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「役立たず」と捨てられた聖女、かつて救った魔王に拾われる 〜「監視」だと言う割に、その視線が甘すぎて溺愛が隠せていません〜  作者: レオン・クラフト


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第21話:封印の真実、あるいは愛の逆流

ゼノスの寝室は、死の匂いさえ漂うような静寂に沈んでいた。

 寝台に横たわる魔王の横顔は、彫刻のように美しく、そしてあまりに白い。


「……ゼノス、様……」


 エリスは震える手で、彼の大きな、冷え切った掌を握りしめた。

 首元の魔石が、激しく、不気味な紅い光を放ち、エリスの体温を奪っていく。イザークの言葉が頭をよぎる。この鎖は、彼の命を吸い上げ、彼女へと流し込む「死の管」なのだ。


「嫌、です……。私を助けるために、あなたが消えるなんて……そんなの、絶対に……っ」


 エリスは溢れる涙を拭おうともせず、自らの魔石を力任せに引き剥がそうとした。

 その瞬間だった。


 指先が魔石に触れた途端、脳内に濁流のような記憶が流れ込んできた。


 ――燃え盛る炎。

 崩れ落ちる瓦礫の中で、自分よりも小さな少年を抱きしめる幼い日の自分。

 目の前の少年は、魔族のしるしである小さな角を折り、息絶えようとしていた。


『神様……、お願い。私の光を、全部この子にあげてください』


 幼いエリスは祈った。

 自分の内にあった、あまりに強大な「聖女の魔力」。それをすべて、目の前の命を繋ぐための「楔」として、彼の心臓へ流し込んだのだ。


 魔力枯渇などではなかった。

 エリスの魔力は、十数年前からずっと、ゼノスの心臓の中で彼を生かし続けていたのだ。


(ああ……そうだった。私は、あの日からずっと、彼の中にいた……)


 そして今、ゼノスが彼女に分け与えていた魔力は、もともと「彼女が彼に預けたもの」だった。

 彼はそれを自分の命として使うことを拒み、持ち主であるエリスに返そうとしていたのだ。自分自身の死を代償にして。


「……バカな人。本当に、不器用で……バカな人……っ」


 エリスは泣きながら、ゼノスの胸元に顔を伏せた。

 彼女は理解した。この封印を解く方法はただ一つ。

 「監視」や「譲渡」ではない。二人の魔力を、一つに溶け合わせること。


「受け取ってください、ゼノス様。……これは、私の命。そして、あなたの命です」


 エリスがゼノスの唇に、自らの唇を重ねた。

 瞬間、部屋を真っ白な閃光が埋め尽くした。

 逆流する魔力の熱。エリスの銀髪が黄金の輝きを帯び、彼女の背に、実体化した聖なる翼が広がる。


 魔力はゼノスの心臓へと吸い込まれ、二人の鼓動が、寸分違わず重なり合った。

 

 ゼノスの指先が、ぴくりと動く。

 ゆっくりと開かれた琥珀色の瞳に、光が戻る。彼は霞む視界の中で、自分を抱きしめて泣いている愛しい女性を捉えた。


「……エリス……、なぜ、泣いて……」


 掠れた声。けれど、その手はしっかりと、彼女の腰を抱きしめた。

 もはや「監視」など必要ない。二人は今、一つの命を共有する、分かちがたい存在となったのだ。

「役立たず」とされた力の真実。それは、幼き日に捧げた愛の結晶でした。

二人の命が一つに溶け合い、運命が逆転する第21話。

ゼノスの目覚めとともに、物語はいよいよ最終決戦、そして大団円へと向かいます。


言葉を交わさずとも、唇を重ねるだけで全てが伝わる。

そんな「沈黙の愛」の重みを感じていただけたでしょうか。


物語は完結まであと数話。

彼らが手に入れる、誰にも邪魔されないハッピーエンドを、

ぜひ最後まで見届けていただければ幸いです。


【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、

完結へ向けて、私の筆にさらなる情熱が宿ります。

レオン・クラフト

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