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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

勇者の俺、魔王(偽)にビビって「五つの願い」を無駄に全消費~本物の魔王はまだ無傷なのに、チートゼロの無能力者に戻った。ここから一体どうやって世界を救えばいいんですか?~(短篇版)

作者: 北河ゆん
掲載日:2026/02/13

「目を覚ましなさい、相浦刹那(さうらせつな)


 目を開けると、小柄で白いひげが床まで伸びている、いかにも神様みたいな人が立っていた。


「ようやく起きたか、随分待った。体感二日といったところじゃな」


 ここは一体どこ? 

 なぜここいる?

 この小柄の男性は、なぜ俺の名前を知っている?

 次から次に疑問が湧いてくる。


「色々、質問したいことがあるようじゃな」


 この人、俺の心の声がわかるのか?


「君がそんな目でわしを見ていたら、そんな質問を出したくなるわ」

「あっ、そうですよね……」


 そんな目で俺は見ていたのか。気づかなかった……。


「あなたは何者?」

「神様って言えば伝わるかな?」

「神様⁉」

「いいね。その初々しい反応」


 その反応も出るでしょ。神様って死の世界でしか会えない存在だと思っていたから……。

 もしかして……?


「ここって……?」

「ここは生と死の狭間。君たちの言葉だと三途の川と言ったほうが適切かな」


 やっぱり三途の川だった。こんな椅子さえもない、空っぽの空間で神様と話すシチェーションなんて。


「ここの空間に興味があるようじゃな」

「物が一つもない空間を始めて見ましたから」

「死ぬ前はこんな空間はなかったのか?」

「物に溢れた世界ですよ。ありえないですって……」


 さっきから自分が死んだって前提で話が続いていないか? 三途の川に行く場合って気絶の時にも行ける時があるって聞いたことがある。

 俺が死ぬなんてありえない。

 きっと過労で倒れたのかな。初めて企画から担当したプロジェクトだからな。無理が祟ったのだろう。


「俺って、気絶している状態ですよね?」

「いいや、死んだよ。今からその場面を見せるから。心して見てね」


 ……え?

 今から自分の死の瞬間を見るの? 

 

「いやー無事にプロジェクト終了。明日から二連休」


 俺の目の前に映像が出てきた。どこに映写機があるのだろう。周りを見渡しても機械らしきものがない。


「今日は飲むぞ」

 

 これはかなり酔っ払っているな。

 飲んでいる場所は、俺の住んでいるアパートの屋上かな。ここから見える夜景は絶景で、大仕事が終わると、よく飲んでいたな。

 

「くぅー、最高」

 

 千鳥足になりながら、酒を飲んでいる様子が映っている。

 神様になんてものを見せているんだ俺。顔が熱くなってきた。

 

「そろそろかな……」


 神様は言った。 

 ここから自分が死ぬ場面になるのか。にわかに信じがたい。


 一升瓶を置き、床に置いてあったタバコとライターを持ち、火をつけ、夜景を見ながら煙を吹かしている。

 なんだかかっこつけているようで恥ずかしい。

 一人だったら見る分にはまだ耐えられるが、神様と一緒に見るって、俺は何か大罪を犯すのだろうか?


「あっ……」 

 

 大きな風に揺られ、タバコが口から離れた。タバコはアパートの外へ落ちていった。

 これはまずい。どこかで引火して火事になったらでもしたら……いや火事になったから死んだのではないか?

 ありえる。


 その後、屋上の塀を超えて屋上から飛び降りた。

 これが俺の最期……。

 タバコの火を消すために自分の命を犠牲にするなんて英雄みたいじゃないか。誇ってもいい。

 でも、気になることがある。


「この後、火事ってここで起きましたか?」

「いや……火事は起きていないし、タバコも落ちていなかった。これは刹那君の頭の中が思い描いた死。実際は少し違う」


 映像は巻き戻り、酔っ払いの俺が「いやー無事にプロジェクト終了。明日から二連休」から再生された。


 ここは一升瓶片手に……持っているのではなく、紙パックのお酒を持っていた。まあ確かに一升瓶を買ったことなかったな。

 千鳥足になりながらストローで吸っている姿はどこか滑稽で、さっきのほうが良かったと思うほどだ。


 そして、床に置いてあったタバコとライターを持って火をつける場面なのだが、床にタバコもライターもない。あるのは、手に持っているストローと紙パックの酒。ここからどうやって、タバコをふかすみたいな行動を起こすのだろう。


 紙パックに刺さっているストローをタバコのように口にくわえだした。これが頭の中でタバコをふかしていたということになるのか。なんて子供っぽい祖業なのだろう。


 その後、体が大きく揺れるほどの風が吹き、ストローが口から離れて下に落下。俺は屋上を飛び降りた。


「これが刹那さんの死です……」

 

 神様が俺に敬称を使ってしまうほど死因が情けない。

 やり直したい。

 自分の人生がこんな最期で幕引きなんて嫌だ。

 もっと誇らしいと思われるような生き方をしたい。

 でも、死んでしまったし、諦めるしかないのかな……。


「さて、刹那君。キミには二つの選択肢がある。死の世界を歩むか。魔王を倒し、世界を救う救世主になるのか」

「救世主?」

「キミたちの世界では『勇者』とも言うかな。どちらを選択する?」


 ここで死の世界に行っても、後悔が残る。ストローを追いかけて落下死で、天国に行きたくない。


「勇者になります」

「もっと悩んでもいい。時間ならある」

「やらせてください。世界を救って、誇らしい自分になりたいんです。お願いします」


 俺は神様に頭を下げた。

 こんなことをするのは初めてだ。

 自分のやりたいことを通すために深々と頭を下げる行為は。


「――わかった。その心意気に敬意を称します相浦刹那よ。そして、六人目の勇者候補よ」

「六人目?」

「キミと同じ志を持った人が五人おったんじゃ。しかし、現在起きている状況を映像で見せると、たちまち死の世界に行ってしまったんじゃ。これを見て、もう一度問う」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。

 俺以外の候補者が死の世界に行きたいと変えるなんて、どんな状況なのだろう。グロ系の映像はある程度耐性はある。ドンと来いって感じだ。


 目の前に映像が流れた。


 気味の悪い生物と戦っている兵士の姿が映っている。


「この生物は魔物?」


 ゲームでしか見たことがない。

 得体の知れないもの。

 体毛がなく、つるつるしている。

 生理的に受け付けない。本当に気持ちが悪い。


「そう、魔物じゃ。魔王によって生み出された」

「魔王を倒せば、この敵は消えるのか?」

「消える……と言いたいところだが、この世界の自浄作用が魔王に堕ちてしまってるからな、わからない」


 映像が切り替わった。


 女性と女の子が逃げている。きっと親子だろう。顔が似ている。


 後ろから、魔物の触手が伸びる。女性の右足に触手が絡みつく。女性は倒れ、触手に引っ張られる。女性は絶望した表情で目のない蜘蛛に喰われていった。肉を裂く耳障りの音が脳にこべりつく。

 その様子を見た女の子は腰が抜け、その場で座り込む。集まってきた蜘蛛が不敵な笑みをし、女の子に飛びつく。女の子は声も出さず喰われていった。ここで声を出さなかったのは、言ったところで誰も助けにくることはない絶望があったからだろう。心苦しい。


「……こんなに絶望的なのか? この世界は」

「そうだ」


 映像が切り替わった。


 十人が同じ呪文を唱えている。


 これは強力の魔法を放つに違いない。

 頭上の水が大きくなっている。水の魔法で魔物を仕留める気なのだろうか。その中に稲妻が見える。水と雷の複合魔法と言ってもいいのかな。きっと強い魔法に違いない。

 これで魔物を倒してくれ。頼む。


「……え?」


 次々と翼をもった魔物に頭だけ喰われている。首からは大量の血が吹き飛ばしている。

 この世界は希望が見える場面なんて起きないのかよ……。


 映像が切り替わる。


 鎧を身にまとった女性が巨大な魔物と戦っている。女性の顔は腫れぼったく、体もぼろぼろのようで、ふらふらしている。

 対して巨大な魔物は傷一つ付いていない。


「はあはあ……そろそろ勇者が来る。ここで私は倒れるわけにはいかない」

「その威勢はいつまで続くかな?」


 魔物が木の枝を女性の右足に向けた。


「……え?」


 魔物の持っている木の枝からまばゆい光が出すと、女性の右足が吹き飛んだ。


「くっ……強い魔法だ。ここで倒れるわけにはいかない」


 と言った瞬間、まばゆい光ともに左足が吹き飛ぶ。女性は歪んだ表情になりながら両手で剣を振るが、魔物には当たらない。魔物は笑いながら、女性の体を細切れにした。


「もうやめてくれ……」


 俺は消えそうな声で神様に訴えた。


「これが今の状況だ。勇者になるなら把握しなくてはいけない」


 映像が切り替わる。

 

 大勢の魔物から逃げている人たち。この人たちにはどこか希望に満ちた雰囲気がある。

 ここさえ逃げ切れば、助かると思ってそうだな。

 どこに行っても絶望しかないのに。


 逃げている人の頭上に二体の長い爪を持った魔物が飛んでいるのが見えた。

 ……やめてくれ。

 二体の魔物は逃げている人を襲い始めた。人は呻き泣きながら逃げ、魔物は笑う。

 そして、逃げていた人は死体となった。


「もう……」


 俺の口からこれ以上言葉が出なかった。


「もう一度問う。死の世界に行くか、勇者になってこの世界を救うか」

「それは……」


 駄目だ。決断できない。

 あんな絶望的な状況だと思わなかった。俺に救う力が仮にあってバットエンド不可避の状況を打破できるのか? 


「もし、死の世界に行ったら勇者はどうなる?」

「探しますよ、七人目を」

「なら良かった……」

「では死の世界に行くってことですか?」

「もう少し考えてもよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。七人目を見つけている最中にこの世界が滅ぶ可能性もありますからね。後悔のない選択を……」


 後悔のない選択か……。

 自分が生きてきた中で何度も言われた言葉だ。その言葉がここまで重い責任を伴うのは、就職活動以来だ。いや、就職活動よりも責任は重い。

 

 この世界の命運が俺の選択にある。

 

 七人目に任せていいのか俺よ。

 ここで自分が勇者になれば助けられる命はたくさんあるし、七人目の候補者を選ぶ前に世界が滅ぶ可能性もある。

 勇者になって誇らしい生き方をしたくはないのか?


「俺、相浦刹那は勇者になることを誓います」

「本当に誓うんだな」

「はい!」


 社会人になってから、出したことのないはきはきとした声が出た。


「……ありがとう、相浦刹那。わしに誓う心意気に最大限の能力を授けよう」


 神様は手から出した、白いモヤモヤした光のたまを俺の体に入れた。


「キミの願いが五つ叶えられる能力だ。これさえあればどんな状況でも打破できる。そうは思わんかね」

「……これであの世界を救える」

「あと、これも必要じゃろ」


 神様から渡された一枚の紙。大きさで言うと名刺ぐらい。


「これは?」

「願いがいくつ残っているか、確認できるものじゃ。この紙は特別製で全ての願いを使うと消滅するようになっておる。それと、なくさないように自動追尾機能も付いておるぞ。どう気にいったか?」

「はい、気に入りました」


 紙には五つの四角い枠がある。ここに願いと書かれるのだろう。俺はどんなことを願うのだろう。


「質問してもいいですか?」

「どうぞ」

「どうして、五つなのでしょうか?」

「それは……キミたち人間に渡せるのが五つまでが限度なんじゃ。神の一割を渡せるのがルールでね。それ以上すると、わしは消滅。君は神。なんて面白いことになってしまうからね」

「なるほど……」


 この能力は神様の一部ってことか。大事に使わないと、罰が当たりそうだ。


「もしかして、五つが不満か?」

「いえいえ、大満足です」

「そろそろお迎えの時間だな」


 俺の足元に魔法陣が出現し、自分の体が徐々に光の粒子になってきている。そろそろあの世界に行くのか。


「最後に一つ聞いてもよろしいですか?」

「いいじゃろ」

「どうして、魔王を滅ぼしたいのですか? 神様は世界の干渉しないもんだと」

「それは、そうじゃが……この世界の自浄作用を自分の物にしたからじゃ。あれは個人が私利私欲に持つものではない」


              

                 ☆☆☆☆☆

 

 目を開けると、女性が俺を見つめていた。


「??????????」


 俺に向かって何かを言ったようだ。何もわからない。

 もしかして? 

 俺は急いで、服を着ているのか確認した。召喚の時、裸体の可能性があるからだ。上も下も甲冑を纏っている。あの神様、勇者の晴れ舞台にふさわしい格好を知っている。鏡を見て、全身を確認したい。


「????????????」

 

 俺に向かって何かを訴えているのはわかる。

 きっと召喚をしてくれたのはこの方だろう。

 見た目的にこの国の王女だろうか。王冠を頭に被り、豪華な装飾のドレスを身にまとっている。


「????????????????」


 さてどうしたものか。何もわからない。ハテナマークしか頭に浮かび上がらない。

 あの神様、甲冑と一緒にこの世界の人と意思疎通するための何かを施してくれても良かったのに。貴重で、大事な願いを一つ使えってことかよ。

 

 ……いや逆に考えるのだ。ただ願うだけで意思疎通できるのだ。言語の勉強をしなくても手に入る。高校の時、英語圏の人と話したいと、あれだけ英語の勉強したのに、大人になってこれっぽっちも覚えてないのと比べると、願うだけで手に入るのはありがたい。早速使ってしまおう。


『この世界の人と意思疎通がしたい』


「魔王ダルバランの手によってこの世界が滅ぶ寸前です。勇者さんどうか。お助けてください」

「ああ、任してくれ」


 意思疎通できてる。

 やった。

 うれしい。

 魔王はダルバランというのか、いかにも悪そうな名前だ。


「サータ。勇者にあの剣を」

「はい。こちら私たちのが作った剣です。魔物が塵と化す魔法が施されています」


 もう一人の女性が鞘に収まった剣を俺に渡した。

 ……かなり重たい。片手で持つことはできない。

 鞘は中心に王国の紋章に銀が包んでいるような見た目。


「おお、これが勇者の剣」


 鞘を抜くと、豪華な剣が現れた。

 剣身は金の縁取りで細すぎず、太すぎない絶妙な幅。グリップの部分は革が巻かれている。(つば)は丸くなっていて、お茶碗が上下反対についているようにも見える。本当に魔王を倒すために作られた無駄のない武器って感じだ。


「魔法をこの剣に込めてください、刀身が金色に染まります。魔法の量によっては、全てをなぎ倒せる剣に大変身。試してみてください勇者様」

「ああ、やってみる」


 これも願いで叶えろってことか……。ここで使ってしまったら、残り三つになってしまう。しかし、士気をあげるには絶好のタイミング。惜しみなく使おう。


『とてつもない魔法を剣に込めたい』


 俺がそう願うと、刀身は金色に染まり、建物全体を包む。


「勇者様、鞘を……鞘に納めてください」

「わっ……わかった」


 ここまで眩しいと思わなかった。目をつぶってしまうぐらい魔法が込められているのか。これならイケる。


「勇者様、この状況を打破できるにはあなたしかいません。頼みます」

「――任してください」

「ザビルツブ、外に行ける入り口を案内してやれ」

「かしこまりました。ソルーナ王国、三十八代目当主サルタッタ様。勇者様行きましょうか」

 

 ザビルツブのあとをついていった。


「ここですね」

 

 ザビルツブは壁の前で立ち止まった。


「ここに入り口があるんですか?」

「ええ、そうです。勇者様」


 ザビルツブは杖を壁に向けた。


「エンタランス」


 ザビルツブがそう唱えると、ドアが出現した。


「……す、凄い」

「勇者に褒められるなんて光栄です。ご武運を、勇者様」

「ああ、あとは任せろ」

 

 ドアの向こうは外に繋がっていて、外からはドアが見えない。

 不思議な魔法だ。

 さて、願いは残り三つ。大事に使わないといけないな。


「そこにいたか勇者。俺たち三人で片づけてしまおうぜ」


 長い爪をもった鳥みたいな魔物が俺にめがけて飛んできた。今の状況では俺が肉塊になってしまう。この状況を打破できる。自分が思う通りに剣が振れる技術とここにいる魔物の攻撃が聞かない体を手に入れなければ。


「ダルバラン様、勇者をここで倒します」


 一人の魔物が気前よく言った後、魔物たちは塵に還る。

 

「ええ!?」

 

 俺が剣を振ったみたいだうだ。

 俺が倒そうと認識する前に行動が出たみたい。一瞬のことで自分でも驚いている。

 俺って世界の常軌から逸脱した――チートを手に入れたのかも? これなら全員を助けられる。いや……一人では心細い。今、苦戦を強いられている兵士を助けつつ、戦える人材を確保しよう。


 俺は兵士を探しつつ、走る。

 道中、魔物が俺に攻撃をしようとするが、剣を抜けば塵へと還っていく。


「なんなんだコイツ、規格外」

「そりゃどうも」

 

 先ほど映像でみた大きい魔物も驚いてるようでそんな言葉を残して塵になった。


「ごめん。キミを助けられなかった」


 俺は無残になった女性を言葉を手向けた。


「これは、ヤバいな」

「今、勇者が暴れているらしいけどここには来ない」

「悪役らしい台詞だね。気持ちよくなっちゃうよ」

 

 声のほうに目を向けると、三メートルぐらいの人型の魔物に首を掴まれている人がいた。

 俺は人型の魔物が気づくことができない速い速度で近づき、両手を斬り落とし、両手で男性を抱き抱えた。


「ようやく来たか、待ちくたびれたぜ勇者よ」

「ちょっと昼寝してたら、遅れてしまった」

「僕も昼寝していいか。休みたい気分だ」

「ああ、思う存分。休んでくれ」

 

 俺は男性を少し離れたところに置いた。

「おまえが勇者か、俺の『デストピール』の前にひれ伏すがいい」

「いいぜ。撃って来いよ。一瞬で片づける」

「真っ黒に染まりし、死の邪剣よ。俺に使われるがいい『デストピール』」


 魔物の手から黒い剣が作られ、次第に大きくなっている。俺は鞘から剣を少し抜き、一閃を撃とうと構える。


「いいね。どっちが早く斬れるかの勝負。受けてたとう」


 魔物が足に力を入れる動作が見えたとき、俺は剣を引き抜こうと、腕に力を入れた。


「甘いね、勇者」


 俺の背後に魔物が現れた。真剣勝負ではなかったらしい。俺もそんな気はしてた。鞘から剣を抜き魔物の頸を斬り落とした。


「なぜ、不意打ちが効かない」

「魔物は品性下劣だからな」

「わかってるじゃないか。勇者よ」

 

 魔物は満足したように言い塵となって消えた。


 俺は男性に元に駆け寄った。


「あの魔物は倒した。品性のかけらもない奴だった」

「僕も拝見させてもらったが、あそこまで品性がないとは思わなかったな」


 男性は一つ間を開けて言う。


「……頼みごとをしていいか? 勇者様」

「魔物らしいと言えばそうか」

「自分が出来ることなら」

「なら丁度いいやつだ……。前線で戦っている妹がいてな。長い紫色の髪色で騎士だ。僕なんかよりも勝気な妹を助け……いや手助けして欲しいんだ」

「……妹を手助けだな。わかった。その頼み事は引き受けよう」

「ありがとう。勇者よ……さて僕はここ一帯を守……」


 男性は慌てた様子で周りを見た。


「魔物がいない……?」

「俺が全員倒したからな」

「まじか……」


 男性は引いたような声を出した。

 これはやりすぎたみたいだ。


「これってやりすぎだった?」

「いや、勇者はこれぐらい規格外のほうがいい」

「じゃ、行ってくる」


 俺は男性の妹を探しに走り出した。


 魔物が次々とやってくる。

 俺は子供がチャンバラするように剣を振るった。不思議とこの動作が魔物に効くみたいで、次々と塵になって消える。


「私は、勇者が来るまでの足止め係だ」


 巨大な魔物に頭をつかまれ、今にも頭が潰されそうな長い紫色の髪の女性騎士がいた。俺はすかさず魔物に近づき、片手を斬り落とし、女性を抱きかかえる。


「大丈夫か?」

「あなたが勇者……?」

「ああ」

「遅いじゃねーか勇者。あとは……」


 女性は俺の腕の中で気を失った。


「勇者、おでのお楽しみを……楽しみを、よくも、よくも!」


 魔物は怒っているみたいで、血管が浮かび上がっている。


「ごめんな。とある兄に頼まれてね」


 俺は女性を少し離れたところに置いた。


「そういう感動する話嫌い。殺して台無しにしてやる」


 魔物は俺に向かって走り出した。

 俺は剣を抜き、簡単に復活できないぐらい細切れに斬った。


「くそ野郎……」


 俺は剣に付いた血を払い落とし、鞘に納めた。


 こんなくそ野郎をどれだけ斬っても出てくる。らちが明かない。


「あの、勇者……様」


 紫色の髪の女性は目を開けた。


「アイツなら、俺が斬った。安心してくれ」

「なら、良かった……」


 地道に戦っても、助けられる者が限られるだろう。願いはまだ三つもある。ここの一帯の魔物を消す願いを叶えてもいいだろう。


「今から、ここ一帯の魔物を消そうと思う」

「何を言っているの?」


 俺は空へ上がっていった。

 ここ一帯の魔物を消す魔法を撃つなら上からほうが効果的なはず。


 先ほどの魔物よりも強い何かが近づいてくる。

 俺の細胞が危険信号を出す。さっきまでの遥かに高いレベルの高い魔物だろう。


「キミが勇者?」

「ああ、そうだ」


 黒全体に金色の装飾がついているローブを着ている魔物が現れた。

 明らかに他の魔物とは別格のやつだ。


「殺す前に自己紹介をしないとですね。魔王後成(ごせい)、ラスリューズと申します」

 

 魔王後成? 魔王幹部ってことなのかな?


「私は全ての属性が使えるんです。さて、自己紹介は済んだことですし、死んでくださいな『マスッタ・ソーン』」


 ラスリューズの右手から風と火が付いた玉のようなもの、左には雷、岩、水、氷が混ざった玉が現れた。それらを掛け合わせた。黒と白が混ざった禍々しい玉ができた。


「カオスな死をあなたに」


 ラスリューズは優しく渡すように手を離した。

 禍々しい玉は凄まじい音を立て、俺に近づいてくる。これを喰らったらひとたまりもない。俺の剣技で斬れるのか? やるしかない。

 俺は鞘から剣を抜き、禍々しい玉に剣が触れた。

 触れた瞬間、ブラックホールのように体が吸い込まれる感触と体が吹き飛びそうな感触が同時に来る。


「これがカオスか……面白い。『剣技、天己(てんこ)の舞』」


 俺は剣で玉を斬り、その勢いで魔物を斬った。まるで踊っているように華麗であった。


「なんだその技……」


 ラスリューズはそう言い残し、塵になった。

 

 なぜ俺の口から、『天己の舞』という言葉が出たのかわからないが、倒せたので良かった。


「お見事です。まさか魔王後成なりたての彼を倒してしまうなんて」

「誰だ?」


 喋っている魔物の姿は見えない


「申し遅れました。魔王に……」

「お前か、魔王ダルバランっていうのは」


 少し食い気味に言ってしまったが、コイツが魔王らしい。


「ええ、その魔王です」


 俺の背後に現れて首元に剣を突き立てた。


「勇者とお手合わせお願いしても」

「そんな時間はない」


 俺はダルバランに距離を取った。


「それもそうですね。あなたちには、時間がありません。なぜなら私がある魔法を唱えたのですから」

「なに?」

「この魔法は魔物が狂暴になるものでして、私の力と同等まで強くなるものです。勇者だけが生き残る。そんな感じになりますね」


 俺はダルバランに切りかかる


「血の気が多い勇者ですね。もっと知性がある人だと思っていました」

「ごめんな。おまえを倒したくてうずうずしてたんだ」

「『エアーダス』」


 ダルデバランの手から風が吹かれ少し飛ばされた。


「ここで勇者を滅ぼしましょう。雷鳴に轟き、万物の力にひれ伏すがいい『ディスニール・バーウ』」


 ダルデバランから大きな魔法が俺に向かってきた。

 ここで放つしかない。ここ一帯の魔物を全て消しつつ、あの魔王を倒せる魔法を


 

「全てを金色に染め、融和の心を持って(あがな)え」


 俺の足元には水面のようなものが現れ、輪を広がっていき水の波紋みたいになっている。


「『ブレイブ・ダスト』」

 

 大地は黄金のように輝き、次々と魔物が塵になっていく。

 『ブレイブ・ダスト』は涙のように一滴がダルデバランに当たる。


「こんなちんけな魔法で俺を倒そうなんて……」


 ダルデバランが言った瞬間、爆発が辺りを包んだ。


 なんて威力なんだ。必殺技にしてはダサい名前ではあるが、倒せたので良しとしよう。

 俺は地面に降下した。

 空を見上げれば、雲一つない晴天に変わっていた。きっと、神様が祝福だろう。

 

 さて、願いが何個残っているか確認しないとな。俺の考えでは後二個残っている。

 俺は鎧を外し、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。


「あれ……ない」


 召喚の時、消えてしまったのかな、それとも神様が入れ忘れとか。

 いや、特別製って言ってたし……。

 消滅するときって、願いが全部使った時だけ……確認してみるか。


 『この世界の人と意思疎通がしたい』で一回。

 『とてつもない魔法を剣に込めたい』で二回。

 後、急激に剣が軽くなったり、強くなったのを入れて三回。

 最後のダサい必殺技で四回……。

 一個は残っている気がする。

 

 あっ、空を飛んで確認が四回で、ダサい必殺技の願いが叶って、五回だ……。

 ちゃんと使ってる。

 惜しみなく使っている。


「勇者さん、やりましたね」

「君は?」

「ソルーナ王国のマチャネと申します」

「あっ、王女様」

「の娘です」

「あ-お姫様ね」

「はい、そうです」

「まさか、ジャジャラ・バールと倒すなんて」

「ジャジャラ・バール? ダルデバランじゃないの?」

「――はい、魔王じゃないですよ」

「……」


 最悪な状況は免れた。しかし、その代償は俺が普通

 今から魔王討伐なんてイケる?


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