おいゴミクズクソ野郎、お前いい加減にしろよ
私、恋愛もの破局系しか書いてないぞ?と思い至り。書きました、ちゃんとした(?)恋愛もの。
その日、私は王城に乗り込んでいた。
「ご機嫌よう、殿下。どうして私がここに来たか、分かりますよね?」
「……いや、さっぱり……。何の用かな、リネット嬢」
本気の困惑顔である。
「姉様のことです」
「エリーゼが、何か……?」
「本当に分かりませんか?」
私はすっと息を吸った後、台パンと共に声を荒げた。
「おいゴミクズクソ野郎、お前いい加減にしろよ」
「だから、何のこと!?」
とぼけているのか、本当に分からないのか。
どちらにせよ、私の怒りを助長させるだけだ。
「なに姉様放って他の女と遊び歩いてんだよ! なんとか言えや、ああ!?」
「……っ誤解だ!」
じゃあ今の間はなんだよ。
「じゃあ今の間はなんだよ」
おっと、心の声が漏れてしまった。
「それはその! 心当たりがなさすぎて戸惑ったと言うか!」
「先々週の金曜、エルグレン辺境伯家のタウンハウスを訪れた。令嬢が出迎え。次の日その女をエスコートして夜会に。さらに一昨日、そいつと街歩きデート! 心当たりが無い? もう一回言ってみろ!」
「いや怖!? めっちゃ把握されてる!」
「当然のこと。姉様の婚約者の全動向はチェックしている!」
「当然って何!? それが普通なの!?」
殿下はツッコミすぎて息も絶え絶えだ。
仕方ないので少し待ってやる。
「……まあいい。きっと天使よりも心優しい姉様なら、こんなミジンコ以下野郎の弁明だって聞いてあげるのでしょう。姉様に免じて話だけは聞いてあげます」
「ありがとう……? その人は従妹だよ。久しぶりに王都にきたから案内したりしてただけ」
「いや、従妹なのは知ってますよ。てかやっぱ浮気じゃねーか」
「話聞いてた!?」
「ここで名言を一つ。従兄妹同士でも結婚できるんですよ」
「いや、今の王家が血を薄める方針なの知ってるよね!?」
……このまま話しても平行線な気がする。
私は一つため息をついた。
「まあ私が口を挟みすぎるのもアレですし……。一旦置いておきましょう。でもちゃんと二人で話し合って下さいね。姉様泣いてましたよ」
「え!なんで?」
「街歩き見ちゃったからです」
「そっかぁ……」
なんでちょっと嬉しそうなんだよ、キモ。
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ、キモ」
おっと。
「酷! 君、僕が王太子だって本当に分かってる? 打ち首にされても文句言えないよ!?」
「覚悟の上です。姉様を泣かせるなんて許せねえ……」
「おおう……」
それに殿下は、姉様の家族を打ち首に、なんて出来ないでしょ?
っと、話が戻るところだった。
「では本題に入りましょう」
「あれ本題じゃなかったんだ……」
「次も姉様のことです」
「だろうね……」
「殿下、いつまで姉様に気持ちを伝えないつもりですか?」
「ぶはっ」
「汚な」
殿下が紅茶を吹いた。
ゴホゴホとむせて、誤魔化すように紅茶を口に入れて、またむせた。
学ばねーな。
「君、一体なにを言い出すんだ……」
「これも第三者が口を出すことじゃないですが、あまりにも姉様が可哀想なので……。なんで気持ち伝えないんですか? いや、なんで好きなのに姉様に冷たくしてるんですか? ガキなんですか? いやガキのがまだ可愛いです。良い歳した男のツンデレなんて、いてーだけだよ」
「待って、刺さる、刺さるから……」
「勝手に刺さって死んどけば良いんです」
「未来の義妹が酷い……」
「キモ」
私はまだお前を認めていない。
「とにかく、早急に姉様と話してください。じゃないと、私が姉様泣き落として婚約解消させますからね」
「わ、分かった」
「絶対だぞ」
捨て台詞を残して部屋を出ると、廊下の先から侍従が歩いてくるのが見えた。
「あ、リネット嬢。エリーゼ嬢がお迎えに来ていますよ」
「え、ほんとですか!? 急がなきゃ!」
姉様を待たせてはいけない。
私は優雅に早歩きした。
「姉様ー!! 迎えに来てくださったの? わたくしとっても嬉しいわ!」
「ふふふ、王宮に向かったと聞いてびっくりしたのよ? 心配で来てしまったわ」
はあ、やはり姉様は天使。
あんな男にはもったいない。
「えへへ、少し王太子殿下とお話ししてきました」
「あら、そうなの? 大丈夫だった? リネットはまだ作法が身に付ききって居ないのだから、無理してはダメよ」
「はーい」
私は孤児院で育って、一年ほど前まで平民として暮らしていた。
そんな私を、慰問に来ていた姉様が見つけてくれたのだ。
幼い頃に行方不明になった妹だと、すぐに分かったらしい。
しかも孤児院に多額の寄付までしてくれた。
おかげで今は、私も、孤児院の下の子達も飢えることなく過ごしている。
もちろん家族みんな大好きだが、やはり姉様は別格なのだ。
「あ、姉様! 先日の、街歩きの人! 殿下の恋人とかじゃなくて従妹だそうです! 良かったですね!」
「ふぁ!? そ、そうなの? 嫌だわ私ったら、早とちりして、恥ずかしい……」
顔を真っ赤にしてる姉様、可愛い。
嫉妬と悲しさで泣いてる姉様も可愛かったけど、やっぱり笑顔が一番だよね。
……え?笑顔では無いって?
負の感情じゃなきゃ良いの!
……あ、てか殿下に話し合えとか言っておきながら、ばらしちゃった。
まあいっか。
わざわざあいつの顔を立てる必要はない。
姉様を泣かせたこと、私はまだ許してねーんだから。
ちゃんと、姉様を幸せにできるようになったら——。
許してやる、かもしれない。多分。
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