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【第二章完結】夢見る伯爵令嬢は、大家族の継母になる。  作者: 五十鈴 美優
第二章:切り離した過去と紡ぐ今

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16.記憶の欠片①

 貴方の問いに応える前に、話すべきことが沢山あるわね。

 ええ、大丈夫よ。覚悟はとっくに決めたから。


 どこから話すべきなのかしら……。もう全て話した方が早そうね。


 そう、あの日はセシルの誕生日だったのよ。


 当日まで贈り物を決めきれなかったから、学園終わりに何か買って帰ろうと思って、城下町に行ったの。お母様もお父様も、裏通りの方は危ないからって言うから、ちゃんと言いつけ通りにメイン通りの雑貨屋でプレゼントを買ったの。


 あの頃は本当に、平和な国だったわよね。改朝の内戦が100年くらい前にあってから、この国ではちょっとした紛争ひとつなかった。


 セニョーダ朝は他国への侵略を是とせず、外交と貿易を中心に栄えることを重視していて、実際それが功を奏していたのだと思うわ。他国もそれに倣うようになって、侵略を考える国も減っていく一方だった。

 あったとしても、上陸を許すことは一度もなかったのよね。


 それが何年も続けば、たかが伯爵家の第一子でもないお嬢様に警護なんて付けなくとも、誘拐事件すら起こらない国になったのね。好況という理由もあったのかしらね。


 それに街はずれの一目のない所ならともかく、城下町だもの。

 「あの時警護を付けていれば」ってお母様は何度も言っていたけれど、あの時誰も言いださなかったのだから、それが全てよ。ともかく、そういう時代だったのよね。


 それで……そう、雑貨屋でプレゼントを買ったら、そのまま汽車の駅に向かおうとしたわ。いつもの帰り道に、少しだけ寄り道が加わっただけだった。

 でも雑貨屋の外に先生が立っていたの。……そう、あのブランディ子爵家の息子よ。


 地学科の先生だったわね。私も授業を受けたことがあったし、地学は好きな方だったわ……。

 生徒にも人気だった。男女問わず……そう。


 「どうしてここに?」って思った。でもそれを尋ねる前に、彼は……あいつは「ごきげんよう、ニューヤド伯爵令嬢」って笑って挨拶をした。


 今にして思えば、全てが怪しいけれど、そんなの全てを知ったからそう思えるだけなのよね。


 それで……そう、あいつは「授業で使う参考書を選びたいけど、生徒目線の意見が欲しい」……みたいなことを言ってきた。「成績優秀な人の意見がいい」とも。


 率直に言えば……嬉しかったわ。

 地学科の成績は、確かに三位以下になったことはなかったわ。でもその……地学科って他の科目よりは地味というか、重要視されていないじゃない?


 軍の、それこそ上層部へ行きたい人なら地学の成績は重要視されるけどね。あの時代だし、どちらかと言うと政治や外交で使えるものが重視されていたわ。


 外国語、数学、古典文学、経営学、政治学に……あとは騎士志望なら剣術ができると優秀な人間って言われるけれど、美術や音楽、地学もそうだけど、それができても、あんまり高くは評価されないじゃない?


 そう……そうなの。

 だから、嬉しかったのよ。大して評価されていなかった得意なものが評価されたら、誰だって嬉しいものよね。


 でもほら、本屋のある方は裏通りへの小道が近いでしょう?だから、ちょっと躊躇った。

 そうしたら、あいつは「僕がいるから大丈夫だよ」って。それと、「もし不安ならいいよ。残念だけど」って困ったように笑ったの。


 それを見たら……なんだか断ったらいけない気がして。それに学園の教師だもの。全然知らない人ならまだしも、何年も授業を受けてきた、人望のある先生よ。両親や家の使用人の次には信用のおける人だったわ。


 それからのことは……断片的にしか覚えていないの。多分、よくない薬か何かを使っていたのね。

 あいつと裏通りに入った時、いきなり目の前が真っ暗になって……ああ、調査によれば土のう袋に入れられたらしいわね。


 それで……それで、ごめんなさい、ちょっと深呼吸するわね。



 ……。

 ええ、もう大丈夫。

 え?……ううん、良いのよ。続けるわ。ノアこそ大丈夫?

 ……そう。


 それで、何だったかしら。そう、目が覚めた時のことよね。後の調査では子爵家の納屋だったわね。そう、そこで目が覚めたの。


 暗くて、窓もなかった。所々灯りはついていたけれど、入口のドアには見張りがいて。……それが、貧民街にいた少年たちでしょうね。すごく痩せていたから。

 テオが慕っていたっていう兄のような人も、いたはずね。処刑されたって言っていたから。


 他にもたくさんの男の人がいた。あいつ……先生もよ。あいつは遠くから眺めていただけなのだけど。

 ダイハンの言葉を話す人も……そう、半分くらいはいたかしら。


 奴らは私が起きたのに気付くと、ニヤニヤと笑って近づいてきたわ。


 ……その時、私は意外にも冷静だった。「これが誘拐か」ってね。


 貴族の子は常に誘拐の危険があるって教わるもの。まあ、平和な時代だったから、長い間慣習として教えているという感じは否めなかったけれど。ノアもそうでしょう?

 

 大体は金品を要求するための人質としてね。まさか古い時代の、昔話にあるようなことが本当にあるなんて、驚きはしたのだけど。


 だから、大人しくしておけば、お父様が彼らの要求どおりに金品を渡すか、あるいは捜索隊が探しに来て助けてくれると思っていたわ。


 でも違った。そんなの甘い考えだった。


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