風鈴しまう頃
ネェきいて
あたしは糸菊。黄に朱色の筋が入った珍しい女。
あなたは糸菊を知っているかしら……。え、わからない?
あたしが教えて差し上げます。
そうね、言うなれば花火。ライバルは曼珠沙華さんよ。あのレディな花火のようなお姿を、沢山の方がご存じね。
あたし、あの方に少し似ているの。パッと咲いているの。
でも、曼珠沙華さんとの違いは花びらの向きにあるわ。
彼女は上を見て堂々としている。あたしは少しシャイなの。俯きがち。人々はそれを『枝垂れている』と表現するわよ。
あたしのシルエットは、京友禅のアロハシャツになるし、浴衣やお着物に飾られるのなんてお茶の子さいさいなんだ。
恋人……? 居ないわ。片想いのひとなら居るけどね。
それは、あたしを毎年咲かせてくれる数詞さんというお爺さん。
ええ、植物のお手入れをする職人さんよ。
お花だから、気持ちを伝えられないのよ。
あたしが初めて彼に出逢ったとき、彼・数詞さんは二十歳の青年でした。
あたし……? あたしはね、花言葉の1つに『生命力』というものがあるぐらいで、それを地で行っている。
数詞さんのお陰もあり、娘のまんまなの。
数詞さんが先日、他の若い植木職人の方と話していた。
「オイラ、不治の病にかかっちまった」って。
分かるんだ、あたし。喋れないけれど、言葉というものを理解できるの。
あたしが数詞さんに恋をしたのは、彼がたくさんの愛の言葉を与えてくれたからなんだ。そうして、丁寧にお世話をしてくれる。虫君たちを追っ払ってくれるし、美味しいお水を毎日くれるんだよ。あたしが美女であれるよう、要らなくなった葉っぱをハサミでチョキンチョキンしてくれるの!
その優しい肌に触れる度、あたしは震え、水の玉を飛ばしそうなほど感動するわ。
*
――――糸菊が恋焦がれた数詞さんは、残暑が切なく消えゆく頃に息を引き取った。
数詞さんのゴツゴツとした温かな手……。あたしを追い越し、どんどん大人へとなって行った数詞さん。
いつかこんな日が来るのかなって、時々胸を痛めていた。そう、何十年も。
あたしは愛した人を、素敵にお見送りしました。皆が風鈴を軒から外すとき、あたしは華やかに花開くんだ。
ずっと咲くから安心していてね




