者は、紗季を後ろから抱き寄せ、耳元に唇を近付けた。


「…俺が助けてやろうか?」


サイラは素早くその者を引き離し、紗季を自分の背に隠した。


「サキに触るな!」


おお!名前で呼ばれた!


内心感動しつつ、相手を観察する。


相手はサイラを見てから、興味深そうに紗季に目を向けた。


「上手く躾てるな?お前の奴隷か?」


…偉そうな言い方だな。


相手の高圧的な物言いに、紗季はサイラを制して前に出た。


「サイラは、いや、獣人は奴隷じゃない。」


堂々と言い放った言葉に、近くに居た奴隷達は一様に顔を上げた。


相手は面白いと言う様に、にやりと笑った。


「面白い女だな。だが、お前にはそこの獣人を助ける事は出来ないが、俺にはできるが?」


相手のその言葉に、サイラは顔を歪めて兄を見た。


「…本当か?!なら、頼む!俺はどうなっても良い!兄貴を戻してくれ…。」


サイラの叫びには目を向けず、相手は紗季を見据える。


「さて、どうする?」


いや、私じゃなくてサイラに言えよ。

てゆうかさぁ…


「…自分にできるって、あんた王なの?」


相手は意味ありげに笑みを浮かべた。


「いかにも。」


まじかい!?

こんなのが…。


「…じゃあ、聞くけど。どうやって助けるって言うの?」


鋭い眼差しを向けると、クデルト国王はゆったりと懐から厚い本を取り出した。


「…これに、その者の名を書けば良い。不老不死となれば、老いが無くなり機能が戻る。」


なるほど。


紗季が納得して頷くが、サイラは焦って王に詰め寄った。


「…書いてくれるのか?!」


いや…と王はサイラを見下した様に見下ろし、紗季に流し目を送った。


「…お前が俺の妃になれば考えてやろう。」


はい?


「…何て?」


思わず固まる紗季に、王は優雅な足取りで紗季に近付く。


「俺は定まった正妃はおらん。だが、今日お前を見て…容姿、雰囲気、気性、と全て好ましく思った。」


艶を帯びた視線に、紗季はなんとも言えない気持ちを感じた。


それまで見ていたサイラだったが、紗季の前に立つと、そのまま王をまっすぐ睨み付けた。


「お前なんかに、サキはやらねぇよ!」


サイラ、ありがとう!

例え、食料としてでも嬉しい!


王は僅かでも余裕を崩さず、サイラに目を向ける。


「…兄があのままでも良いのか?」


その言葉にサイラの肩が揺れたのに紗季は気付き、眉を寄せる。


う…食料〈 兄だよね。

結局は…。


サイラは一瞬眉を寄せたが、後ろの紗季を振り返り、また顔を戻した。


「…兄貴は死ぬほど助けたい!…だけど、俺はそれと同じくらいに…サキも大事みたいだ。」


サイラ…!


紗季は瞳を潤ませて微笑み、サイラの前に出 ると、相手にはっきりと告げた。


「私は、貴方の妃にならない。」


「…良いのか?兄の事は。」


勿論良くないけど、私には大丈夫な理由があるのさ。


紗季はそれは口にせず、王を見つめた。


「…私はこの国の生業が大嫌い、絶対嫌。でも、80年国を保った貴方を否定はしない。それでも、そのせいで傷付いた人が数多くいる事に、関心を持って欲しいと思う。」


そうか…と王は呟き、顔を上げて周囲を見渡した。


「今宵の売買はこれにて終わりとする!皆、直ちに解散いたせ。」


その声に、すぐに周囲は慌てて散り散りに動き始める。


夫人もさっさと獣人を置いて行った。


王は、その光景に呆気に取られた紗季の髪を一房掬い、口付けた。


「…今宵は帰ろう。サキ…だったな。お前の気が変わるのを待つ。俺の名前は、クデルト・レプシェーク。いずれまた会おう。」


そう言うと、衣服の外套を翻して去って行ったのだった。


先ほどの少年と紳士が、その後を黙ってついて行っていた。








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