小国クデルト
※少しご不快になる言葉が出ると思います。
「クデルト…ですか?」
長テーブルのある広間で、食事を始めた紗季はルピアに話しを始めた。
紗季はパンをちぎりながら、ん…と頷く。
「…これが神に貰った世界地図なんだけど。見てくれない?」
ルピアは地図を受け取り、見ている内に眉を寄せた。
紗季もそんなルピアを見て、頬杖を吐いた。
「…面倒くさそうでしょ?」
「…難しいですね。」
ルピアは困ったように嘆息した。
ここウォーター国と、クデルト国・ケープラナ国のある大陸は、完全に海で隔たっていたのだ。
「…うーん。トレガーはどうに行ったと思う?」
ルピアは、そうですね…と、少し考えながら口を開いた。
「そのトレガー殿が人族という事でしたら、一般的には船を使いますね。ただし、船でしたら三日はかかり、傷を負っているなら 短時間での到着は有り得ません。」
…三日!
ルピアの言葉に紗季は目を丸くした。
「じゃあ、早い方法もあるの?」
ルピアは頷いた。
「…はい。例えば、魔族は魔術というものがありますが、これは今回度外視しまして。…きっと、トレガー殿は獣人族を使ったのだと思います。」
「獣人族?」
獣って事だよね?
想像しづらい単語に、紗季は思わず眉根を寄せる。
それに対して、ルピアはすぐに説明を始めた。
「獣人族は、獣と人の両方の特性を持った一族です。忠誠心が高い為、忠誠を誓った相手の命を、忠実に守ると言われます。」
ふぅん…。
それが獣人族か。
「それで、獣人族を使うって?」
「…はい。獣人族の中の鳥人に乗って移動したのかと…。」
ちょうじん?
鳥…人かな?
紗季は食事を続けながら、続きを促した。
ルピアは続ける。
「というのは、鳥人は人ならば10人乗っても、一月休まず飛び続けられると言われています。それに、速さも並みではありません。」
紗季は深く頷く。
「…なるほどね。それでトレガーはクデルトに行ったんだ。」
1人納得する紗季に、ルピアは静かに視線を送った。
ん?
何見てるわけ?
「どうかした?」
紗季が首を傾げると、ルピアは慌てて、えと…と口ごもった。
「それで、陛下はどうされるのですか?あの、クデルトに向かうのですか?」
妙に戸惑うルピアに、紗季は不思議そうな表情を浮かべる。
…何か挙動不審じゃね?
「うん、まあね?今後の為にも、人材探しの為にも、他の国は見たいんだよね。…ルピアも行くでしょ?」
最後の言葉は圧をかけてみたが、それでもルピアの表情は良くならなかった。
紗季は、ますますいぶかしむ。
「ケープラナに行くのは嫌なの?」
紗季の疑問に、ルピアはやっと仕方なく頭を振った。
「いえ。…私が行きたく無いのは、クデルトです。」
…え、そっち?
「何で?」
ルピアは表情を固くしたが、本当に分からない紗季の瞳を見て、息を吐いて話し始めた。
「…クデルト国では、私達魚人族・獣人族等は、良くて愛玩生物…悪くて奴隷なのです。」
思わず紗季の眉間に皺が寄った。
「本当?」
身分制の無い場所から来た紗季にとっては、あまり現実味は無いが、良くない響きが耳に残る。
ルピアは顔をしかめて俯く。
「クデルトは80年程前に出来た国でしたが、王が国の生業と定めたのが人身売買でした。しかし、さすがに他国から反感を買いやりづらくなり、次に獣人・魚人に狙いを定めたようです。」
ルピアは何かを堪える様に続けた。
「獣人は忠誠心があり、魚人は穏やかな性質ですから、扱い易かったのでしょう。その興業は軌道に乗り、クデルトは今に至ります。」
…マジか。
クデルト、何か私も行くの嫌になってきた。
こんなひよっこの王に言われたくないだろうけど、私は絶対そんな方法で国を作らない。
まだ辛そうなルピアに、紗季は軽い口調で話した。
「…じゃあ、ルピアは留守番で良いよ?私が行って来る。」
「…え?」
驚くルピアに、紗季はにこりと笑みを向けた。
「私は、初めて出来た臣下に嫌な思いをして欲しくないし?
だから、待っててくれない?」
ですが…と言い募るルピアに、紗季は目で止めた。
「…ルピア。これは命令。私が戻るまで国を守る事。…貴方は守ってくれると信じるから。」
紗季の脳裏にはトレガーの笑みが過る。
ルピアは紗季の声音に何かを感じ、最後は黙って頷いた。
「…必ず、成し遂げます。陛下のご無事をお祈りしてお待ちします。」
うん、と紗季も返事を返した。
絶対だよ。
ルピア…!
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