消え去った仮側近
紗季はトレガーの居るはずの部屋に、足を踏み入れた。
「戻ったよ~!」
しかし、それに答える筈の人間は誰も居なかった。
…あれ?
不思議に思った紗季は、ベッド、室内、箪笥の裏と目を移したが、人の居る気配は無い。
…トイレか何処か行ったのかな?
そう思い踵を返そうとした時、ベッドの脇にある紙を見つけた。
紙にはウォーター国の王へ…と始められていた。
《ウォーター国の王へ
1人思案した結果、やはりケープラナを思う自分に気が付きました。
今のままでは、とても御身の役に立てるとは思えません。
その為、けじめをつけに行きます。お世話になった恩は生涯忘れません。
キリス・トレガー》
はぁ?!
ちょ待てや!
紗季は紙を握り締めた。
何なの勝手に!
あんなボロボロで何処行ったわけ?
…けじめって何なの?
機嫌が断トツに悪化しながら、トレガーの居たベッドを見つめる。
「役に立ってたっつの……私が1人じゃなくなったじゃない…。」
…お待ちしています。
って言ったくせに。
嘘つき。
しばらく俯いていたが、次に顔を上げた時には目を光らせた。
逃がさねぇぞ、あのヤロー!
紗季は勢い良く扉を開け放ち、城を飛び出した。
何処からともなく、美味しそうな匂いが漂ってきたがこらえ、ある場所に向かった。
その場所に着くと、すぐに駆け込んだ。
「…出て来いや、神ぃー!」
神殿の水晶に触れながら紗季は叫んだ。
のんびりと出て来た神の方は、ヘラヘラと笑みを浮かべていた。
「あれ?どうしたの凄い顔だけど~逆ハーになった?」
…こいつ!
イラッとしながら、紗季はなんとか落ち着き神を見据えた。
「今すぐ、キリス・トレガーの居場所を教えて欲しいの。」
紗季の言葉に、神の瞳が興味深そうに煌めいた。
「…あれ?逃げられたの?」
「はぁ?逃げられてないし?」
紗季は半目になりながら、先ほどのトレガーの手紙の内容を話し、神はただ黙って聞いていた。
話しが終わると、神は軽い口調で話し出した。
「じゃあさ、もう放って置けば?所詮元々は他国の人間でしょ~。また新しい側近探せば良い事じゃない?」
「それは嫌!」
思わず叫んだ紗季は、ハッとして口を押さえた。
そして言い訳するように続ける。
「ほら、すぐ見つかるとは限らないし!美形だし、真面目そうだし!」
「でも、関わっていたの1日くらいだよね。」
神の言葉に、紗季は瞳を揺らした。
そういえば、そうだ。
何で私必死になってんだ?
…らしくない。
…でも
「私がしたいからする。それだけの事だから!
…早く教えて!」
迷いを振り切る様に、真っ直ぐ自分を見る紗季に、神は目を丸くしてから口角を上げた。
「…分かった。彼はね、今はケープラナに続くクデルトという国を通った所だよ。」
クデルト…と繰り返し、紗季は神殿の入り口に向かった。
早足で進んでいた時、何故か突然足が止まる。
そして振り返り一言。
「…クデルトって何処?」
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