2話 クラスのかぐや姫
考えてない設定がポンポン出てきて全然進まない。書いては消しの繰り返しになっちゃう。
月見天、俺や鈴宮と同じ一年三組の女の子。ショートボブに整った顔立ち。その顔立ちと誰に対しても対等に接する性格から男女どちらからも絶大な人気を得ている。特に男子は一度喋っただけで恋に落ちるやつも少なくない。いわばクラスのマドンナというやつだ。噂だと一日三回告白されているとか、もうファンクラブが作られているそうだ。そんな彼女はかぐや姫と呼ばれている。由来はきれいな顔と名前の月からきている。本人はあまり気に入ってはいないようだ。
俺がどうしてこんなに彼女に詳しいのかって?もちろん彼女のストーカーとかではない。俺と天は…
「おはようはるちゃん。朝に会うのは久しぶりな気がするね」
「………おはよ天」
クラスのマドンナとフレンドリーに挨拶をする。そう、天は俺の幼馴染だ。幼少期、俺とマサと天、そしてもう一人の四人でよく遊んでいた。幼稚園から高校までずっと同じ学校に通っている。長年一緒にいるため隠し事をすることが難しいのが悩みの一つだ。
天を含めた幼馴染三人は俺にとって大事な人たちであり、あまり会いたくない人物だ。特に天には。
「二人で何の話をしていたの?私の名前を言ってた気がするけど」
「大したことではないさ。月見さんと幼馴染の黒川の心労について話してたんだ」
天の質問に鈴宮が答える。
「えっ!はるちゃん何か困ってるの?私、力になるよ?」
「天の手を借りたらさらにひどくなるわ」
「?」
「月見さん自覚無いみたいだぞ」
「うん。知ってた」
天はすこし抜けてるところがあるんだよな。
俺が何に困っているか本当にわかっていない天に対して、鈴宮はからかうように俺を見て、俺は頭を抱えた。
天は今やクラス、いや学年のマドンナ的な存在になっている。そんなマドンナに異性の幼馴染がいる。となれば、当然マドンナに好意を寄せる男子どもは嫉妬に狂った眼差しをその異性に向ける。
そう俺、黒川遥だ。
高校に入学してから一ヶ月あまり、これまで男子どもに何度も天に関する質問をされ、紹介しろと脅白された。いくら幼馴染だとしても本人のいないところで勝手なことをしていいわけがない。俺を訪れてきた男子を適当にあしらってきた。すると、男子どもは俺が天を独占したいのだと勝手なことを言い、天が俺に話しかける度に凄まじい殺気のこもった目で睨め付けてくる。本当に勘弁してほしい。そんな彼らもありがたいこともあるけど。
そんな俺に普通に接してくれる男子はマサと鈴宮、あと数名の友人だけだ。特に高校から友人になった鈴宮のような人たちは心の底から信頼している。まじありがとう。
ちなみに天と俺が幼馴染ということはマサも当然天と幼馴染であるわけだが、このことを男子に伝えると、『星野は月見さんと付き合っても違和感ないからいいんだよ』らしい。言ってることはよくわかるが赤の他人に言われるとすごい腹立つ。
「天は気にしなくていいよ。大したことはないから」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
「……ならいいけど」
本当に大したことはないが、天が関わると本当に命が危なくなりかねないため、平然を装った。天はあまり納得してないっぽいけど。
「でも珍しいね、月見さんがこの時間にまだ教室にいないなんて」
俺も気になっていたことを鈴宮が口にした。いつもなら俺たちより先に教室にいるはずの天がまだここにいるのだ。鈴宮は珍しいこともあるなとしか思ってないだろうが、俺には大きな問題だ。今後家を出る時間を変えなければならなくなる。彼女たちと教室に着くまでに会わないためにわざと遅い時間に家を出てるのだから。
「いや〜昨日真莉ちゃんに借りた本読んでたら面白すぎて止まらなくなっちゃって。いつもより起きるのが遅くなっちゃった。」
「そっか」
それなら家を出る時間を変える必要はないな。今日がイレギュラーだっただけのようだ。
「でもよかったかも。朝からはるちゃんに会えたしね」
その言葉に俺は一瞬眉をひそめたが、笑顔でいる天にバレないようにすぐに表情を元に戻した。
「…いつも教室で会ってるだろ」
「教室だとあまりはるちゃんと話ができないじゃん。私も真莉ちゃんや他の友達と話してるし、はるちゃんも鈴宮君と話してたりするし」
人気者の天の周りにはいつも人が集まっている。そのため天は俺に話しかけてくることがほとんどない。それに加えて、クラスの男子が俺が天と話さないようにいろいろ妨害しているのだ。天は邪魔に思っているかもしれないが、俺にとってはありがたい存在だ。
「はるちゃん高校に入学してから、いつもこの時間に学校来てるよね。どうして?」
「最近発売したゲームに熱中しちゃっていつも夜遅くに寝てるんだよ」
「ウソ。はるちゃん朝に強いからちょっとやそっとじゃ寝坊しないじゃん。中学の時も一度も遅刻したことないじゃん」
「………」
やはり天には俺が咄嗟についた嘘も簡単にバレてしまう。しかし、この隠し事だけはバレるわけにはいかない!バレたくない!俺はこれから起こることを予感し、教室に向かう歩みを少し速めた。
まずい
「ねえ、どうして最近私たちと一緒に遊ばなくなったの?何度誘っても断るじゃん」
天の顔を見ることができない。俺はうつむき、さらに歩みを速めながら答える。
「言ってただろ用事があるって」
「ウソ。ここ数か月、毎回用事があるなんてありえない」
やめてくれ
「はるちゃん私たちを避けてるでしょ」
声から天が今どれだけ真面目に質問しているか伝わる。
「別に避けてねーよ」
「それもウソ。まーくんもはなちゃんも言ってた。最近のはるちゃんは私たちを避けてる気がするって」
これ以上は
この場を離れたくて走りだそうとする俺の腕を天がつかむ。
「私の目を見て答えて」
腕をつかまれ、体が彼女の方を向いた。俺はうつむいていた顔を上げる。彼女と目が合う。彼女の目の中にいる俺はまるで鎖で縛られているようだ。
「はるちゃんは……」
天が言葉を口に出す瞬間、俺は逃げることを諦めた。
「パンッ!!!」
そのとき、耳をつんざくような音が響いた。俺と天が音がした方を見ると、鈴宮が両手を合し、立っていた。
「お取込み中悪いが、そろそろ教室に着かないとまずいぞ」
鈴宮はそう言いながらスマホの時計を見せてくる。スマホには八時二十八分、ホームルームの二分前の時刻が表示されていた。
「えっ!もうそんな時間!」
天も慌てて自分のポケットからスマホを取り出す。
「ほんとだ!急がなきゃ!はるちゃんこの続きはまた今度ね。行こ!」
そう言い残した天は廊下を走り出した。
助かった。もしあのままつづいてたら…
俺は安堵し、息をはいた。そして、そばにいる鈴宮に体を向けた。鈴宮は俺の顔を一瞥すると俺の前を通り過ぎた。
「どうした?急がないと遅刻だぞ」
さっきの天のように走り出した鈴宮に続くように俺も足を動かした。
「今度宿題見せるよ…」
「学力俺とほとんど変わんないだろ」
鈴宮は笑いながら答える。
こいつと友達になれてよかった
心の底からそう思った。
1話5000文字を行くようになりたい