配膳ゴーレムと爆発寸前の昼食会
「坊ちゃま、今日の昼食は皆で取る予定ですので、あまり奇抜なことはなさらないでくださいね」
「心配無用だ、セリス! 今日こそ、文明の進歩を食卓に届けてみせよう」
(もう嫌な予感しかしません)
昼食の時間、食堂にはレオン坊ちゃまの家族全員が顔をそろえていた。父・ギルバート、穏やかな母・エレーナ、しっかり者の長男・アーネストと飄々とした次男・カイル、おっとりとした姉・マリア、いたずら好きの弟・フリッツに、内気な妹・ノーラ。
彼らが席に着く中、レオン坊ちゃまは得意げに登場した。後ろには、大きな魔法陣が刻まれた鉄板の上に、異様な形状のゴーレムが立っていた。
「皆の者、紹介しよう。これが《オート・ディナー・サーヴァント》だ! 皿を運び、配置し、必要に応じて温め直しもこなす。完璧だ!」
アーネストが目を細めて呟く。「また何か始めたか……」
カイルは興味津々。「へぇ、今度はゴーレムか。面白そうだな」
エレーナは手を口元に当てて笑いながら。「うふふ、レオンの発明はいつも楽しいわね」
ギルバートは黙って眉をひそめた。
マリアは手を合わせて目を輝かせる。「レオン、すごいじゃない。ちゃんと動くのね」
フリッツは「壊れて爆発しないの?」と疑い深く見つめ、ノーラは兄の後ろに隠れて様子を伺っていた。
使用人たちが緊張の面持ちで見守る中、ゴーレムはカタカタと音を立てて動き出し、料理の載った皿を一枚ずつテーブルに並べ始めた。
「……意外と、ちゃんと動いてますね」
「ふふ、今回は設計に工夫を凝らしたからな」
だが、ゴーレムがスープ皿を運んだ瞬間、その片腕から微かに火花が散った。
「っ……坊ちゃま!」
「おっと、電熱魔石が少し過剰反応しているだけだ。問題ない!」
そう言うが早いか、ゴーレムの背部から小さな蒸気の噴出音。
セリスは即座に立ち上がり、魔力を集中させて防護結界を展開。その直後、ゴーレムが置いたスープ皿の一つがテーブルごと滑って落下した。
スープはテーブルクロスに広がり、食堂は一瞬静まり返る。
「……改善の余地あり、か」
「余地しかないわよ、レオン」マリアが呆れ気味に笑う。
ギルバートが咳払い一つ。「レオン、次は事前に試運転をしてから実用に回すのだ」
「うむ、肝に銘じておこう」
(坊ちゃま、“肝に銘じる”という言葉をただの合言葉としか思っていないような……)
「申し訳ありません、ギルバート様。ただ今拭きますので!」
セリスはすぐにタオルを持ち出し、床に広がったスープを拭きながら他の使用人たちにも頭を下げた。
「セリス、今日も大変だねぇ……でも、まあ、爆発しなかっただけマシか」
「はい、前進と考えましょう」
その日の午後、セリスは再び坊ちゃまの書斎を訪ねた。
「坊ちゃま。次回は、使用前に確認と試運転をお願いします」
「うむ。助言ありがとう、セリス。やはり現場の声は貴重だな」
(現場の声どころか、現場の犠牲者なんですが)
セリスは今日も静かに、非常用の掃除道具一式を納戸に戻すのだった。