5話 キャッチボール
毎回反省点が見つかる
「じゃあ今日はここまで。宿題ちゃんとやって来いよー」
たった今ニ限目が終わり、先生が教室を出て行く。俺は、教科書を鞄にしまい、代わりに体操服を取り出す。
「更衣室行こうぜ」
「おう」
次の授業は体育のため、体操服を持ち更衣室へ向かう。
「今日から野球やるんだっけ?」
「いや、野球じゃなくてソフトボールだ。女子はバトミントンだったかな」
「たのしそ」
更衣室に着いた後、俺の疑問に鈴宮が着替えながら答える。
うちの高校の体育は男女で別れて授業を行う。そして一週間ごとに校庭と体育館を交代している。ただ、クラス全体の人数が大体四十人くらいなので、男女で別れると二十人ずつになってしまい、スポーツをするには少し人数が足りない。そのため、体育はほかのクラスと合同で行われる。
着替え終えた俺たちは校庭に向かった。
「外は日差しが熱いからいやだなぁ。絶対汗かく」
「中は中で蒸し暑いから地獄だぞ」
「バスケ部が言うと説得力があるな」
鈴宮はバスケ部に入っているため、放課後に体育館で練習してる。体育館の蒸し暑さは一般生徒より人一倍知っている。そんな彼が地獄というならまじでやばいんだろう。
「黒川もバスケ部入ったら?モテるぞ」
「そんなベタな迷信信じてないわ」
「でも俺たまに告られるぜ」
「殴る」
そんな風な会話をしているといつの間にか校庭に着いていた。もうすでに何人かの生徒は集合していた。それから数分経ってから、体育教師の松元が来た。
「三組も四組も全員集合してるな? 前回言ってた通り、今日からソフトボールをする。では、準備運動はじめ!」
指示に従い、俺たちは準備運動を始める。その間、先生はソフトボールの道具を倉庫から運んでいた。準備運動を終え、再び先生の前に集まると松元が次の指示を出した。
「よし。まずはキャッチボールから行う。二人ペアになったやつからグローブとボールを取りに来い」
出た。体育教師の悪魔の言葉、二人ペア。相手がいなくて余った生徒は先生とマンツーマンでやることになる。
俺はすぐさま鈴宮を探したが、鈴宮は既にほかのやつとペアを組んだらしく、申し訳なさそうに手を合わせている。口元は笑ってたけど。
やばい。早く相手を見つけないと松元とキャッチボールやることになる。
俺はあたりを見渡したが、まだペアになっていない奴はほとんどいなかった。
くそっ! ダメか……
俺は諦め、先生の方へ歩く。
「ハル」
自分を呼ぶ声に俺は立ち止まり振り返る。そこには幼馴染の星野正輝が立っていた。
「俺と組もうぜ」
「マサ!」
「相手いないんだろ? なら俺と組もう」
「ありがとう!」
救世主! 体育でマサと二人になることをできる限り避けたいけど、松元とやるより百倍マシ!
俺は二つ返事で承諾した。
「おい星野! 俺とやるんじゃなかったのか!?」
「あ……。ごめん、忘れてた」
「忘れてんじゃないよ!」
マサの友達らしき男子がマサに文句を言っていると、それに松元が気いた。
「ん? なんだ余ったのか? しょうがない俺とやるか」
「え!? いや……! 俺相手いるので大丈夫っす!」
「何言ってるんだ。お前以外皆ペアになってるぞ。余りはいない」
「ウソだろ!?」
彼は周りを見渡したがほかに余っている男子は一人も見つからない。
「ほらキャッチボールやるぞ。俺と二人で」
「いやだぁぁぁぁぁぁ!」
「吉田ごめ~ん」
松元に連れていかれく男子にマサは謝るが、全く謝意を感じない。
「……よかったのか?」
「後でちゃんと詫びるさ」
俺が聞くと、マサは笑いながら答える。ならいいかと、マサの言葉に俺は、納得した。
「こうでもしないとハルと二人きりで話せないだろ?」
マサはグローブとボールを取りに行く。どうやら俺はまた幼馴染に嵌められたらしい。
……なんか皆、強引になってきたな。
そんなことを考えながら俺もマサの後を追った。
道具を手に入れた後、キャッチボールをするために他の生徒から離れた。そして俺たちも十メートルほど距離を空ける。肩慣らしに数回ボールを投げ合ったが、運動神経がいいだけあってマサは簡単そうにボールを投げる。この間、お互いに無言だった。
十数回目のボールを投げるとき、マサが口を開いた。
「なんで最近俺たちを避けてる?」
初っ端からストレートな質問にボールを取り損ねそうになる。
「いろいろあんだよっ」
「いろいろって何?」
仕返しのつもりで俺は少し力を入れて投げたが、俺が返したボールを簡単に取りすぐ返球してくるマサに少しイラつく。マサのボールもさっきより速くなっている気がする。
「なんでもいいだろ。俺が何をしよう……とっ」
「よくない……」
「っ!」
さっきよりも強くボールを投げたが、それでもマサは楽々とボールを取る。打って変わって、マサのボールは確実にさっきより速くなっており、取るのが難しくなっていく。受け止めた左手に強い衝撃が伝わる。
俺は本気で投げた。それでもマサはまだまだ余裕そうに取る。すぐに返球されたボールをまたグローブで取るが、今度は衝撃と同時に痛みを感じた。
気が付くとお互い投手のように投げ合っていた。
「なんで俺たちを避けてる」
「……」
「なんで嘘をつく」
「……っ」
「なんで何も言わない!」
「……くっ!」
マサのボールを取るたびに左手に痛みが走る。あまりの威力にボールを取るのもやっとだ。俺も返球するがさっきまで投げてたほどの速さはない。またマサがボールを投げてきた。しかし、さっきよりも明らかに遅かった。俺はグローブを広げ、ボールを収めようとしたーー
「俺たち親友だろ?」
ーーが、マサの言葉に一瞬体が止まった。ボールはグローブを掠り、後ろに転がっていく。俺たちは顔を見合わせる。何も言い出さない俺をマサはただじっと見つめる。
どうして皆、そんな目で見る……。
俺が口を開こうとした時、
「キャッチボールは終了! これから試合するから全員集合!」
松本の声が校庭に響いた。
「……行こう」
マサはそう言い残し、走っていった。
「……」
俺は後ろに転がっていったボールを取りに逆方向に歩く。ボールを拾って振り返り、マサが走っている姿を見る。
「……親友だよ」
呟いた言葉は、校庭に吹く風の音でかき消された。
自分の語彙力の乏しさが悔しい