第14話:響き合う鼓動、魔力の循環
深夜、城の最深部にあるゼノスの私室は、重苦しいほどの魔力の奔流に満たされていた。
寝台に横たわるエリスの肌は、陶器のように白く、そして病的なまでに熱い。首元の黒檀の魔石が、彼女の呼吸に呼応してドクンドクンと脈動し、紫色の光を放っている。
「……あ、っ……は……っ」
エリスは、内側から体を焼き尽くすような感覚に、何度もシーツを掴んで耐えていた。
ゼノスから与えられた強大な加護が、彼女の空っぽだった魔力の「泉」を強引に叩き起こし、溢れさせている。それは救いであると同時に、器である彼女の身体を壊しかねない劇薬でもあった。
「……耐えろ、エリス。今、私の魔力を流し込んで、お前の『泉』の荒ぶりを抑える」
ゼノスの声が、耳元で低く響く。
彼はエリスの背後に座り、その細い身体を後ろから抱きすくめるようにして固定した。彼の逞しい胸板から伝わる、力強い鼓動。負傷しているはずの彼の身体は、驚くほど熱く、盤石だった。
ゼノスの大きな掌が、エリスの腹部と、そして心臓のあたりにそっと置かれる。
薄い寝衣を隔てているはずなのに、彼の指先の形一つ一つが、肌を焼くような感覚となって伝わってきた。
「……っ!?」
エリスの背中が、弓なりに逸れる。
ゼノスの指先から、どろりとした、濃密な魔力が流れ込んできた。
それは彼女の体内の熱を鎮めるどころか、さらに深く、魂の奥底まで侵食していくような感覚。
「陛下……、何か、が……入って、きます……」
「黙って、受け入れろ。……私をお前の中に、刻み込め」
ゼノスはエリスのうなじに顔を埋め、深く、深く、彼女の香りを吸い込んだ。
彼の魔力がエリスの血管を駆け巡り、滞っていた彼女の「泉」を自分と同じ色に染めていく。
視界が真っ白になり、エリスは意識が溶けそうになるのを必死に堪えた。鏡を見ずともわかる。今、自分の瞳は、彼と同じ琥珀色の光を宿し始めている。
それは、もはや「看病」などという生温いものではなかった。
互いの魔力を混ぜ合わせ、一つの生き物のように響き合う――。それは聖女として受けてきたどの儀式よりも、はるかに淫靡で、独占的な「契約」だった。
やがて、荒れ狂っていた魔力の奔流が凪ぎ、エリスの身体から余分な熱が引いていく。
けれど、ゼノスは彼女を離さなかった。
それどころか、彼は力尽きてぐったりとしたエリスの身体を、さらに強く抱きしめた。
「……これで、お前の泉は私の魔力で満たされた」
彼の声は、どこか悦悦とした響きを帯びている。
彼は、エリスを「聖女」として再生させたかったのではない。彼女の全細胞を、自分のもので上書きしたかったのだ。
「誰にも、触れさせない。……お前の内側まで、私の色に染まったのだからな」
エリスは、微かな疲労感の中で、自分の首筋に落とされた彼の唇の重みを感じていた。
彼に「侵食」される恐怖よりも、これほどまでに深く自分を欲してくれる熱に、抗いようのない安らぎを覚えている自分に、彼女はそっと目を閉じた。
魔力を混ぜ合わせ、魂の奥底で繋がる。
言葉による愛の告白よりも、はるかに濃密な「魔力の循環」という名の独占。
ゼノスの不器用な支配欲が、エリスの身体を内側から作り変えていく様子、
そのじれったい熱量を感じていただけたでしょうか。
「聖女」という殻が剥がれ落ち、魔王の色に染まっていくエリス。
二人の間に流れる沈黙は、もはや拒絶ではなく、
切っても切れない「依存」へと形を変えました。
次回、魔王城に新たな波乱が訪れます。
正式な魔王妃候補として、エリスが初めて「城の主たち」と対峙する時、
ゼノスはどのような態度で彼女の横に立つのか。
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レオン・クラフト




