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11 ベアマークにて (下)

 城を出てすぐ、数歩と行かない門前のことだ。

 立ち込めていた土ぼこりが新たなる爆風によってかき消されたとき、俺たちの視界には切迫した状況が映った。


「サラさん!」


 見知らぬ男と向き合っているのは一人の騎士、サラさんだ。

 彼女の肩にはエイクさんから託されたという、風の精霊であるエアリンがしがみついていた。

 剣を抜き構える彼女と対面する不審な男にやられたのだろうか、路上には倒れた騎士の姿もちらほら見える。


「危険です、下がってください! あれは襲撃者です!」


「襲撃者……」


 サラさんと対峙している男の目には覇気がなく、あちらから攻撃する気はないのか、両腕はだらりと下げられている。身にまとっているのはボロボロの服、そしてぼさぼさに乱れた髪。

 目立った武装はしていないようで、一見すると危険な襲撃者であるようには見えなかった。悪意のない浮浪者のようでもある。

 サラさんの言葉をどこまで信じていいのか俺が戸惑っていると、それは正義感からなのか、苛立ったサツキさんが真っ先に声を荒げた。


「おい、何を考えていやがる! たった一人で城を攻略できるわけがないだろ! 投降しろ、今ならまだ間に合う!」


 ところが焦燥しきった男は首を横に振る。


「お前らのせいだ、お前らのせいだ……」


「……なに? そりゃどういうことだよ?」


 名状しがたい不気味さを感じたらしく、先ほどより萎縮したサツキさんが穏やかに問いかける。

 すると、それは彼なりの殺意の表れか、顔を上げた男はカッと目を見開いた。


「俺はカーターを倒したというお前らをずっとつけていたんだ! それがここ最近ちょろちょろと動き回りやがって、そしたらさっき城に入ったのを見て、きっと俺たちの計画を騎士団に伝えに行ったんじゃないかと思ったら、もう慌てて!」


 繰り返される荒い呼吸と、不器用に上ずった声。そしてキョロキョロと焦点の定まらない視線は、彼の尋常ならざる精神状態を表していた。

 どうやら錯乱しているらしい。


「ひとまず落ち着け、どうか落ち着いてくれ! お前はどこの誰で、いったい誰と戦っているんだ!」


「う、うるせぇ!」


 ほとんど自暴自棄になって叫んだ彼が、こちらへの威嚇行為なのか、大きく右手を横に振り払った。

 すると魔力的な流れに違和感が発生する。

 鼻をついたのは、こげたにおい。肌に感じた空気の振動。

 そして直感。

 まさか再びの爆発か――そう思ってとっさに身構えると、剣を水平に構えるサラさんの立っていたすぐ前の地面が、その内側から大きくえぐられる。

 地面を覆う石畳ごと破壊され、粉々になった土くれが、熱せられた空気が、激しい閃光と爆音が、それらすべてを爆発という瞬間的な現象に押し込めて、衝撃とともに容赦なく彼女を襲ったのだ。


「……くはっ!」


 かろうじて爆発の直前で後方に飛び退いたサラさんだったが、その爆風を間近に受けて、吹き飛ばされるように後退する。

 美しい金髪が風に翻弄されると激しく舞って、土ぼこりをはらんだ灰色の煙に薄く汚れた。不快さに目を細めたサラさんは両手で剣を構えたまま、首を軽く左右に振って髪を整える。

 彼女の肩にしがみついていたエアリンもまた、小さいながら懸命に羽をぱたつかせて、遠くへ飛ばされまいと堪えていた。


 ――強い。


 おそらくこの場に居合わせた誰もが、爆裂の魔法を披露した男に恐怖したことだろう。

 実際、俺の足は情けないくらいに震えていた。


「くっ、どうやら話は通じないようですね。ならば致し方ありません!」


 けれどサラさんは弱音を吐かず、むしろ勇ましく剣を構えた。

 そして左手の人差し指を真っ直ぐ男の顔に向けて、短く唱える。


「フラッシュ!」


 サラさんの指先から放たれた強力な光魔法が、対面する男の視界を奪う。

 あまりのまばゆさに男がわずかに動揺したのを確認して、その隙を狙い、サラさんは光魔法を発動したまま駆ける。

 ここで一気に畳み掛けるつもりなのだ。

 しかし――。


「ええい、視界など構わん!」


 そう宣言した男は固く目を閉じると、頭よりも高く掲げた左手を上から下に、勢いよく地面に叩きつける。

 すると何が起こったか。


「きゃあ!」


 男の周囲すべての大地が轟音とともに膨れ上がったのだ。

 それは全方位爆撃。圧倒的な攻撃である。


「サラさん!」


 男の魔法攻撃によって吹き飛ばされ、受け身も取れず地面に尻餅をついたサラさん。

 思わず彼女のもとへ駆け寄ろうとした俺だったが、その手をサツキさんにつかまれる。


「待てって! アレスタ、お前でも無茶だ!」


 確かにあれほどの爆発力は危険だ。直撃すれば体ごと木っ端微塵に吹き飛ばされかねない。そうなれば治癒魔法を使用するどころではなく即死だ。

 だが彼女は戦っている。

 死の危険性が高まる戦場の中でサラさんは戦っているのだ。

 ベアマークの平和を守る騎士として、その若き隊長として、……いいや違う、彼女は何よりもまず平和を愛する彼女であるからこそ、生まれ育んできた理想と情熱に燃え、自分の身を犠牲にしても決して退かないのだ。

 そんな彼女の決意を目の当たりにして逃げていられるだろうか?

 彼女が苦しんでいるときに、見て見ぬ振りをしていられるだろうか?


「けれどサツキさん、やっぱり俺にはこんなことくらいしかできないんです!」


「お、おいっ!」


 サツキさんの制止を振り払い、俺は勢いよく足を踏み出した。

 すると、


「ボクダッテ!」


 それまでおびえるばかりでサラの首筋にしがみついていた風の精霊エアリンも、敵へ向かって走り出した俺の動きに呼応するかのように、地面に倒れていた彼女の肩から飛び立った。

 おそらくエアリンは襲撃者である男の目や意識を、すなわちその強力な魔法を、一身にひきつけてくれようとしているのだ。陽動として飛び回ることで、俺のためにおとりになってくれているのだ。

 この与えられた隙を、絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。

 意気込んだ俺はさらに大きく一歩を踏み込むと、足音を殺して気配を殺して、顔の周りを飛び回るエアリンにすっかり気を取られている男の死角から最大速度の接近を試みる。


「くたばれぇ!」


 そして無事たどり着いた俺は体ごと全身で押さえ込むように、驚いて振り返った男の胸元を目掛けて飛び掛った。

 体重をかけて上から覆いかぶさるようにして男を押し倒し、そのまま二人して地面に倒れこむ。悔しそうに唇を噛み締めた男は俺の下に横たわり、これで奴も身動きが取れないはずだ。

 体重を込めて乗りかかった俺は絶対に逃がすまいと、男を押さえつける腕に精一杯の力を込めた。


「くそったれ!」


 このまま拘束されるまいとあがいた彼が、まるで合図であるかのように右手の指をパチンと鳴らすと、彼の右腕をつかんで抑えていた俺の左手が吹き飛んだ。

 それまでに比べれば小規模な爆発だったが、至近距離から肉片を撒き散らすには十分すぎる威力だ。


 ――しまった、この状態でも奴は魔法が使えるのか!


 想定外の事実に多少の動揺を覚えたけれど、俺には最終手段としての治癒魔法がある。ある程度の負傷はもとより覚悟の上、ほとんど捨て身で挑んだからには退くことなど眼中にない。


「まだだ、畜生!」


 声をからすほどに喚いた男は鋭い目つきで俺をにらみつけ、再び右手を動かそうとする。十中八九、また魔法による爆発を起こすつもりらしい。

 ところが俺は男の体を押さえつけるのに精一杯で、先ほど受けたダメージすら治癒することが出来ておらず、その魔法発動を示す動作を防ぐことすらできそうになかった。

 いくら自分に対して治癒魔法が使えるといっても、立て続けに攻撃を受けてしまえば命の保証はない。

 なにしろ頭を狙われれば即死もありえるのだ。

 危機的な状況を前にして、俺は歯を食いしばった。


「どいてください、アレスタさん!」


 その声を聞いて、考えるより先に身体が従った俺はとっさに男から飛び退いた。

 すると俺と入れ替わるようにして男の前に立ったサラさんが速やかに剣を振るい、さらなる抵抗を見せようとした彼の右手を切り落す。

 鮮やかで的確で容赦のない一撃だ。

 右腕を失った男は激痛に顔をゆがめて言葉にならない声を叫び、一方で目を細めたサラさんは情を捨て、もだえ苦しむ男の首筋に向けて剣を、その研ぎ澄まされた剣先を喉元に突きつける。


「抵抗をやめてください。そうすれば命までは頂きません」


「へ、へへ……」


 殺される寸前まで追い込まれたこの状況で何がおかしいのか、不気味に口角をゆがめて笑い始めた男。

 このまま素直に抵抗を諦めて捕縛されてくれれば助かるのだが、とても観念したようには見えない。

 ひょっとして何かするつもりなのではないかと思って注意深く観察していると、まるで切り落とされた己の右手を惜しむように、残された彼の左手が静かに持ち上がる。


「サラさん、危ない!」


 危険を察知した俺は、横からサラさんに全力で体当たりを試みる。

 すると俺の背中を爆炎が襲った。

 それは男の魔法による攻撃だ。

 サラさんの身代わりになることで、俺は彼女を庇ったのである。


「くそっ、ここは出直すかぁ! ひゃーはっは、覚えてろ!」


 本来彼が狙ったはずのサラさんに攻撃が当たらなかったことを確認すると、襲撃者である男は俺たちの拘束が離れた瞬間を狙って地面から立ち上がり、あっけなく背中を向けてしまう。

 そして安全に逃げ出すためだろう、捨て台詞を残した男は周囲に煙を充満させた。


「エアリン、あなたの風で煙を吹き飛ばして!」


「マカセテ!」


 風の精霊エアリンが小さな翼を羽ばたかせると、小さな竜巻のような風がいくつも生み出され、そのつむじ風が周囲に充満した煙を吹き飛ばした。

 だが、残念ながら視界の晴れたその先に男の姿は見当たらない。

 このわずかな時間で逃げおおせたようだ。


「……ふぅ、まったくなんだったんだ」


 俺は冷や汗を拭いながら地面に片ひざをついた。久しぶりの緊張感と治癒魔法の行使から来る疲労は、立っていられないほど並々ならぬものがあったらしい。

 へたり込んでいると、怪我でもしたのではないかと心配してくれたのか、慌てて駆け寄ってきたサラさんとエアリンが一緒になって俺の顔を覗き込んだ。


「アレスタさん、大丈夫ですかっ?」


「ヘイキッ?」


「うん、ひとまず大丈夫だよ。なんとか今回も無事に治癒できたみたいだから。それよりサラさん、今の襲撃者は?」


「すみません、私にもわかりません。なにしろ突然襲撃を受けてしまったので……。とにかく、これから私は騎士団本部に連絡して逃げた彼を探します」


「うん、お願い。俺たちのほうでも注意してみるよ」


「はい、頼みます」


 そう言い残して、サラさんは遅れて応援に駆けつけた騎士たちと今後の対策を話し合いながら城に入っていった。

 残された俺とサツキさんは顔を見合わせて、さてどうするかと考えていると、


「おいアレスタ、今から情報屋のとこに行くぞ」


「えっ?」


「いいから来い!」


 などと、俺はよくわからぬままサツキさんに引きずられていくのだった。







 怒気を漂わせるサツキさんはドアを蹴破って情報屋に突入した。


「てっめー、こら! 知っていたくせに隠しやがったな!」


 店内にはすでにドガスさんの姿はなく、退屈そうに一人でいた店主のオーガンがカウンターに頬杖をついて、あくびを噛み殺すようにリラックスしていた。


「どうした、いきなり穏やかじゃねーなぁ? とりあえず落ち着けよ。そう感情的になられると冷静に話も出来ないぞ。それからドアを壊すな。閉められなくなる」


 サツキさんは眉間をピクピクさせながら深呼吸。

 そして指をオーガンさんの眉間に突きつける。


「いいだろう、冷静にお前の悪行を指摘してやる。お前は俺たちを見殺しにしようとした!」


「……はぁ?」


「だから! 俺たちは城を襲撃した男に殺されかけたんだよ! 城に行くなら気をつけろって言ったお前の言葉通りだったのはおかしいだろ!」


 そうサツキさんが指摘すると、やれやれと肩をすくめた店主はわざとらしく頭を抱えた。


「あちゃー。まさか本当に襲撃の現場に出くわすなんて、お前ら運が悪すぎるだろ」


「ああ、どうやら俺たちのことを隠れて監視していた奴だったらしいな。あのときの様子からすっと、お前は何か知っているんだろ? 全部教えろ、洗いざらい吐け」


「だからさ、俺は情報屋だぜ? 素直に金を出して情報を買えって」


 あっけらかんとした表情をして、手のひらを上向きに差し出したオーガン。

 それを見て激高したサツキさんは胸倉につかみかかった。


「なんだと! こっちは本気で死ぬかと思ったんだぞ!」


「わかった、わかった! 今回だけは特別に教えてやるから手を離せ!」


「だーもー! だったら初めから教えてくれればよかっただろ!」


 本人達は本気で言い争っているんだろうが、一歩下がって脇から見ていると仲がいい感じだ。

 俺が入っていく会話の隙間がない。

 なら二人に任せよう。


「よーく聞け、サツキ。実は数週間前から、反魔法連盟による城への襲撃計画があったんだ。お前らが遭遇したのは、おそらく計画者の一人だろう」


「反魔法連盟が? どうしてベアマークの城を襲うんだよ」


「もちろん、ベアマークの牢獄に捕らえられているカーターの解放を狙ってのことさ。なんたって彼は反魔法連盟の元幹部だからな。徐々に下火になりつつある連盟の再興を考えての計画だろう」


「畜生、馬鹿な計画を考えやがって……。治安維持の象徴でもある城に対して襲撃なんてやったら、余計な敵を増やして自分の首を絞めるようなもんだろ」


 確かに、ただでさえ反魔法連盟は過激な思想で異端視されている集団だ。城への襲撃なんて行動が世間に知られれば、ますます世界から孤立してしまうだろう。

 それほどまでに捕らえられたカーターは内部からの人望が厚かったのか、あるいは反魔法連盟の節操がなくなって手段を選ばなくなってしまったのか、どちらにせよ危険なテロ組織であることに違いはない。


「ほら、これが計画に関係していると見られる主義者のリストだ。おそらくほとんどの人間がベアマークの中に潜伏しているだろう」


「あ、助かります。これは頂いていきますね」


 無料で情報を得られることに感謝して、俺はオーガンさんから主義者のリストを受け取った。

 ちらりと見ると、八名ほどの名前が羅列してある。


「アレスタ、急ぐぞ。そのリストを騎士団に渡して計画を阻止してもらうほかない」


「そうですね、サツキさん。ではオーガンさん、俺たちはこれで失礼します」


 ひとまず情報屋を後にした俺たちは、そのままの足で城に戻った。

 城の前で誰か暇そうな騎士はいないかと探していると、ちょうど城から一人の若い騎士が、背後に数名の部下を引き連れて出てきたではないか。

 サラさんである。


「おやアレスタさん、どうされました? 何か慌てていらっしゃるようですが」


「う、うん。実は君に渡したいものがあって!」


「私に……?」


 要領を得ないサラさんは首を傾げたが、俺は気にせずメモを手渡した。


「これ、城の襲撃を企てているという主義者のリストだよ。おそらくこの中の何人かは町に潜伏しているんじゃないかって」


「なるほど、それはとても助かります。……ちなみに、これはどちらで?」


「……ギルドの情報網を駆使したんだ。ごめん、それ以上は言えない」


「そうですか。守秘義務ですね。いえ、アレスタさんを疑うつもりはないので安心してください」


 優しく微笑んだサラさんは、俺から受け取ったばかりの手書きのリストに目を落とす。


「ラルレロ、アイエ、キクコ、タチッテト、ナノ、ヤーユ、ブラハム、ミメーモ。

 ……なるほど、容疑者はこの八名ですか。直ちに警戒網を敷きましょう」


「……えっ?」


 リストを読み上げた彼女が口にした名前を聞いた瞬間、俺はざわざわとした胸騒ぎに襲われ、手のひらに汗がにじむほど動揺した。


「どうされました?」


「サラさん、君が今読み上げた主義者の中に、その、ブラハムって名前が……?」


「……え? あっ!」


 先ほどは見落としていたのか、サラさんも見直してようやく気が付いたらしい。

 ――ブラハム。

 それはリンドルに滞在中の魔法学者の名前と一致する。


「で、ですが、これは偶然の一致かも! 同姓同名の別人である可能性が!」


「うん、それは否定できない。でも……」


 俺の脳裏にはいやな予感が渦巻いていた。

 リンドル自警団の顧問として、召喚師であるエイクさんの師匠役を買って出たというブラハムさん。

 その彼は現在、魔法学者としてデビルスネークを調査していた。

 もちろん反魔法連盟とは無関係でいてくれればいいが……。


「サラさん、とにかく俺はこれからリンドルに行ってみるよ。そしてブラハムさんに会ってみる。君はどうする?」


 一緒に行くかい?

 そう誘った俺だったが、彼女は気まずげに口を閉ざす。それから胸元に手を添えたサラさんは、後ろに控えた数名の部下達を振り返った。

 そしてわずかな思案の後に結論を出す。

 再び俺に顔を向けたサラさんは、凛々しい表情をしていた。


「いえ、大丈夫です。直接私が行かなくても、リンドルには頼もしい自警団がありますから。それに、私は騎士としてやらねばならないことがありますので」


「そっか、そうだよね。変なことを言ってごめん」


 思えば今の彼女は一部隊の隊長なのだ。

 町に具体的な危険が迫った今、自分の職務を放棄してリンドルに向かうことは出来ない。


「アレスタさん、念のため村への警告をよろしくお願いします。このリストに名前の書かれた主義者がベアマーク内に潜んでいるとすれば町は危険なため、ひとまず私はベアマーク騎士の一人として、こちらの警備に協力し終えてから向かわせていただきます」


「わかった。村のほうは俺たちとリンドル自警団に任せて!」


「はい、お願いします」


 そう言って深々と頭を下げたサラさん。彼女も本当は村に行きたいのだろうが、ぐっと我慢しているようだ。

 こうまでされて村のことを頼まれたからには、俺たちも誠意をもってこたえるしかない。

 村に何事もないことを祈って、出来るだけ早く向かうのだ。

 その場でサラさんと別れて城を離れると、しばらくしてサツキさんが俺の肩をつかんだ。


「なぁアレスタ、これから村に行くならいったんギルドに寄ってイリアスを連れて行け。魔法が使えない俺とニックでは、もしものとき足手まといになりかねないからな。俺はもっと詳細な情報を手に入れるため、ここからは別行動で情報屋に行かせてもらう。ニックにはギルドの留守番でもさせておけ」


「……わかりました」


「よく言った、アレスタ。まだ彼女とは気まずいかもしれないが、そういう状況ではないことぐらいわかってくれたらしいな」


「……はい」


「期待しているぜ、アレスタ!」


 そして情報屋に向かったサツキさんと途中で別れた俺はギルドに戻り、ぎこちないながらもイリアスに事情を説明して、二人でリンドルに急いだ。

 久しぶりに彼女と二人きりになった村への道中は気まずくて気まずくて仕方がなかったけれど、これはひょっとしてサツキさんが俺とイリアスの仲直りのため、一時的にも二人きりになれるように気を回してくれた結果なのではないかと、走りながらそんなことを考える俺だった。

 とにかく、今はリンドルに急がねばなるまい。

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