第二話
アメリカ連邦保安局。いわば国家規模の後始末を担う組織に、その名を伝説のようにささやかれる調査官がいた。
ジョシュア・エルムハースト。長身である。
濡れたアスファルトを思わせる黒いコートは、歩くたびに風を裂く。
声は低く澄みきり、冷静、合理的、だが皮肉とユーモアを潜ませる余裕を忘れない。
彼は過去、連続殺人事件のプロファイリングで名を上げ、多くの州警察とFBIが匙を投げた案件を静かに仕留めてきた。
事件が複雑であればあるほど、エルムハーストは静かに微笑む。
世界のどこかに因果のほつれがあろうものなら、その糸を指先で優雅にほどいてみせる。
そういう奴である。
そんな彼の耳に、シカゴ市警の不自然な沈黙が届いた。
「三か月連続で遺体が上がっているのに、市警は事故扱いで処理した」
情報提供者の声には、呆れと恐怖が混じっていた。
市警内部には、不審死の連鎖を覆い隠すような空気が漂っているという。
誰かが圧力をかけているのか、あるいは市警自体が怠慢なのか‥。
彼は言った。
「十六名が?偶然に‥?‥妙だな‥?」
そして、エルムハーストの独自捜査が静かに始まった。
まず彼は、全被害者のデータを徹底的に洗い出した。
職業、家庭環境、SNSの行動履歴、購買記録、友人関係、移動ルート、睡眠サイクル。ありとあらゆる断片を集め、巨大なホワイトボードに貼りつけていく。
だが職業は学生、技師、観光客、教師、バーの店員…。
年齢も十七から五十まで幅広い。
生活圏もバラバラで、互いの人間関係に接点もない。
思わず犯人が投げやりにテキトーに選んでるのかと呟きたくなるほど散らかっていた。
しかし、エルムハーストは整いすぎた無関係ほど臭いものはないと知っている。
犯人が意図的にランダム性を演出している可能性があるからだ。
そして、ついに見つけた。
たったひとつだけ、すべての点を貫く共通項。
死の前日、全員が同じ場所を通っている。
地図上で軌跡を重ねた瞬間、エルムハーストは息を止めた。
線が一点で交差する。
湖畔の外れ‥観光客向けの小さなカフェ。
ナインス・ドック。
夜には若いジャズバンドが演奏し、学生も社会人も立ち寄る。
店の評価は高く、特別怪しい噂も聞かない。
ただ、十六名全員がそこを通っていた。
店に入った者もいれば、店の前を歩いただけの者もいる。
しかし、この一致はもはや統計では説明できなかった。




