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第四話

ある晩ふと帳簿と監視記録を突き合わせていた。

目に飛び込んできたのは、偶然とは呼べない微細な規則性だった。

犯人は、この街の水を使っている。

散発的に散らばっていた情報が組み上がりはじめる。

監視カメラの死角‥。

表通りに面したカメラは明るい。

だが、裏口のスタッフ専用の搬入口とカフェ横の細い路地は、夜になるとフレームの端が闇に沈む。

たった三秒だが三秒の間に、プロは手際よく人を押し込み、気配を消す。

湖へ繋がる桟橋‥。

カフェの裏手から徒歩三分。

人がほとんど通らない、地元でも忘れられつつある古い桟橋。

手すりは錆び、木材は湿気で黒ずみ、踏めばわずかに沈む。

だが、湖へ人を運び込むには十分だった。

犯人は、そこを使い慣れている。

夜闇に沈む桟橋で、船を出す気配はほとんど音にならない。

静かな水音だけが、淡く夜を震わせる。

微妙な風向きと、夜間の船‥。

湖には、春から夏にかけて特有の逆巻き風が起きる。

外から見ると穏やかだが、湖面数十センチ上を一定方向に押し流す、気まぐれでありながら安定した風。

素人には読めない風、だが熟知している者には静かな味方となる。

その風が、船の出航を外部から隠す。

波形の乱れが自然のざわめきに紛れ、カメラにも、人の耳にも残らない。

南へ押し流される水流‥。

湖底には複雑な渦がある。

だが、表層の流れだけは常に南へ。

少しずつ人の身体を、まるで不要物の処理を請け負うように運ぶ。

回収されたときには、遺体は別の市の水域へと流れている。

春から夏。腐敗と損壊が最も早く進む季節に被害者が集中していた理由も、そこにあった。

これらのデータを漕ぎ続けてきたエルムハーストは、ひとつの共通点を掬い取る。

被害者たちの来店の理由はバラバラで顔見知りでもなく行動パターンも共有していないが訪れた時間帯だけは、見事なまでに一致していた。

閉店前後。

客が引き、カフェの空間にすき間風が吹きはじめる時間。

厨房にはミカエルが残り、フロアにはサラが一人。

二人態勢になる、短い静寂の時間帯。

そのわずかな隙を、犯人は待ち続けていた。

獲物が自ら近づいてくるのを、ただ静かに。

この犯人は、偶然に賭けるタイプではない。

環境を読み、人の心理と生活のリズムすら利用し、この水域を、完璧な証拠消失装置として運用しているプロだ。

間違いなくここを狩場にしている。

そして、次の獲物もすでに視界に捉えている。

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