狼人族
「それで、お兄さんの特徴は?」
紗季の質問に、サイラは周りを見渡しながら答えた。
「ああ。うんと、凄く背が高くて、髪は灰色だ。種族は俺と同じで狼。」
ごめん…犬かと思ってた。
ふぅん…と頷く。
「…兄貴は口数は多くないけど、強くて格好良くて尊敬してんだ。絶対黙って居なくなる事なんて無い!」
サイラの辛そうな表情に紗季は黙って頷くが、そんな紗季にサイラは少し焦って慌て出す。
「っ悪い!手伝って貰って、勝手にこんな話しして迷惑だよな?」
あーそんな事は、ある事はあるけど…。
私はそれより…
「別に?食べられそうだった相手に、普通に話しをされて不思議な感じかな?」
おどけた紗季に、サイラは目を瞬き少し考える素振りをして口を開けた。
「…そういやそうか…。でも、今は特に食おうと思ってないからな?」
…今は?
「…いや、ちょっと?
今は…ってどういう意味?」
…返答次第じゃ距離取らせて貰うぞ!
紗季の言葉にサイラは、紗季に対して初めて笑みを浮かべた。
口の端を上げた男っぽい笑みに、紗季は思わず見惚れた。
「…よく見れば、あんた俺の好みだからな。俺、好きなものは後にする性格だから?」
はい…終了~!
紗季は心の中で盛大に距離を取った。
うん。
こいつの兄貴が見つかったら、さっさと離れよう。
そう紗季が思っていると、近くから話し声が聞こえた。
「…まぁ!私の息子になんて事を!」
「あら、申し訳ありませんわぁ?どうか、この薄汚い奴隷を、これで思う存分気の済むようになさって?」
「ふん。よろしいですわ。ああ、忌々しい!」
そして、鞭で人を打つ様な音が聞こえた。
紗季は気にせず行こうと思ったが、サイラは横目に見てその場に立ち尽くした。
「…っそんな。」
サイラの顔が驚愕に染まったかと思ったら、その場に駆け出していた。
「兄貴!!」
その拍子に、サイラのターバンが外れ てしまった。
露になったサイラの頭に、周囲がざわめいた。
「…獣人族!」
「首輪も紐も無いわ!」
「何故自由にしているんだ?!」
その聞こえる声に、紗季はスッと心が冷えた。
この国に来たがらなかった、ルピアの様子を思いだし、唇を噛みしめる。
サイラは、鎖に繋がれて首輪をされた獣人に抱きついた。
「っ兄貴!なんて酷い事を!」
そして、鞭で打った女を憎悪の籠る瞳で睨み上げた。
「…殺す。」
彼にしては静かな声音に、紗季はすぐに勘づく。
…本気だと。
睨まれた女は恐怖に震え、叫んだ。
「きゃああ!誰か!誰か来て!この獣人に殺される!」
醜い顔をひきつらせ騒ぐ女に、サイラは犬歯をむき出しにした。
その場に、焦った様な数人の男達が武器を手にやって来た。
「…やめないか獣人!奴隷が人間様に手を出すな!」
「…恐かったでしょう、ミカリー夫人こちらへ!」
そう言って女を、サイラから引き離した。
サイラは屈強な男に地面に叩きつけられ、身動きを封じられた。
「…っく!」
そのまま頭を踏みつけられ、うめき声を洩らす。
そんなサイラに、周囲はただ良い気味だと笑みを浮かべるのみ。
カッチーン
そんな音が紗季の頭に響いた。
「何が奴隷だふざけてんじゃねぇーーー!!!」
.




