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7話 アッセンブル

今回は主人公出ます。

 体育が終わり、男子は更衣室に戻った。その間、俺とマサは一言も話さなかった。制服に着替えている時、鈴宮が声をかけてきた。俺とマサの間で何かあったのだと察したのだろう。


「……大丈夫」


 俺は一言そう言い、先に教室に戻った。教室にはすでに女子が戻っていた。俺は自分の席に向かうとチラチラと天が俺のことを見てきた。


 ……今は何も考えたくない。


 そこから下校時刻まで、ほとんど誰とも話さなかった。時折、鈴宮や白石さんが話しかけてきたが俺は適当に返事をした。何を言ったのかもあまり覚えてない。


「はい、今日も一日お疲れ様。気を付けて帰れよ~」


 佐々木先生の言葉を聞き、皆一斉に立ち上がって教室から出て行く。俺も鞄を持ち教室から出ようとした。すると俺のもとに鈴宮が来た。


「勉強会なんだけど明後日の放課後でいいか?」

「……わかった」


 俺は教室を出て下駄箱へ向かった。そして靴を履き替え、真っすぐ家に帰った。下校中、今日の出来事を思い出していた。

 

『はるちゃん私たちを避けてるでしょ』

『なんで最近俺たちを避けてる?』


 二人ともこの質問をしてきた。この時、二人は同じ顔をしていた。寂しそうな、心配そうな顔。


 俺は徐々に歩く速度を速めた。途中赤信号で止まったが俺はその場に止まっていることが嫌で、その信号を渡らず歩き続けた。遠回りになることをわかっていたが、今俺は誰にも顔を見られたくなかった。


「……ッ!」


 俺は走った。目線を下げたまま全力で走った。一秒でも速く家に帰るために。自分の抱える醜い想いが街中に吐き出されないために。気づけば俺は家の前にいた。


「ハァ……、ハア……」


 家には鍵が掛かっている。まだ誰も帰っていないようだ。俺は家に入り靴を脱ぐとそのままキッチンへ向かった。冷蔵庫を開けて中に入っていたお茶のペットボトルを取る。俺はそれを一気に飲み干した。乾いた喉が潤っていくのを感じた。空になったペットボトルをゴミ箱に捨て、二階の自分の部屋へ行く。


 部屋に入り鞄を投げ捨て、俺は倒れるようにベットに寝転んだ。頭の中にずっと二人の言葉が残っている。


「くそ……」


 俺は頭から布団をかぶり、目を閉じた。頭の中に響く声を消したくて、俺は眠りの中へ逃げ込んだ。



 

 どれぐらい寝ていたのだろう。俺は目を覚ましスマホを見る。どうやら二時間ほど寝ていたようだ。俺はベットから起き上がると、下の階から物音がした。おそらく母さんが帰ってきたのだろう。


 一階に降りると、母さんが洗濯物を畳んでいた。母さんが俺を見る。


「あら? 遥寝てたの?」


 母さんは優しそくそんなことを言った。しかしすぐに顔をしかめた。


「ちょっと、制服のまま寝たの? ゴミが付くから上着は脱いでよ」

「ごめん。次から気を付けるよ」


 母さんは俺の言葉を疑ったような顔をした。そのあと、母さんは思い出したかのように俺に言った。


「遥、近くのスーパーでカレーのルゥ買って買ってきてくれない? 今日買うの忘れちゃって」

「別の作れば?」

「今日はカレーの口なのよ」

「……わかった。中辛でしょ?」

「うん、ありがとう」


 俺は一度部屋に戻り私服に着替える。理由は制服だと目立つと思ったからだ。着替え終わると、鞄から財布を取り出しエコバックに入れる。そして再び一階に降り、家を出た。


 スーパーでカレールゥを購入した俺は家へと戻っていた。今はレジが混む時間帯だったため時間がかかってしまった。失った時間を取り戻すため、俺は小走りで家に向かった。


 家に着くと家の前で誰かが話していた。俺はすぐにその二人が誰かわかった。話していた二人も俺に気づき話しかけてくる。


「お兄ちゃんおかえり」


 一人は俺の妹の栞だ。中学2年生でバレー部に入っている。いつも遅くまで練習しているためこの時間に帰ってくる。


「どこ行ってたの?」

「カレールゥ買いに行ってた」

「今日カレーなの!? やったね」


 栞は嬉しそうにガッツポーズした。そんな栞を眺めていると、もう一人の人物が声をかけてきた。


「こんばんは、遥君」

「よう、花」


 高音花、長い黒髪ときれいな顔が特徴的な女の子。チャームポイントは前髪に付けてる水色のヘアピンらしい。彼女は俺と同じ高校に通う三人目の幼馴染だ。花は非常に頭が良く、特進クラスの五組にいる。中学の頃、俺や天はテストがあるたびに花に泣きついていた。彼女の家は俺の家の隣なので、栞と花は帰り道でばったり会ったのだろう。


「あなたの私服姿なんて久しぶりだわ」

「最近学校以外で外に出てないからな」

「用事があるからと私たちの誘いを断るのに外に出てないのね」

「!」


 しまった……。つい本当のことを言ってしまった。


 墓穴を掘った俺は必死に言い訳を考えるが、目の前の花を欺けるものを思い付かない。俺は無言で立ち尽くした。花はただ静かに俺のことを見つめている。すると俺たちの間に栞が入ってきた。


「何の話?」

「最近あなたのお兄さんが用事があるからって誘いを断ってくるの」

「ん? 用事? お兄ちゃん、家から帰ったらすぐに自分の部屋に言って閉じこもってるよ? お母さんが『遅めの反抗期かしら?』って言ってた」

「栞黙れ」


 これ以上はまじでやばい。


 俺は栞がそれ以上余計なことを言わないように制止した。栞は頭にハテナを浮かべて俺を見てくる。


「反抗期ね……。私たちの誘いを断るのも反抗期かしら?」

「違うわ」


 にやけながら聞いてくる花に俺は即否定する。


「悪いけど、このルゥを速く母さんに届けないといけないからもう家に入るわ。ほら栞も」

「えー。またね花姉」

「またね栞ちゃん」


 俺はこれ以上状況が悪化する前に栞を連れて家に入る。


「遥君」


 玄関の扉を閉める直前、花が俺に声をかける。


「どうして私たちを避けてるの?」


 今日三度目の同じ質問に扉を閉める手が止まる。俺はしばらく黙ってから答える。


「今度……教える……」

「……わかったわ。おやすみ」


 俺の返答に花がどんな表情をしたかわからないまま扉を閉めた。


「……栞。これ母さんに渡しておいて」

「いいけど……。お兄ちゃん花姉たちと喧嘩でもしたの?」

「……そんなとこ」

「ふぅーん。早く仲直りしなよ」


 そう言うと栞は「ただいまー」と言いながらリビングへ向かった。俺は黙って自分の部屋へと向う。


 部屋に入り、財布をベットへ投げながら勉強机の椅子に座る。俺は机の端にある写真立てを手に取る。そこには昔、幼馴染四人で遊んだ時に撮った写真が入っている。皆笑っている。俺は写真に写る幼馴染一人一人の顔を眺め、最後に自分の顔を見た。


 最後にあいつらといるときに笑ったのはいつだっけ……。


 写真立てを元の位置に戻し、仰け反る。


 もう限界か……。


 天井を見ながら今日の三人の顔を思い出す。


 言おう……、全部。


 母さんが呼びに来るまで、俺は目を瞑りじっと椅子に座っていた。



 二日後の放課後、俺は今図書室にいた。周りには鈴宮と白石さん、そして西野さんがいる。今日は予定していた勉強会。図書委員の白石さんの提案で図書室ですることになった。


 中間テストが終わったらすべてを伝えよう。


 そんなことを思いながら持ってるペンを回す。


「月見さん遅いね」

「西野さん、何か知ってる?」

「何も。天ちゃんちょっと遅れるとしか言ってなかった」


 予定時刻から十分経っても来ない天に、皆何かあったのではないかと心配し始めた矢先、図書室のドアが開かれた。


「ごめん。遅れちゃった」


 俺たちはようやく来た天に安心したのも束の間、後ろにいる人たちに目を向ける。


「急で悪いんだけど、この二人も入れていいかな?」


 天の後ろには星野正輝と高音花が立っていた。


 ああ、……今日か。


 俺は一人覚悟を決めた。

ついに一番書きたかったところを書ける

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