16 対峙するとき
アレスタとイリアスがリンドルに足を踏み入れたころ、すでによからぬ事態が始まっていたのは自明のことであった。
二人は誰に聞くまでもなく、空気感染する病魔のようにして村全体に広がった不穏な雰囲気を、頭で考えるより先に肌で感じ取っていたのである。
しかしながら、そのときの二人には、リンドルを不安にさせている直接の原因がわからなかった。こうして急いで隣の村まで駆けつけたのは、町で確認した主義者リストの名前の中に、リンドルに滞在中だったブラハムの名を見つけたからに過ぎなかったのだ。
何よりもまず状況を詳しく知らなければならない。当てもなく情報収集を進めたアレスタたちであったが、意外にも早く原因を見つけることとなる。
このリンドルに不穏さをもたらしている元凶。
つい先ほど村に到着したばかりのころは漠然としか様子がわからなかった二人だが、すれ違う村人達から情報を集めていくうちに大体の事情を把握した。
半信半疑ではあるものの、まさか騙されているわけでもないだろう。
どうやら村はずれの森に巨大な怪物が出現したようだ。
一つの胴体から伸びる八つ首のヘビというそれは、まさしく噂に聞くデビルスネークと思われた。リンドルの伝承にも残る、凶悪な怪物である。
あまりリンドルの地理には詳しくなかったとはいえ、デビルスネークが出たという場所はおおよその見当を付けている。総面積が広いとはいっても大部分が農地や山林なので、そう入り組んだ村でもない。
重い騎士の鎧を全身にまとっているイリアスを少し後方に従えて、あせり顔のアレスタは先頭で風を切って走った。
「アレスタさん、あそこ!」
それまでアレスタのあとを追いかけるようにして走っていたイリアスが、前方の空へと真っ直ぐに指を差して叫んだ。
なるほど、確かに異様なものがある。
彼女が示した方角の先には、黒々と立ち上る煙のように、ゆらゆらと空に向かって伸びる八つのヘビ頭が見えたのだ。
ここに来てアレスタは確信する。あれはデビルスネークに相違ない。
てんでんバラバラに逃げ惑っていた村人たちから聞いた噂の通り、尋常ならざる相当の大きさを誇っているようだ。
空へと伸びるように八本あるのは、どれも見慣れたヘビの頭ではある。とはいっても怪物の頭はすべてが樹齢数千年に及ぶ巨木に等しい大きさや太さをもったスケールなのだから、たかが人間ごとき丸呑みで殺してしまえるに違いない。
具体的な対策もなく怪物のもとへ向かっていたアレスタたちだが、さすがに返り討ちされるのではないかと警戒を強めていた。
あまりに桁が違いすぎる。果たしてアレスタとイリアスのたった二人だけで、あの大いなる怪物を相手にして何が出来るというのだろう。
遠くからでも肌身に突き刺さるほどの、それはもう凄まじい殺意の波動にぞっと寒気を感じたためか、ほんの一瞬だけ足が止まりかけた二人は顔を見合わせる。だが不安もここまで、今まであった村の懐かしき平穏を思えば、今さら敵を見逃して引き返すわけにもいかない。
村人から聞いた話によれば、すでに村の若者数人がデビルスネークの足止めに向かったらしいのだ。ならば遅れて村に到着したアレスタたちも、ここは急いで駆けつけて、果敢に戦う彼らに加勢するべきだろう。
いつしか薄く延び広がった灰色の雲は空を暗く覆い隠してしまい、わずかな陽光が切れ切れに雲の隙間から村を照らしつける。
自然豊かに鮮やかな色をしているはずのリンドルからは、ありとあらゆる生命が活力を奪われてしまったようで、今や風に乗って聞こえてくる音はただ一つ、なにやら怪物のものと思われる不気味な鳴動だけだった。
うなり声を上げるように吹きすさんだ激しい風には、どこか鼻を突く強烈な異臭が混じり、アレスタとイリアスは食虫花に魅せられ惹きつけられる羽虫がそうするように、ほとんど一直線でその悪魔の怪物デビルスネークのもとへと走った。
ひとえに彼らは必死であり懸命で、ひたすら怪物のもとへ一気呵成に駆け抜けるあまり、他には何も考える余裕がなかったのだ。
命知らずと言って、強敵に挑む彼らを責める義理はない。
無謀でも無茶でも、そこにはたたえられるべき正義感と勇気があった。
ところで長らく人々に恐れられてきたデビルスネークとは、悪魔の怪物とも呼ばれることもある大蛇の魔物である。一つの一つの首は独立した別個の生き物として動きながら、余裕で大人を丸呑みにするほどの大きさがある異様の怪物だ。
そんな首が合計で八つもある特大の怪物なのだから、その全体像から浮かび上がる迫力はすさまじく、常人なら圧倒され立ち尽くすことだろう。
デビルスネークの山のように重々しい巨体は轟音を立てながら、まるで大地に新しく河川を掘るように蛇行して進む。その都度ごとに巻き上げられる砂煙が、霧や霞さながらに立ち込める。轟々と地鳴りのような振動は足元を上下に揺らして、普通に立っているだけでも心を落ち着かなくさせる。
人知を超えたデビルスネークの異形さを前にして、ほとんど目が釘付けだったアレスタとイリアスは、そこにいる一人の人物の存在に気が付くまで、かなりの時間がかかったに違いない。
ベアマークから駆けつけた二人の接近に気が付いたのか、ズズッと地面にめり込むようにして立ち止まったデビルスネーク。安全圏と期待しうるほどの十分な距離を置いて、様子を伺うしかなかったアレスタとイリアスも二人並んで立ち止まる。
そしてデビルスネークと正面から向き合って初めて二人の目に入った、とある一人の男性の影。
怪物の傍らに飼い主のごとく立っていた男。
彼の耳元へはっきり届くようにと、呼吸の乱れも構わず力の限りに大きな声で、批判的に問いただすようにアレスタは叫んだ。
「ブラハムさん! どうしてあなたが!」
デビルスネークの左隣にすました表情で立っていた人影とは、間違いなくブラハムその人だった。放浪の魔法学者としてリンドル自警団の顧問に抜擢されたという、召喚魔法師エイクの師匠にも当たる人物だ。
先日リンドルを訪れたアレスタもブラハムとは顔を合わせており、そのときは彼の言い分を信用して別れたのであった。
もちろん、彼が自称どおりの人物である保障は何もない。
町で得た情報と、目の前の状況――。
もはやブラハムへの親しみを装うこともせず、アレスタとイリアスの両名が彼に対して向ける目は、露骨なまでに疑いと敵意を含んでいる。
「……おや?」
彼らの登場を予想していなかったのか、小首を傾げたブラハムは意外そうな顔をしていた。この状況、もうすでにアレスタたちとブラハムが敵対関係にあることは理解しているだろうに、ずいぶん間の抜けた様子である。
覇気がないとアレスタは思った。
しかしそれは間違いである。
「飛んで火に入る夏の虫、ということかな」
大胆不敵。ブラハムはすでに己の勝利を確信していたのだ。
だが無理もない。なにしろ今の彼には、天を揺るがす怪物デビルスネークが付いている。
その怪物の相手を畏怖させる堂々たる威容、その強靭さといったら、統率のとれた町の騎士団が束になってかかっても一騎当千同然で、まるで歯が立たない可能性もあるほどだ。
十年前、ここリンドルの地に突如として出現したデビルスネークは不完全体だったという話だが、それでもブラハムには、今回の召喚こそは完璧に成功したのだと考えていた。
確かな根拠はないのだが、もはや後戻りするつもりのない彼は召喚の成功を信じて疑おうとはしなかった。
「……その言葉、この騒動の主犯格があなたであるということを、私たちに自供しているのだと考えてもよろしいのですか?」
尋ねたのはイリアスだ。
良くも悪くも気ままな自由人であるアレスタとは違って、人一倍責任感の強いイリアスはギルドの事務仕事で日常的に忙しかった。そのため彼女はほとんどベアマークを出ず、リンドルまで頻繁に足を運ぶことがなかった。
そんな彼女にしてみれば、最近になってリンドルに滞在し始めたというブラハムと顔を合わせるのはこれが初めてのことだから、人当たりのいい穏やかな彼の普段の様子を知らないこともあって、その胡散臭さを直感的に嗅ぎ取ることができたのだろう。
初対面の相手だからなのか形式的に敬語こそ用いていたが、つんと澄ましていて突き刺さるようにとがった声色に、不審者と見なした彼への敬意などちっとも含まれていなかった。
それを見越してのことか、ごまかしは無駄であろうと肩をすくめたブラハムはあっけなく白状する。
「今さら隠しても仕方がないからね、それは認めよう。このデビルスネークを召喚したのは私だよ。……無論、したがって君たちがこいつを退治するというのならば、すなわち私は君たちの敵になる」
そして彼からの問いかけはこうだ。
「さて、それで君達はどうするかな? おとなしく引き下がってくれるのかな?」
もちろん正義を貫くイリアスの返事は一つである。
悪役に肩入れする義理はない。
「それは残念です。あなたとは初顔合わせですが、容赦はしませんよ」
聞こえよがしに嘆息を一つ漏らして、唇を結んだイリアスは腰に提げた剣に手をかけた。すっと腰を落として姿勢を低くするや、その透き通った目がブラハムを射抜く。
悪、即、斬。
義憤に駆られたイリアスは問答無用で切りかかろうと、離れた場所にいるブラハムへと大きく踏み出すため、その直前の呼吸を瞬時に調整した。
ところが、いざ――という段になって、これを実行することができなかった。
なぜなら彼女のそれを制するように、いかにも真面目な顔をしたアレスタが一歩前に出たからだ。
なにやら考えがあるらしい彼は、イリアスの顔にちらりと視線を送る。
「ちょっと待ってくれ、イリアス。俺はブラハムさんに尋ねたいことがある」
ここ最近は気まずさを覚えつつあったアレスタからの頼みとあって、なかなか断ることも出来ずに渋々ながら首肯したものの、結果として出鼻をくじかれる格好になったので、不平不満の一つくらいは物言いたそうに、訝しげな目をアレスタに向けたイリアス。
注意深く見ればわかるが、少しだけ頬も膨らんでいる。
それもそのはず、すっかり意気込んでいた臨戦態勢の彼女にしてみれば、いきなり横から邪魔をされたことが無粋かつ不服だったのだろう。
だが、どこ吹く風のアレスタは愛想笑いを浮かべてイリアスを上下する手でなだめると、今度は距離を隔てたままブラハムの正面に立って、その男の顔を注意深く観察した。
もちろんアレスタの行動を怪訝に思ったのはブラハムも同様である。
そっと持ち上げた右手であごに生えた無精ひげをなでつけながら、どこか挑発的に小首を傾げた。
「ほう、私に質問が? いいだろう、言ってみたまえ」
「……そこにいるデビルスネークの足止めに向かったという村の青年達は? そして、この村の自警団リーダーであるエイクさんはどうなった……?」
「ああ、そのことか。彼らなら、あっさり全滅したよ」
悲しむこともなくブラハムは首を横に振った。
そして飄々と続ける。
「そう時間をかけることなく、この村も一人残さず壊滅するはずさ」
それを聞いたアレスタは黙っていられなくなった。
足止めを狙った青年達は全滅したとブラハムは言ったが、全滅させたのは間違いなくブラハムの仕業だ。それを悪びれることなく言った彼のことが、どうしてもアレスタには許せなかった。
正気の沙汰ではない。
ふと湧き上がった激しい怒りに身を任せて、いっそ駆け出して殴りかかろうとした。あの澄ました顔に一発おみまいしてやりたかったのだ。
しかしアレスタは寸前のところで思いとどまる。
己の激情と悔しさに流されまいと歯を食いしばって耐え、強くこぶしを握り締めると、なんとか冷静に頭を働かせようとアレスタは尽力した。
いくらアレスタが自分の正義を信じているとはいえ、感情的な行動が必ずしも最善の結果をもたらしてくれるわけではない。
彼は自分のことをよく理解していた。
残念ながら今のアレスタでは未熟で頼りなく、デビルスネークを味方につけたブラハムとは正攻法で戦って勝てるとも思えなかったのだ。
「どうかアレスタさん、下がっていてください。あなたは戦闘に向いた人ではありません。この命をかけて、ここは私が彼らを切り伏せます」
そう言ったのはイリアスだ。
凛とした美しい声と、背筋のすらりと伸びた頼もしい風貌は、まがまがしい怪物を前にしていながら、まるで恐れを感じさせない戦乙女の勇ましさがあった。美しく可憐な女性の命を懸けた悲壮な覚悟というものは、見るものを圧倒する説得力がある。部外者に半端な口出しを許さないのだ。
頼もしい彼女を振り返ったままで、アレスタは言葉に迷う。
そんなアレスタの様子を傍目に、颯爽と歩み出たイリアス。両腰に提げた鞘からそれぞれ剣を抜き出すと、ベアマーク騎士団の在籍中に鍛錬し続けて修得した父親譲りの二刀流の構えにて、村を襲わんとする敵と相対する。
どちらかが動けば殺し合いが始まり、結果としてどちらかが確実に死ぬ。
そう感じさせるほどの向き合いは、ものの数秒。
極度の緊張感を前にして耐えられず息を呑み、アレスタは思った。
彼女がここまで懸命になる理由を、考えたのだ。
しかしそれはすぐに想像することのできる話だった。
なにしろ彼女の父であるカインは今から十年前、ここリンドルにおいてデビルスネークが召喚された事件で重傷を負い、それから現在まで意識不明のまま町の病院で眠り続けているのだから。
そんな誇らしい騎士であった父の後を継いで、ベアマーク騎士団に入った彼女のことだ。
いろいろあって騎士団からは脱退してしまったが、今こうして因縁の敵であるデビルスネークを前にして、おそらく十年前の戦いの果てに相打ちとなったであろう父の無念さを晴らそうとして、意地を張るほど躍起になるのも無理はない。
――だが、これではいけない。
ここに至ってアレスタは焦り始めた。
いくら剣の腕が立つとはいえ、さすがにイリアス一人では勝ち目がない。アレスタの治癒魔法は確かに強力だが、その魔法の効果は自分自身に対してのみ有効であり、イリアスの負傷まで治癒することが出来ないのである。つまりアレスタには前線に立つ彼女をサポートすることが出来ないのだ。
では、どうすれば勝てるのか。
この絶望的な状況で安全に勝つための方法をアレスタは考えて、しかし何も思いつかず、結局は考えるよりも先に体が動いていた。
「下がるのは君のほうだ、イリアス! ここは俺が時間を稼ぐよ!」
横合いからイリアスの前へと転がるように飛び出して、驚いた彼女の前で左右に両手を広げたアレスタは仁王立ちすると、あたかも壁か盾のようになることで彼女の身を庇った。
実際、彼はイリアスにとっての堅牢たる盾となるつもりだった。
こうやって彼女の前に立ってあらゆる敵の攻撃を防ぎ、それによって自分が傷を受けたとしても構わない。何度でも何度でも己への治癒魔法を繰り返すことによって、とにかく時間を稼ごうと考えたのである。
もちろん攻撃手段にならない治癒魔法だけでは悪魔の怪物を退治することなど夢のまた夢であり、これが最善の策であるとまでは、さすがのアレスタも考えていない。
悪く言えばごまかしの、とっさの思い付きだ。
「馬鹿なことを、あなたは!」
さすがに仰天したイリアスは思いとどませるように叫んだが、叫んだきりで、バカなことを考えているアレスタの背をじっと見詰めたまま、どうしてもすぐには動き出せなかった。
今まで勇敢に振る舞ってきた彼女には思いがけないことだが、突発的な恐怖によって足がすくんでいたのだ。
それは、悪魔の怪物を相手にすれば自分が死ぬかもしれないという直接的な恐怖のせいでもあった。
しかしそれ以上に、この場で体を張って守ろうとしてくれたアレスタの好意を否定することへのためらいと、そんな心優しい彼を助けるための手段を思いつけない自分に対する不安もあったのかもしれない。
自分の代わりにアレスタが傷つく姿を想像すると、彼女も同じように傷つく気がした。身を挺して彼女のことを助けてくれたのだと思えば嬉しい反面、傷を負う羽目になる彼を見捨てるようで心苦しい。
そんなふうに彼女の身代わりになろうとするアレスタに対してイリアスは申し訳ないと思いつつも、心の一方で、なにがなんでも彼女を庇おうとする彼の姿に男性としての頼もしさを感じており、その強さに甘えたいと願ったのも事実である。
おそらく直前まで彼女は因縁のデビルスネークを相手に決死の覚悟で張り詰めていたからこそ、それをやわらげてくれたアレスタの献身的行動が身に染みて、けれど同時に彼女の胸を締め付けるような混乱を生じさせてしまったのだろう。
かつては騎士として最前線に立って戦ってきたイリアスにとって、こうして彼女の身を案じて献身的になってまで守り抜こうとする男性の姿は、そう、不思議な懐かしさとともに恋焦がれるものがあった。
――幼いころに見た、あの頼もしい父さんの姿?
――どうしてだろう、この胸の高鳴りは……?
そんな彼女の内心における動揺など露知らず、唇を噛み締めたアレスタはブラハムをにらみつけた。
デビルスネークは命令を待っているのか、未だに動き出さない。
「ほほう、君が相手をするのか。……よかろう」
そう言ってブラハムは勝ち誇った笑みを見せる。右手を肩ほどの高さに挙げて怪物を手招きし、同時に重々しく右足を踏み出した。
想像より長引いてしまった会話に痺れを切らしつつあったブラハムは、いよいよ攻撃に転じようと行動した。つまり、デビルスネークに彼ら二人への攻撃の命令を下すつもりで、言葉によらず、自分が率先して動き出したつもりだったのである。
しかし主従関係を結んだはずのデビルスネークはといえば、攻撃の合図を出したブラハムに同調することがなかった。
それぞれに長きデビルスネークの八つの首は、そのすべての瞳をアレスタに向けると、なにやらもの言いたげな様子で眺めるばかりで、そこから決して動き出そうとはしなかったのだ。
威嚇のためではないデビルスネークの鳴き声が発せられたのか、どこか沈痛さを感じさせる音があたり一面の空間へと、かすかに搾り出されるようにして響き渡った。
残念ながら相手は悪魔の怪物だ。
ゆえに言葉こそわからないが、まるでこちらまで悲しみが伝わってくるような、そんな説明しがたい不思議な感覚がアレスタを襲った。
「……あの怪物、もしかして泣いているのか?」
「はっはっは。怪物が“泣く”とは、実に面白い表現をしてくれるね」
何がおかしいのか、立ち止まったブラハムは愉快そうに笑っている。同じく立ち止まったまま動き出そうとしないデビルスネークを振り返りつつ、肩をすくめて微笑を浮かべるのだ。
「あぁいや、しかし間違ってはいないのかもしれないね。ベアマークに住む君の顔を見て、最愛の人のことを思い出したのだろう。それは泣きたくもなるさ」
「最愛の人? ……なんのことだ?」
「いや、君は知らないほうがいい。知らないほうがいいし、私も教えるつもりはない」
強がって言ったブラハムだが、内心では焦りもあった。虚勢である。
――私の言うことを聞かない?
すました表情には余裕の色を貼り付けながらも、気持ちの悪い冷や汗が一滴、たらりと垂れるようにブラハムの背筋を流れた。
さすがに不安を感じているのだ。
デビルスネークがブラハムの命令を無視して暴走する可能性は事前に考えていたが、命令を無視して動き出さなくなるという可能性を考えてはいなかった。まさか悪魔の怪物が「単純な破壊の装置」としても使うことができないとは、計画の最初からデビルスネーク頼みであった彼にとって、あらゆる勝算を失うほどの大きな誤算だった。
だからこそブラハムは考える。
――とにかく時間を稼がなければ……。
ここに至り、図らずも両者の思惑は一致した。
「……だが、そうだな。これだけは君たちにも教えておこう。私がデビルスネークを召喚した理由だ。これを聞けば、もしかすると君たちも私の計画に賛同してくれるかもしれないからね」
まず口を開いたのはブラハム。
用心のため懐に手をしのばせつつ、その一方では敵意を隠した穏やかな口調でもって、慎重に様子をうかがいながら二人に語りかけた。
あちらから教えてくれるならと断る理由もなかったアレスタは彼の意見に首肯すると、やはり警戒したまま首の動きだけでイリアスを振り返り、こっそりとブラハムには聞こえない程度の声量で言った。
「イリアス、どうも向こうの様子が変だ。何か考えがあるように見える。しばらく彼の話を聞く振りをして、攻め込みやすい隙ができるのを待とう。でも、チャンスがあったらいつでも頼むよ」
「わかりました」
「よし」
優しい顔でイリアスにうなずいて、アレスタはブラハムに向き直る。
その目には余裕――しかし、虚勢を張っているのはお互い様だろう。
「それじゃあ、聞かせてもらおうか。どうしてデビルスネークを召喚したのかを」
「当然だとも」
快く答えたブラハムはさりげない仕草でデビルスネークを見上げる。調子を確認したのだが、やはり怪物は止まったままで動き出しそうにはない。
何か生物学的な問題が生じたのか、それとも魔力の不足から活動を制限されているのかも判断が付けられず、結局ブラハムは仕方なしに説明を始めるしかなかった。
思い通りにならない苛立ちと苦々しい思いを心のうちに隠しつつ、内心の不安と焦燥を決して敵である二人には気取られぬようにと、気を取り直したブラハムは流暢に言葉をつむぐ。
「そもそもデビルスネークとは何か。この姿を見てくれればわかるだろうが、これも一種の召喚獣であることに間違いはない。……だがね、ただの魔獣とは次元が違う上級の怪物なのさ。自然界に存在するすべての魔力を吸い尽くして、やがて世界を滅ぼすほどの可能性を秘めた、文字通り悪魔の存在だよ」
それを聞いたアレスタは息を呑んで、恐る恐るデビルスネークを見上げた。
悪魔の怪物。そう形容するにふさわしい禍々しきオーラが漂っているのは事実だ。こんなものと普通に戦ったのなら、たかが人間には勝ち目などないように思われた。
――しかし、ならばなぜ襲ってこない?
相手を必要以上に刺激しないよう留意しながら、慎重にアレスタは尋ねる。
「世界を滅ぼす怪物を召喚するなんて、いったい何を考えているつもりだ?」
「……ふっふっふ」
これも時間を稼ぐためなのか、いっそ聞いていて気持ちいいくらい不敵に笑った後、もったいぶったブラハムは穏やかに宣言する。
「世界を書き換えるのさ。魔法の存在しない、新しい世界を誕生させるためにね」
「魔法の存在しない世界を誕生させる? ……もしかして、そのためだけにデビルスネークを使役すると? まさか最終的にこの世界を滅ぼすつもりなのか?」
その発想がないアレスタには彼の言葉が信じられなかった。
しかしブラハムは本気である。
「世界を滅ぼす、か……。もちろん結果としてはそうなるだろうが、目的は別にある。私が狙うのは、あくまでも魔法の根絶さ。人が死ぬ? 世界が滅びる? そんなのは弊害だね。平等なる世界の実現に至る副作用のひとつだよ」
「……弊害? 人が死ぬことが弊害だって?」
我慢して聞いていられず、アレスタは前のめりに食いかかった。
「仕方のないことだとでも言いたいのかっ?」
どちらかといえば田舎で世間のことを知らずに育ったアレスタは特別な存在だが、少なくとも一般的にいって、普通の人々が魔法の存在を憎むのは珍しい感情でもない。
そもそも何かを、たとえば拒絶するほど憎悪するという心の反応は、なにも対象を魔法だけに限ったものでもないのだ。
愛もあれば、同じくらいに激しい憎しみも存在する。
それが人の情というものである。
権力、金銀財宝、恋敵、あるいは虫や雨といったものですら――どんなものでも憎む人間は存在するだろうから、いちいち例を挙げればきりがない。親友でも親兄弟でも、それを殺したいほどに憎悪する可能性が決してないとは言い切れない。
だが、それにしても反魔法連盟は過激である。
魔法が憎いから、魔法使いを殺す。あまりに短絡的過ぎる考え方であり、理性ある大人が選ぶ手段としては度が過ぎている。
アレスタが怒っているのは、まさしくその部分である。
「私は考えるのだよ。もしも魔法がこの世から消えてくれるなら、その代償として、人類が一人残らず滅んでしまったっていい。魔法使いと道連れになる形で、魔法の使えない無能力者まで死んでしまうのは申し訳ない話だが、そうして誕生する魔力の枯渇した新世界には、きっと新しく、魔法との縁を切った人類種の芽吹きがあると信じているよ」
「なんて馬鹿なことを……」
「やれやれ。理解してくれないようだね」
わざとらしく肩をすくめつつ、ブラハムは確信した。彼の思惑を理解してくれる同士など、この世界に存在するわけがないと。
思えば世間的に過激として知られる反魔法連盟ですら、彼の行動を本当の意味で支持してはくれなかったのだ。
ブラハムは遠い目をして口を開いた。
「わかるかい? こうして人間の上位種を召喚することこそが必要な手段だったと。人が人を裁くのには限界がある。魔法は人を傲慢にするからね。だからこそ、世界を蹂躙する我ら人類を“害獣”として、人間ではない上位存在の圧倒的な力によって、合法的に駆逐して欲しかったのだよ」
「合法的に?」
「そう、合法的に。違法ではなく」
やはりアレスタには理解できなかったが、それも無理はない。これは魔法そのものが合法ではないと考えているがゆえの発言である。
反魔法連盟の考えによれば、本来、魔法は正式に存在を認められるものであってはならないのだ。
世界によって否定され、禁忌として扱われてこそ、ようやく人間は魔法と共存できると考えているのが、反魔法連盟における最大多数の共通した結論である。
魔法は世界に隠匿されるべき。そして最終的には消し去られるべきであるとまで。
ブラハムはデビルスネークをちらりと見て続ける。
「私はね、人間ではない別次元の存在――つまりはデビルスネークに、この世界の命運を、そして審判の手をゆだねようと考えるのだよ」
ブラハムは魔法の存在を否定する反魔法連盟にこそ、幸福のために生きる人間としての正義があると信じていた。
世界は反魔法連盟を危険な組織として否定するが、本当は世界のあり方こそが間違っているのだと。
魔法を自分のために利用する者、利用することはなくとも魔法の存在を容認している者は、すべて同罪である。
なぜなら魔法が人類にもたらしたものは暴力と不平等だけであり、間違った方向への発展を進めてきたと考えていたからだ。人間と社会の不可逆的な堕落である。
これまで人類の歴史は、そのほとんどが人間同士の未熟な衝突によってつむがれてきた。平和的な話し合いも、暴力的な戦争も、それだけでは世界を正しい方向へは導こうとしなかったのだ。
なぜならいつの時代にも、世界の善悪を決めるそこに、無視できないほどに魔法の存在があったからである。不条理を現実に当てはめる魔法の存在が。
だからこそブラハムは人ならざる召喚獣を善悪の判定者として顕現させ、直接的な魔法を使わない手段で世界に是非を問いたかったのだ。
「我々人類はね、本来は魔力の枯渇した魔法のない世界で生きるべきなのだよ。そうでなければ身の丈に合わない。不幸にしかならない。なぜなら我々人間には、過ぎたる力である魔法を正しく使うことのできる精神性などまるで備わっていないのだから。
未熟で、無知で、どこまでも自分勝手な存在……そうだろう?」
断定的である。だが、一面的に見た場合は正しい部分もある。
言葉に詰まったアレスタとイリアスがなかなか反論できずにいると、にやりと微笑を見せたブラハム。
「さぁ、そのための神として“彼”を迎え入れようではないか!」
ブラハムは叫び終えると背後を振り返った。
いつまでもおとなしくしているデビルスネークに対して、抗議を含んだ厳しい視線を投げかけたのだ。その強いまなざしは暗黙裡に攻撃命令を伴っており、何かをためらう怪物に発破をかけようとしていた。
今度こそ、今度こそ――。
「デビルスネークよ、目の前の二人を殺せ!」
だが、やはりまだブラハムの願いは通じない。
意外なことにデビルスネークは攻撃をためらった。駄々をこねる赤子なのか、てこでも動きそうにない様子だ。
悪魔の怪物が聞いて呆れる。すっかり威勢をなくした小動物にも見えた。
「くそったれ!」
そう叫ぶや否や、もはや破れかぶれなのか、苛立ちを隠さなくなったブラハムは葉巻状の魔法式炸裂弾を投げつけた。彼は魔法学者を名乗っているが、知識はあれど魔法そのものを扱うことが出来ない。
だからこそ、攻撃のためには魔道具を用いるしかないのだ。
「あぶないっ!」
とっさに反応したアレスタは、背後にいたイリアスを押し倒すようにしながら飛び退いた。
直後、彼らが直前まで立っていた地点で爆発が生じる。
低級の魔物なら一撃で倒すほどの威力をもった魔道具だが、事前に警戒を密にしていたアレスタの反応が早かったことで、かろうじて二人に致命的な負傷はなかった。
このときアレスタは襲いくる爆風からイリアスを庇っていたのだ。
彼女の盾となることに成功したのである。
「あとは任せたよ、イリアス!」
片膝をついたアレスタは自分自身に治癒魔法をかけながら、イリアスに道を譲った。本当のことをいえば敵の事情がわからなかったが、結果としてブラハムの先制攻撃が失敗した今、アレスタはここに少なくない勝機を見つけ出したのである。
状況は動き出したのだ。あとはどちらが先に場を制圧するかにかかっている。
二人にとって最大の懸念であった怪物デビルスネークは動かず、奇襲に失敗したブラハムも次の手を見せない。
それを見たイリアスもアレスタと同様に確信した。
「ここがチャンスです!」
剣を抜き放って一閃、また一閃。
両手に二本の剣を構えたイリアスはデビルスネークの懐に飛び込むと同時、容赦なく切りかかった。
かつて憧れの父を重症に追いやった悪魔の怪物を相手にしているのだ。手加減などしている余裕はない。こうしてデビルスネークが動き出さない隙を狙って先手を打ち、相手が本調子になる前に、すべての決着をつけねばならなかった。
召喚されたデビルスネークさえ消滅すれば脅威はなくなる。
真っ直ぐ走った剣筋に沿ってうろこが剥がれれば多数の傷口が開き、青とも緑とも言いがたき毒々しい血しぶきが舞い上がる。
悪魔と呼ばれた怪物にも痛覚はあるらしく、デビルスネークは低い唸り声を轟かせて身をよじった。霧雨となった多量の血は降りかかってイリアスの顔を流れ、その不快さに彼女は目を細める。
しかしイリアスは立ち止まらない。
ためらいは勝機を逃すと知っていたからだ。
デビルスネークからの返り血に目をつぶされないよう軽快なステップを踏みながら、縦横無尽と華麗な腕捌きをもって、息を切らせぬ彼女は立て続けに剣を振舞った。
一撃、重ねて新たなる一撃と、休む間もなく繰り出されるイリアスの剣舞は、着々と速度を増して、本調子を出さぬ悪魔の怪物に対して無視できないであろうダメージを与えていく。
度重なる怪物への攻撃とともに彼女が発動したのは、自身の動作を高速化させる魔法である。
「なぜだ、なぜデビルスネークは攻撃しないのだ?」
目の前の事実が信じられないのであろう。
悪魔の怪物が戦闘への意欲を完全に失っているという、まったく予想外の状況を前にしてブラハムはあえいだ。
アイーシャの薬屋から手に入れた強力な魔力増強剤は投与済みであり、先ほどは村の青年たちが結成した臨時の自警団を相手にして圧倒的な殺戮を見せたのだ。
今さら魔力不足だとか、あるいは召喚そのものに問題があったとは思えない。
思えばデビルスネークの様子がおかしくなったのは、町から駆けつけたという二人と対面してからである。
そう考えたとき、ブラハムは一つの結論に至った。
「もしかすると、まだデビルスネークは怪物として不完全な状態なのか。どうやら内側から何かが邪魔をしていて、本物の怪物になりきれていないようだ。なぁエイク、もしかして君には、まだ人としての情と理性が残っているのか……?」
驚愕を伝える、あまりにも小さなささやき。
懸命に怪物と戦っているイリアスはもとより、そばにいたアレスタにも聞こえない。
「なぁ、エイク、聞いてくれ。この命を犠牲にしてでも、なんとしても壊したい世界が私にはあった。だから私は反魔法連盟に身を捧げたのだよ」
ゆっくりと瞳を閉じて、ブラハムは静かに回想する。
思い出すのは彼自身の生まれ。
そして世界の歪んだ姿を――。
帝国でも開発の届かない吹き溜まりに故郷を持つブラハムは、一般的な人々に比べて恵まれない生まれだった。生みの親とは早くに死別しており、幼いころから頼れる身寄りがなかった彼はたった一人、誰からも庇護されることなく、どこまでも孤独で困窮した生活を余儀なくされていた。
魔法の優劣が人間の優劣にも直結する魔法至上主義の考え方は、古くから広く世界を支配してきたものだ。だからこそ、まったく魔法が使えない無力だった子供のころのブラハムは、それだけで生きる価値がないとみなされた。誰にも助けられず、尊重されず、単なる道具にも等しい屈辱的な処遇を受けてきた。
つまり身寄りをなくした少年は、道具として人身売買にかけられたのである。
ところが無慈悲に身売りされたブラハムは、魔法が使えるわけではなかったが、しかし決して普通の人間ではなかった。周囲に漂う魔力を無意識に吸収して、そのまま体内に蓄積するという、特別な魔法体質の持ち主だったのだ。
そのことを最初に発見したのは、幼い彼を奴隷同然の使用人として雇った魔法使いである。その魔法使いによって新しい役目を与えられたブラハムは、天然の魔力保管庫として酷使されることとなった。
それは魔力を供給するための生きた魔道具にも等しい。
その出来事を契機として、自然と大量の魔力を体内に蓄える魔法体質であったブラハムは、それから実に多くの魔法使いによって、奴隷的扱いを受けてきたのである。
なにしろ裏社会で生きる魔法使いは戦闘を好む。そんな彼らは強力な魔法に必要な魔力の供給装置として、当時子供だったブラハムを危険な戦場へと連れまわしては、あらゆる闘争を繰り広げた。
道具として彼を買い取った主人である魔法使いは敗北を重ね、重ねるたびに奴隷だったブラハムは戦利品として勝負相手の手に渡り、その次なる悪逆非道な魔法使いを彼の新しい主人としてきた。こんなことを繰り返し、そのつど彼は道具として扱われ、そうすることで勝者の手を転々と渡っていったのである。
歴代のブラハムの“所有者”となったのは、誰も彼もが人を人と思わない、非道で冷酷な魔法使いばかりだった。
生まれてからずっと魔法使い達の所有物として扱われていたブラハムが、半ば強奪品として引き取られた先で反魔法連盟と出会うまで、彼に自我や目標といったものは一切存在しなかった。
ゆえに、ほとんど彼の人格は反魔法連盟によって形作られた。
反魔法連盟の一員であることを隠していた彼は、村でエイクやアレスタに初めて出会ったとき自分から魔法学者を名乗ったが、それもあながち間違いではない。魔法学校や研究機関に勤めているわけではないが、独学によって魔法学者に等しいだけの知識を習得しているのである。
よく使用する魔法道具の数々も、ほとんどすべて彼の手製だ。
そんな魔法学者としての幅広い知識は、まずは魔法使いに対抗する自衛のためであり、最終的には彼の目標である、魔法そのものを世界から消し去るために蓄積してきた。
その結果ブラハムが行き着いたのが、世界を崩壊させるほどの悪魔を呼び寄せる禁忌の召喚魔法だったというわけだ。
デビルスネークの存在を知った彼はリンドルを嗅ぎつけ、そこで出会った青年エイクを利用しようと考えた。ブラハムは魔法を使うことができないのだが、幸いにも体内に大量の魔力を蓄える特殊な体質であったため、最悪の場合には自分の命を生贄として召喚のために捧げるつもりだったのだ。
ようするにブラハムは、決死の覚悟でここまで生きてきたのである。
――だというのに、私を慕ってくれたエイクには、まだ覚悟が足りない。
――ならば、彼の師匠である私が見本とならなければ。
「さぁデビルスネークよ! その真なる覚醒のため、我が身を使え!」
腹を決めたブラハムは今後のために残しておいた魔力増強剤をすべて使用して、自らの潜在能力を最大限に引き出した。
そうすることによって、どうやら許容量を超えた魔力が溢れ始めたのか、たちまち彼の全身が七色をにじませた輝きに包まれる。
魔力が非常に高まった状態で、自らに破滅の呪文を唱えながらデビルスネークに近づいてそっと指先を触れさせると、たちまちブラハムの体は人間としての実体を失って、たとえるなら一種のエネルギーの塊となり、その怪物へと吸い寄せられるようにして一体化した。
それに伴って、彼の強い攻撃性を備えた意識、つまり破壊への覚悟が、かすかに残るエイクの意思によって攻撃を躊躇するデビルスネークの中へと、強制的に取り込まれたのだ。
すると、誰の目にもわかる変化があった。
デビルスネークの周囲の空間が薄墨色の滝に侵食されるように歪み、きしむ音が大地を揺らすほど響く。
長年にわたって大量の魔力を溜め込んだブラハムの生命が起爆剤となったのか、尋常ならざる魔力を一度に与えられたデビルスネークは、もはや原型をとどめられず、さらなる急激な成長を遂げることとなったのだ。
真の怪物――すなわち神獣――の姿へと、覚醒を果たしたのである。