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【第二章完結】夢見る伯爵令嬢は、大家族の継母になる。  作者: 五十鈴 美優
第二章:切り離した過去と紡ぐ今

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16.記憶の欠片③

【注意】

本作には、暴力・犯罪・虐待・死・差別など、読者の方によっては強い不快感やトラウマを想起させる描写が含まれます。

これらの表現は、いかなる暴力・犯罪・差別行為を助長・肯定するものではありません。

フラッシュバックの心配がある方は、無理をなさらず、ご自身の心の安全を最優先にお読みください。

 そう、この後よ。

 

 実行犯のほとんどが既に処刑されたって言われても、なんの感情も湧かなかったわ。主犯であるブランディ家の人間は投獄されて調査していると言われても、だから何?って感じでね。


 それよりも、連日押しかけて来た貴族たちがね……本当に、酷いものだったわ。


 え?そうね……大体退院して一か月と経っていない頃から来ていたと思うわ。お見舞いじゃなくてね。状況が状況だったから、汚い根回しね。

 ほら、私が早くに逃げ出したせいで、ダイハンは奇襲攻撃に失敗。想定通りに戦争が始まらなかったのよね。


 一見良かったように聞こえるけれど、現実は残酷ね。国内貴族と議会は戦争をするかしないかで二分されたんだもの。その二つの勢力の貴族や議員たちが、我先にと押しかけて来たわ。


 まず、この機に乗じて早く戦争を始めたい勢力の貴族……開戦派は、奴らにされたことを誇張して証言しろと言ってきたわ。

 自分たちの言う通りに、台本通りに証言しろと……ね。


 私が犯人を殺したことも黙っていろって。殺した犯人の一人がダイハンの人間だったことが余計に厄介だったのよね。

 長らく平和な国だったからこそ、開戦をより正当化できるようにしたかったみたい。されてもいない、口にも出せないようなことを。


 あまりのことに黙っていたら、「早く言え」と急かしてきたわ。机を激しく叩いて……ね。もう裁判で話したことなのに、事件当時のことを何度も何度も話すよう求めてきたわ。奴らの思う通りの発言をしないと怒鳴られたわ。


 ある人はこう吐き捨てたわ。「どうしておめおめと生き残ったのか」って。


 ……ええ。ま、そうよね。

 開戦派にとっては、私が暴行の末に死んでいれば良かったのよ。


 そうすれば、サンパング国は貴族令嬢を殺された上に奇襲された、完全な被害者よ。奇襲攻撃を防衛するついでに侵攻して、そのままダイハン皇帝の首を取っても良かった。


 奇襲によって戦力が削がれたとて、国民を総動員すれば勝つ見込みはあったでしょうし、長らく平和な国がそうする正当な理由もあるのだから他国からの非難も退けられる。


 私が人を殺してまで生き残らなければ、もっと事態は簡単に済んだのよね。

 


 ……。

 ええ、分かってはいるのだけど。

 …………。それで、そうね。


 そんな開戦派の貴族が押しかけたかと思えば、今度は講和派の貴族が乗り込んできた。

 講和派の貴族はもっと酷かったわ。


 その貴族たち……主に商会を傘下に持つ家にとっては、ダイハンは重要な取引先だもの。負けられると困る。そもそも、戦争になるのも困る。


 ドール事件から奇襲攻撃までの一連の流れは、サンパング国の不意を突いた侵略でないと成功しない。

 奇襲は未遂だったけれど、当初の予定通りに出した宣戦布告は取り消せなかった。


 だから、ダイハンと講和派の貴族は宣戦布告の理由づけに私がダイハン人を殺したことを利用したのよね。

 私が害された事実はなかったことにして、「サンパング国貴族令嬢によるダイハン人殺害事件」にすり替えたかったのよ。


 そう……それで。

 だから……つまり、その……。私が受けたのは暴行ではなかった、という主張よ。


 わ、私が先にあいつを誘ったんじゃないかって、ね。


 ……。

 ……意味が分からないわよね。

 ええ、そうよ。酷い話でしょう。でも、そんな突飛なことを言われたのよ。


 ……私、その頃ね、周りの女子よりも成長が早かったのよね。そう、背が伸びるのも早くて、学級で一番背が高くて。

 その……女性らしい身体つきになるのも早かったわ。


 ……それで、奴らは……奴らは……!

 ……。


 「ふしだらなことを考えているからそんなに発育が早いんだ」って。まるでそれが証拠のようにね。


 や、奴らは……そう、私を「早熟でふしだらな娘」で「隣国の人間を殺した犯罪者」だということにしようした。それで、両者痛み分けということにして講和を進める腹積もりね。


 だから彼らは……わ、私が罪を認めて謝罪をすれば、講和後に和解金の一部を渡してやるとまで言ってきた。


 ……。

 ふ、ふふ。

 あはは……はは!!……はーあ。本当に。


 ふざけるんじゃないって話よね。それを言えるのも今だからこそなのだけれど。


 それで……ええと。

 そう、お父様は激怒したわ。当然よね。娘がそんな風に言われたら、誰だってそうなるわ。私も、ショックで何も言えなかった。


 でもそれは「図星だからそんな反応をするんだろう」と決めつけられてしまった。


 え?……そうね、その時は奴らが言っている意味も、お父様があそこまで怒る理由も分からなかったわ。

 確かに、あんなひどい目に遭って、それを私がしろと言ったなんて理論は、当然、受け入れがたかったけれど。

 だって、12歳でしょう?


 ……ええ、そうよ。私は、その時も何も知らなかったのよ。


 本当に自分の身に起こったことがどういうことなのか、知ったのはそれからすぐよ。

 大人たちが話す難しい言葉を記憶して、辞書を引いたわ。誰も教えてくれなかったから。でも辞書の簡略化された内容だと要領を得なかったから、伯爵邸の図書室で調べた。


 ……すべてを知った時、倒れそうになったわ。


 ……あいつらの言う「そんなふしだらな身体」の意味するところを知ったら、まともに立っていられなかったわ。


 部屋に戻ってまず、その辺にあったハサミで髪の毛を切ったわ。腰まであった髪は、肩にすら届かない長さになって。

 長さもまばらで。メイドは叫び声をあげて、お母さまはまた泣いたわ。


 ご飯もまともに食べなくなったわ。奴らの言った意味が分かって、自分の体型が嫌になって、これ以上成長したくなかったから。おかげで、人形と呼ばれるにふさわしい、貧相な身体になったわ。


 あの日の……結婚式の後の刺々しい言葉遣いもそう。その頃からああいう言葉遣いをするようになったわ。淑女教育で身につけた女性らしい言葉遣いなんて、嫌悪感しかなかったから。

 大人はみんな信用できなくなって、部屋に閉じこもるようになったわ。


 でも、地獄はまだ続いたわ。


 ……そう。お腹に子どもがいたの。


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