20 その後のこと
その後、平静を装ったナツミはそそくさとフレッシュマンの待つアジトへと戻った。予定よりもずっと早い彼女の帰還は不自然なものであり、もちろんフレッシュマンは怪訝な顔をする。
しかしそれは不慮のアクシデントを心配してのものだ。
間違っても彼女を責めているのではない。何かを疑ってもいないだろう。
そんなフレッシュマンの期待と信頼を裏切ったことに対する若干の気まずさはあるものの、今さら彼を相手に隠し立てしても仕方がないことを悟ったナツミは開口一番に頭を下げた。
「カズハのことだけど……ごめんなさい。私の独断で役に立たないと判断したから、そのまま追い返してきたわ」
「それはそれは……ずいぶんと急な話だね」
さすがに驚きを隠しきれない様子のフレッシュマンは困ったように腕を組む。どう返答すべきか迷ったあまり、うんともすんとも言葉が続かない。
対照的にそわそわと落ち着きがないナツミはというと、部屋の中を行ったり来たり。
一から十まで自分の独断で決めたこととはいえ、あの場に放置してきたカズハたちのことで頭がいっぱいで、実のところ気が気でないらしい。
「ちょっと強引な手段に訴えてしまったかもしれない……でもこれでよかったのよ。向こうの世界にいるほうが、絶対にカズハにとっては幸せに違いないもの」
昔のクセで自分の親指の爪を噛もうとしたナツミ。
だが、腕を組んだままのフレッシュマンに見られていることを思い出したらしく、その寸前で指を引っ込める。
子供っぽい部分を表に出したくないのが彼女なりのプライドだ。
「どうやら気に病んでいるみたいだね?」
「そういうんじゃないわ。ただ……腹立たしいだけ」
それもきっと、自分に対して腹を立てているのだろう。
もどかしく思っているのが表情や態度からありありと伝わってくる。
「ナツミ、君はもっと素直なやり方を学ぶべきだと思うよ」
「……あなたが言えること?」
「ふふん、心外だね。まさか私が素直じゃないとでも?」
「少なくとも恋愛面に関してはね」
「…………」
押し黙って何も答えられないフレッシュマンである。
これについては素直じゃないというよりも、単純に照れくさいだけなのだが。なんにせよ、ブラッドヴァンに立ち向かうマギルマのリーダーとしては妙に頼りない人間味のある部分だ。
どんなときも毅然とした態度であることを周囲の人間から期待されているだけに、こうした恋愛面における思春期の少年じみた反応は、一組織を担う彼には不釣合いかもしれない。
それを自覚しているからであろう、いつまでたっても慣れない気恥ずかしさに顔を赤らめつつあったフレッシュマンはわざとらしい咳払いをして話題の転換を図った。
「そうそう、先ほど部下の一人から新しい報告が入ったよ。早ければ今日の夜にも、部分的な市民革命の蜂起があるようだ。我々が極秘裏に横流しした魔法道具を武器にしてね。ふふん、どうやらブラッドヴァンに立ち向かおうとする勇敢な市民もゼロではないらしい」
「小躍りしたくなるほど嬉しい報告ね。……それが今日でさえなかったら」
「おや、置き去りにしてきたカズハのことが心配かい? 大丈夫、あとでこっそり監視役となる人間を何人か向かわせるよ。彼女たちが街を出るまでの安全は、陰ながら保障できるはずさ」
「寄り道せずにゲートを通ってほしいものだわ」
「心配なら君が様子を見に行くかい?」
「……時と場合によっては、ね」
「ふふん」
と鼻で笑ってはみたものの、あまりからかうと、しっぺ返しが怖い。
ほどほどにしておくフレッシュマンである。
「とりあえず我がマギルマとしては、近々勃発するであろう市民蜂起に便乗しておきたいところだよ。正式に手を取り合うべきかどうかは別としても、オドレイヤの敵が増えることは喜ばしいムーブメントだ。この流れを見逃す手はない」
「使えるものは何でも使うってわけ?」
「マイナスでなければね」
たとえ一人ひとりは無力な市民であっても、団結すればそれ相応の力になる。それが数と連携を軸とする組織の力である。
無論、正しく統制されて初めて発揮されるものではあるので、現時点では烏合の衆に過ぎない市民革命団など、現実的にはあまり意味のある戦力には数えられないだろう。
たとえ一人ひとりに魔法道具を配っても、あのブラッドヴァンが相手では到底勝ち目がない。
「一部の市民がオドレイヤに反旗を翻したところで、アヴェルレスにさらなる混乱をもたらすことになるだけかもしれないが……ん?」
どちらかといえば穏やかな雰囲気に包まれた会話の途中だったが、このときフレッシュマンは無視できないレベルの違和感に気付いた。
外部から閉ざされたアジトの一室に、不穏な“流れ”が発生したのである。それは気配と呼べるものだ。
慌てて周囲を取り囲んでいる壁に目を凝らすと、それまで微弱な魔力によって燃焼を続けていたはずの魔術的なろうそくの火が消えていた。ただの灯りではない。これは一種の警報機代わりであり、この隠れ家に近づく不審者を察知すると、自動的に火が消えるよう作られているものだ。
侵入者のやってくる方向が大まかにでもわかるように部屋の四方に設置されているが、それらはわずかな間を置いて順繰りに、やがてすべてが消え失せてしまった。
音らしい音もなく、小さな照明だけを残した部屋は薄い暗闇に包まれる。
「残念ながら、どうやら囲まれているみたいだね」
「……ごめんなさい。私がつけられていたのかも」
肩を落としたナツミが自分への失意とともに嘆息する。
突き放して別れてしまったカズハのことを気に病むあまり、周囲への注意が散漫になっていたことは否めない。隠れ家を突き止めようと敵対組織の尾行者があったとしても、それに気がつけたかどうか。
「責任は自分でとるわ。私が追い払ってくる」
喉元からせりあがってくる強烈な自己嫌悪と彼に対する申し訳なさから、勢いあまって反射的に部屋を飛び出そうとしたナツミだったが、彼女が背を向けきるより前にフレッシュマンが呼び止めた。
いかにも冷静沈着な彼らしい口ぶりで、すっかり敵に囲まれているというのに見たところ慌てた様子はない。
「待ってくれ。さすがに敵もバカじゃないからね。こうやって奇襲を企てているからには、きっと風魔法の対策くらい考えているだろう。ここで君が出るのは危険だ」
「だけど……」
扉の前で一応は足を止めておいて、しかし完全に思いとどまったわけではなかったナツミはためらう。確かにこのまま無策で迎撃に出るのは危険に違いない。なにしろ敵は複数人で取り囲んできている。うかつに姿を見せれば格好の的となりかねないだろう。
彼女は向こう見ずな直情型の人間でもなかったので、どちらかと言えば理知的なフレッシュマンの忠告を振り切ってまで飛び出していく踏ん切りがつかなかったのだ。
「というわけで、ここは私に任せてくれるかい?」
いかにも気取ってそう言って、普段の調子が出てきたフレッシュマンがこれ見よがしに懐から取り出したのは、一冊の古びた書物。
かび臭いうえに表紙は色あせており、もはや格安で売り買いされるような古書にしか見えないが、しかしこれは至高にして最強の魔道具――多大な魔力を一枚一枚のページに秘めた、由緒ある”魔道書”のひとつである。
かつてフレッシュマンが若手幹部としてブラッドヴァンに所属していたころ、オドレイヤには内密で、とある外世界の魔法師から仕入れた一級品だ。
本来ならば閉鎖的な異次元世界でお目にかかれるような代物ではないが、これは強力な魔道書の呪いを恐れた以前の所有者が、安全に処分しようと異次元世界に捨てかかったところを安値で引き取ったものである。したがって入手できたことは偶然でもあったし、現在に至るまで足もついていない。
いわゆる一つの隠し玉だ。
「どこまで効力を発揮するか、お試しの読み切りといこう!」
この魔道書は悲しいかな、贅沢なことに一ページごとの使い捨てである。
そもそもが年代ものであるがゆえに残っているページ数は少なく、すっかり薄くなっていて持ち運びには便利だが、使用できる魔法の数は限られていた。その少ないページの中から状況に応じた魔法を選ばなければならないので、あまり融通が利いた魔道具ではないのが欠点であろう。
「ル・ルーグエ・コンティシパニ!」
各ページに記された呪文や記号などによって、執筆者とイメージを共有することによって魔法が発動する。一度きりの使い捨てとなる即席魔法が多く記されているとはいえ、困難な修行を必要とせず、様々な種類の魔法を使うことができる。そのため、多くある魔道具の中でも魔道書の人気は高い。
ページの欠損や記述の間違い、あるいは悪意あるトラップによって、望みどおりの魔法が発動しないという危険性もなくはないが、それでも余りある魅力がある。
なにしろ執筆者が魔法使いとして優れていればいるほど、その魔道書の所有者は強力な魔法を呪文一つで使うことができるのだ。これを利用しない手はない。
つつがない調子でフレッシュマンが呪文を唱え終えると、見開いた魔道書から黒い影に覆われた大蛇が出現した。その総数はざっと十匹はくだらない。すべて魔力で形作られた獰猛なる大蛇たちだ。
わずかながらの音もなく、ふわりと浮いた姿で中空を這い回って隠れ家を出て行く大蛇。
一匹ずつ散らばって向かった先は、ぐるりと隠れ家を取り囲んでいる襲撃者たちである。
異次元世界ユーゲニアの赤茶けた闇にまぎれ、襲撃に訪れたマフィアの構成員達が、無残にも逆に襲われて容赦なく殺されていく。そのほとんどは突風のように飛び掛ってきた大蛇の存在に度肝を抜かれ、断末魔となる叫び声さえもあげられなかった。
強靭なあごの力で食らいつき、人間の頭ほどはあろうかという巨大な口で飲み込んで、そうして獲物の命を奪うと同時に黒い炎を上げて燃え尽きる。
まるで自動暗殺装置と化した使い魔の一種、その名もル・ルーグエ。
その正体は魔道書による魔法なので、痕跡は何一つ残さない。
ややあって、周囲は静けさを取り戻した。四方に置かれた室内のろうそくに再び火がともり、襲撃者の気配は消えている。
どうやら魔道書に記されていた“迎撃の魔法”が完遂したらしいことを確認して、満足げなフレッシュマンは胸をなでおろした。余裕綽々かつ自信満々にも見えたが、意外にも少しは緊張していたようだ。
「大丈夫?」
「こいつのおかげで私は大丈夫だが、雑魚を相手に強力な魔法を使ってしまったかな? 折角のページが一枚減ってしまったよ」
実を言えば、これは魔法の使用者にも呪いが降りかかるという危険な魔道書であったが、フレッシュマンはある程度の魔法の効果を打ち消すアンチマジック体質を備えており、そのおかげで事なきを得ているのであった。
「……しかし、ここもブラッドヴァンの連中にばれてしまったね。襲撃者が返り討ちされたことに気付いたら、すぐに敵の増援が来るだろう。急いで別の場所にある隠れ家へ移動したほうがいい」
「わかってる。でも――」
カズハたちが無事にゲートを通り抜けて、向こうの世界に帰る姿を見届けておきたかったナツミ。手ひどく突き放したのは自分でも、妹分であるカズハが自分以外にひどいことをされるのは我慢ならない彼女である。
とはいえ、今はそんな余裕がないのも事実だ。
マギルマのボスであるフレッシュマンの居場所が相手に知られてしまった以上、一刻も早く場所を移さねばなるまい。最悪、オドレイヤが徒党を組んで直接乗り込んでくる可能性さえあるのだから。
「……いいえ、行きましょう。今度こそ誰にも尾行されないよう気をつけるわ」
ならば急いだほうがいいと、荷造りもそこそこに隠れ家を後にしたフレッシュマン。もちろんナツミも彼に遅れることなく続いたが、わずかながら後ろ髪を引かれる思いがあったのも否めない。
とにもかくにも現実は動く。
こうして二人はカズハとは距離を置くこととなった。
いたいけなお姫様を抱えるようにして、気合を入れて踏ん張ったアレスタは一人では立ち上がれない様子のカズハを両腕の中に抱えあげた。
幸いにも背負うのには慣れていたためか、あまり苦労はしない。
抱き上げるにしてもカズハの体重は年相応に軽いものだったし、彼女を持ち上げるアレスタだって、まだ腰を痛めるような年齢でもない。
全身に広がる痛みをこらえているのか少女は両目とも固く閉じていて、半開きの小さな口からは呼吸も弱々しく、時折うめいて身をよじった。
ざっと見る限り致命傷はない。
しかし万が一ということもある。
外見上では緊急性がないからといって、あまりのんびりしないほうがいいだろう。
「もうこらえなくていい。ほら、体の力を抜いて」
「うう……」
うなずいたカズハではあるが、さすがに余裕はないらしく声は出てこない。
「マカセテ!」
くるくる旋回して周囲を飛んでいた肩代わり妖精のテレシィが彼女の頬にキスをして、それから小さく上下する胸元に寄り添うように抱きついた。横目でちらりとアレスタの顔を見上げる。それは準備万端の合図でもある。
その小さな妖精の姿を確認して、ようやくアレスタは治癒魔法を発動する。
慌てふためいた様子で気を揉んで見守るまでもなく、ズタボロだったカズハの体は見る見るうちに回復していった。
順調な兆し。問題はなさそうだ。
「やっぱり不思議だぜ、治癒魔法だなんて……」
すっかり元通りとなったカズハは、アレスタの腕の中で穏やかな夢に包まれたような心地でいた。治癒魔法のおかげで体はすっかり元気いっぱいだったが、すぐに心もそうとはいかない。お姫様のように抱っこされたまま、積み重なった疲労のせいか今にも眠ってしまいそうだ。
ひょっとすると、しばらく甘えていたいだけなのかもしれない。
もちろん助けてくれたアレスタへ感謝いっぱい親愛の情がこもった笑顔を向けるとともに、自分のために働いてくれたらしいテレシィを胸元で優しく抱きしめることも忘れない。その姿は飼い猫を抱きしめるチークに重なって見えた。
なんだか本物の妹をもったような気持ちになったアレスタは心穏やかで、このまま彼女を親愛なる身内のような存在として大切に扱いたい思いに駆られた。
つい頬がほころぶのも仕方がないといったところだ。
「ちょっと、何をニヤニヤしてるの?」
イリアスが冷たかった。
しかし確かに、ほうけている時間はない。
もう大丈夫であることを改めて確認した後、ちょっとぎこちない動きになってアレスタはカズハを下ろした。
たかがそれだけの動作に緊張してしまったのは、現場監督と化したイリアスがアレスタの一挙手一投足を見守っていたからであろう。
「ありがとう、またよろしくね」
「モッチロン!」
そう答えて踊るように羽ばたき、くるりと空中で身を翻したテレシィは姿を消した。きっとまた治癒魔法が必要となったときにはアレスタの呼びかけにこたえて出現してくれるだろう。
この二人の間には、傷ついた人を助けたいという共通の思いから、すでに人と妖精の壁を越えた信頼関係が出来上がっていたのである。
そんな二人をちょっと不思議そうに眺めていたのはカズハだ。
人間と妖精、種族を超えた二人の友情に感銘を受けたのかもしれない。
平和や友情とは無縁のアヴェルレスに生まれ育った彼女には、強い絆のつながりが、少しばかり縁遠い光景に映ったのだろう。
そんな憧れをはらんだ少女の気持ちには気付かない様子で、途端に真面目な顔を見せたアレスタはもうすでに次のことを考え始めていた。
そもそもカズハにしたって、いつまでも考え込むようなタイプではない。
いじらしく首にさげた地獄鳥のネックレスを無意識にいじったくらいで、気持ちを切り替えた彼女はアレスタの言葉に耳を傾ける。
「こうなった以上、素直にベアマークへ戻るという選択肢も考えてみるべきかも知れないね。どうやらナツミさんは俺たちのことを追い返したい様子だったし、彼女の言うように俺たちは邪魔者で役立たずなのかもしれない……」
「ちょっと待ってくれよ、兄貴。この状況を放っておけるってのか?」
「この状況?」
「アタシの故郷アヴェルレスが野蛮なマフィアにやられちまっている状況さ!」
子供っぽくいきがって「ふふーん」と鼻を鳴らしたカズハの両目が決意の炎に燃えている。つい先ほど姉貴分であるナツミにこてんぱんにされたことはなかったことにしたいのか、どうやら彼女に宿る負けず嫌いの気持ちに火がついてしまったようだ。
もちろんアレスタもマフィアに蹂躙されているらしいアヴェルレスを簡単に見捨てられるほど薄情な人間ではない。
結成したばかりとはいえ、世のため人のため精力的に活動すると決意したギルドの体裁もある。
「無謀でも無茶でも、不可能なことを言っているんじゃない。ね、兄貴?」
なにより熱い視線を送ってくるカズハの願いを、それが危険だからという理由だけで無碍に断ることはできなかった。
甘えてくる少女を甘やかしがちなアレスタなのである。
「うん、確かに考える必要はあると思う。このまま逃げるのが、本当に正解なのかどうか」
そう言ったイリアスは小首を傾げて考え込んだ。表向きはいたって冷静な表情だが、そんな彼女の腹のうちでは、だまし討ちに近い行為を働いたナツミへの対抗心が無視できないレベルで渦巻いていることだろう。
意外にも彼女は根に持つタイプなのである。
「それはそうかもしれないけど……」
などと、とりあえずアレスタが二人をなだめすかそうとしたところ。
「ふむふむ、なるほど。僕も見逃せないね」
ここぞとばかりにカズハやイリアスへ賛同ののろしを上げたのはニックだ。
すっかり助けるのを忘れていたアレスタだが、意外にも案外しぶとい彼は勝手に起き上がってきた。どうやら彼には治癒魔法など必要なかったらしい。運が良かったのか怪我をしている様子もない。
ひょっとすると先ほどは気絶した振りをして、戦闘に巻き込まれぬよう、こっそり様子をうかがっていただけなのかもしれない。
「なにしろアヴェルレスとベアマークとは、すでにゲートでつながってしまっているんだからね。現時点ではユーゲニアの出来事なんて対岸の火事に過ぎないけれど、いずれ僕らも異次元世界の抗争に巻き込まれることになるに違いないよ。……ほら、敵は熱いうちに討てって言うでしょ?」
「それは鉄ね」
とイリアスが釘を刺せば、
「でも言わんとすることは伝わってきたよ」
とアレスタがフォロー。
「そうそう、つまりやれるときにやるべきことはやっておけってこと」
きざったらしく髪をかきあげたニックだが、当然のように決まっていない。
くしゃみをして顔をしかめた。土ぼこりのせいだろう。
「アタシらが使っていたアジトはまだ残っているはずだぜ。とりあえずみんなで移動してから今後のことは考えることにしようじゃないか、兄貴」
「うーん、そうだね。ここにこのまま突っ立っているよりは、ずっとましだろうし」
「――打倒オドレイヤのための今後の作戦を、ね!」
と元気いっぱいな声で言って、カズハはいつものようにアレスタの背に飛び乗った。がっちりしがみついてしまったので、こうなるとアレスタはもう彼女の言いなりになるしかない。手綱を握られた馬のようでもある。
ちなみにイリアスにしろニックにしろ、もともとベアマークの騎士団に所属していた騎士であるからか、理不尽に民衆を苦しめるマフィアが敵となれば、正々堂々と真正面から戦おうとする勇敢な気概に満ち溢れているらしい。
よそ者だからといって、無視を決め込むつもりなど微塵もないようだった。
実を言えばちょっぴり慎重派でマフィアと戦うことに消極的だったアレスタは内心、これは結果次第によっては評価が分かれる決断になりかねないだろうな――と不安半分に思った。
いくら便利屋ギルドとはいえ、たかが四人で相手取るには敵があまりにも巨大すぎやしないか。
少なくとも、このままカズハを危険なアヴェルレスの抗争に関わらせ続けてしまうのは、保護責任者としては浅はかな考えにも思えた。
それと同じくらい、悪の親玉であるオドレイヤをやっつけたいという彼女の願いを聞き届けてあげたい気持ちもあったので、結局こうしてアヴェルレスの抗争に身をおくことにしたのではあるが……。
もちろん、これからのアレスタたちの活躍によってアヴェルレスに解放がもたらされるのなら、代償として多少の危険くらいは覚悟のものだ。
それこそ、自分の有する治癒魔法が打倒マフィアのため役立つことに期待せずにはいられなかったのである。




