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風鈴しまう頃

作者: 沙華やや子
掲載日:2025/12/16

ネェきいて

 あたしは糸菊(いとぎく)。黄に朱色の筋が入った珍しい女。


 あなたは糸菊を知っているかしら……。え、わからない?

 あたしが教えて差し上げます。


 そうね、言うなれば花火。ライバルは曼珠沙華さんよ。あのレディな花火のようなお姿を、沢山の方がご存じね。

 あたし、あの方に少し似ているの。パッと咲いているの。

 でも、曼珠沙華さんとの違いは花びらの向きにあるわ。

 彼女は上を見て堂々としている。あたしは少しシャイなの。俯きがち。人々はそれを『枝垂れている』と表現するわよ。


 あたしのシルエットは、京友禅のアロハシャツになるし、浴衣やお着物に飾られるのなんてお茶の子さいさいなんだ。


 恋人……? 居ないわ。片想いのひとなら居るけどね。


 それは、あたしを毎年咲かせてくれる数詞(かずし)さんというお爺さん。

 ええ、植物のお手入れをする職人さんよ。


 お花だから、気持ちを伝えられないのよ。


 あたしが初めて彼に出逢ったとき、彼・数詞さんは二十歳(はたち)の青年でした。

 あたし……? あたしはね、花言葉の1つに『生命力』というものがあるぐらいで、それを地で行っている。

 数詞さんのお陰もあり、娘のまんまなの。


 数詞さんが先日、他の若い植木職人の方と話していた。


「オイラ、不治の病にかかっちまった」って。


 分かるんだ、あたし。喋れないけれど、言葉というものを理解できるの。


 あたしが数詞さんに恋をしたのは、彼がたくさんの愛の言葉を与えてくれたからなんだ。そうして、丁寧にお世話をしてくれる。虫君たちを追っ払ってくれるし、美味しいお水を毎日くれるんだよ。あたしが美女であれるよう、要らなくなった葉っぱをハサミでチョキンチョキンしてくれるの!

 その優しい肌に触れる度、あたしは震え、水の玉を飛ばしそうなほど感動するわ。


                  *


 ――――糸菊が恋焦がれた数詞さんは、残暑が切なく消えゆく頃に息を引き取った。



 数詞さんのゴツゴツとした温かな手……。あたしを追い越し、どんどん大人へとなって行った数詞さん。

 いつかこんな日が来るのかなって、時々胸を痛めていた。そう、何十年も。


 あたしは愛した人を、素敵にお見送りしました。皆が風鈴を軒から外すとき、あたしは華やかに花開くんだ。





ずっと咲くから安心していてね

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