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「役立たず」と捨てられた聖女、かつて救った魔王に拾われる 〜「監視」だと言う割に、その視線が甘すぎて溺愛が隠せていません〜  作者: レオン・クラフト


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第20話:雨の密会、あるいは永遠の訣別

あの日と同じ、逃げ場のない雨だった。


 魔王城のバルコニー。叩きつけるような雨音が、世界との境界を塗り潰していく。

 エリスは、びしょ濡れのまま手摺りに縋り付いていた。首元の魔石が、ゼノスの命を吸い上げているかのように、不気味なほど熱く、紅く拍動している。


「……何の真似だ。部屋に戻れと言ったはずだ」


 背後から響く声。

 振り返ると、そこには漆黒の外套を濡らしたゼノスが立っていた。

 その黄金の瞳は、激しい怒りに燃えている。だが、エリスにはもう、その怒りが「自分への愛」を隠すための必死の防壁にしか見えなかった。


「……ゼノス様。……どうして、教えてくださらなかったのですか」


 エリスの声は雨音に紛れそうなほど細かったが、ゼノスの動きを止めるには十分だった。

 彼は一瞬だけ、苦しげに視線を逸らす。その横顔は、昨夜よりもずっと青白く、透き通るように儚く見えた。


「イザークに何を吹き込まれた。……あいつの戯言など信じるな」


「嘘を仰らないで! この首飾りが、あなたの命を削っているのでしょう!? 私が一息つくたびに、あなたの時間が奪われていく……そんなこと、耐えられるはずがありません!」


 エリスは駆け寄り、ゼノスの濡れた胸元に拳をぶつけた。

 彼を「監視者」だと、冷酷な支配者だと思い込もうとしていた。けれど、現実はあまりに美しく、あまりに醜悪な「献身」だった。


「お願いです、ゼノス様……。もう、私に魔力を分けないでください。私を捨てて、あの日と同じように雨の中に放り出してください。私は……あなたの命を喰らってまで、生きていたくなんてない!」


 涙が雨と混ざり、頬を伝う。

 ゼノスはしばらくの間、石像のように立ち尽くしていた。

 やがて、彼はゆっくりと、折れそうなほど繊細な手つきでエリスの頬を包み込んだ。


「……捨てろだと? そんなことが、今の私にできると思うか」


 彼の声は、これまでにないほど優しく、そして絶望に満ちていた。

 ゼノスはそのままエリスを抱き寄せ、冷え切った彼女の耳元で熱い吐息を漏らす。


「お前を拾ったあの日、私は神に誓ったのではない。己の魂を、奈落の底に投げ打つと決めたのだ。お前のいない世界を永らえることに、何の意味がある。お前の呼吸を繋ぎ止めるためなら、私の命など、安すぎる代償だ」


「……っ、そんなの、間違っています……!」


「間違っていて構わない。……私は魔王だ。お前のために世界を焼き、お前のために自ら滅びる。それが私の選んだ『独占』の形だ」


 ゼノスはエリスの顎を強引に掬い上げ、雨に濡れた唇を重ねた。

 それは、口づけというよりも、自分の残りわずかな命を流し込むような、切実な「祈り」の儀式だった。

 エリスは抵抗しようとしたが、彼の腕の強さに、そしてその腕の奥にある「寂しさ」に触れ、ただ彼にしがみつくことしかできなかった。


 雨は止まない。

 二人の影は、永遠に明けない夜の一部となって、ただ重なり合い続けていた。

「私を捨てて」という慈愛と、「お前のために滅びたい」という狂気。

二人の想いが、雨の中で一つの残酷な結末へと向かい始めました。


ゼノスの独占欲は、もはや彼女を支配することではなく、

彼女を生かすために自分という存在を消し去ることにまで至っています。

この「歪んだ献身」の先に、救いはあるのでしょうか。


物語はここから、魔王の寿命を取り戻すための、

あるいは世界そのものを塗り替えるための、禁忌の物語へと加速していきます。


もし、この雨の中の訣別を予感させる抱擁に胸を打たれたなら、

ぜひ【ブックマーク】や【評価】をいただけますと幸いです。

レオン・クラフト

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