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ウォーター国創世記  作者: 雪香
2章―クデルト道中編―
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アヤシの森


怪しの森…。


クデルト国の東にあり、朝晩問わず木々が陽の光を遮り、暗黒の暗闇が支配する場所である。

踏み入れた者は二度と戻らず、森に住まう獰猛な獣達に、骨1つ残らず食らい尽くされるのだ。


紗季は、怪しの森に置き捨てられ、ぼうっと辺りを見ていた。


はぁ…マジで身体痛い!

あの不細工最悪!

不老不死なのに、痛みはあるのか…。


心の中で悪態をつきつつも、セラを思い出すと視界が霞んだ。


…ごめんね。

動けるようになったら、助ける!

探しに行くから!


『…もう一度、キリス様に会いたいの。」


そう言ったセラを思い出した。


絶対会わせるから待ってて…。


なんとか寝返りを打ち、痛みに顔をしかめながら、上を見上げた。


見事に生い茂る木しか見えない。


…まだ、昼間のはずなのに…。


どうにも出来ない身体に苛立ち、ため息を吐いた。


仕方なく目を閉じると、軽い睡魔が襲いそれに身を委ねる。


次に気付いた時には、頬に何か温かい物が触れるのに気付いた。


濡れたそれに、紗季は眉を寄せた。


…もしかして、舌?


普通の人間なら焦るだろうが、紗季は落ち着き相手の出方を伺う。


…何か、獣の舌にしては小さい気がするんだよね?


「…私なんか美味しくないよー。」


棒読みで囁くと、相手は気付いて動きを止めた。


暗闇で全く姿は分からないが、相手は紗季の首元を舐めてから顔を上げたようだ。


「ん?いや、俺は人間の女の子が一番好みなんだ~。大丈夫。痛いのは一瞬だからさ。」


紗季にとっては、一度死んだ身。

死ぬ事自体は恐怖じゃなかった。


しかし、今は死ねない。


「…私のやりたい事が終わったら、食べられても良いよ。」


紗季の真剣な口調に、相手は不思議そうに紗季を見つめた。


「…やりたい事?」

(変わった人間だな?いつもなら、悲鳴をあげたり、恐怖で気絶が普通なのに…。)


紗季は静かに頷いた。


「私を手伝ってくれた鳥人を助けたいの。そして、その子の親代わりの人も、探して連れて帰る。」


「…助けるねぇ?」


相手はゆっくりと言う。

そして、紗季の手を取り舌を這わした。


「…事情は知らないけど、人間が鳥人を助ける…ねぇ?よほど大事な奴隷だったんだ?連れて帰るって息巻くんだから、役立ったんだね~。」


殊更のんびり話す相手に、紗季は眉を寄せた。


…ちげぇし!

てか、悠長に話してる余裕無いんですけど!


「…貴方、獣人が売られる場所知ってる?」


紗季の言葉に、相手はじっと紗季を見つめた。


「…知ってたら?」


初めて相手が紗季に興味を示したのを感じ、紗季は暗闇で見えない相手を見上げた。


「…知らないなら今すぐ離れて。知ってたら教えて!サラを助けに行く!」


紗季の心からの声に、相手の雰囲気がサッと変わった。


「… 冗談…。」


相手の瞳が肉食獣の様な光りを宿す。


「…嘘つき。そんな身体で誰かを助けたいなんて絶対無理だよね~?出来ない。絶対無理。奴隷を助けたい…って言うのも嘘だね?自分が死にたくないだけ。」


痛いほど握られる腕に、紗季は顔をしかめながら眉を吊り上げた。


うっさい奴だな!

…会ったばかりの相手に何がわかるってんだよ?


「嘘じゃない。私は死んでも良い。…本当は死にたくないけど、てか死にたくはないよね普通。

…あ。じゃなくて、

セラは奴隷じゃない。」


大きくも小さくも無い声に、相手は更に瞳を鋭くした。


「…嘘だね。」


「嘘じゃない。」


てか、しつこい。

睨まれてるかな?

よく分からないけど。


「…嘘だ。」


「しつこい。本当。」


「っ嘘だ!」


相手は初めて声を荒げた。

その自分自身の声に、相手は微かに動揺して慌てて口調を戻した。


「…人間は皆そう。所詮は獣人を、人並みの扱いはしないでしょう?

…いい加減言ったら許すよぉ?奴隷を助けてやる為だ、って?」


言葉の奥底にある、寂しげな響きに気が付き、紗季は思わず相手の背中に腕を回した。


そして、見えない顔に視線を向ける。


「奴隷じゃない。

貴方は奴隷じゃない。

人間も獣人も、どちらも支配者じゃない。

だから貴方が、人を恐れる必要も無い。」


相手の身体が僅かに震えた。

それから、戸惑う様に紗季の首筋に顔を埋めていた。






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