父と息子、王城の対話
王城の謁見の間。豪奢な装飾と静謐な空気が漂う広間には、重苦しい沈黙が満ちていた。高窓から差し込む陽光が煌びやかな柱を照らすが、その美しささえもこの場の緊張を和らげるには足りなかった。
「……ルシアン、お前は何を思ってあの場であのような発言をしたのだ」
その声は低く、押し殺された怒気がにじんでいた。王の瞳は静かに、しかし鋭く息子を射抜いている。
正装に身を包んだルシアン王子は、父の威圧にひるむことなく、胸を張って答えた。
「父上、私は転生者です。これは私の使命です。前世の記憶があるからこそ、私は勇者としてふさわしいのです!」
「ルシアン……」
その名を呼ぶ声は、苦悩と呆れが入り混じっていた。
王は拳を強く握った。爪が掌に食い込み、じわりと痛みが広がる。国を治める者として、冷静であらねばならぬという理性と、父としての感情が心の中でせめぎ合う。
「お前にそのような記録や兆候はなかった。それに、転生者とは神に選ばれし者。そう軽々しく名乗ってよいものではない!」
「ですが父上、私は夢で見たんです! 前の世界での記憶を、戦いを、人々を助ける使命を。確かに覚えています! しかも、今では転生者の友もできました!」
「友、だと?」
「はい、アスカルト家のレオンです。彼もまた、ただ者ではありません。私のように世界を導く存在に違いありません!」
国王は苦々しげに眉をひそめ、額に手を当てた。
(この年代の子には、時折こうした空想に耽ることがある……だが、よりによって入学式で、それも王族である自らが……)
「だが、問題はそれを公の場、入学式という格式ある式典の場で宣言したことだ。王族としての立場を考えなかったのか?」
その声音には、怒りとともに深い落胆と痛みが滲んでいた。
「……申し訳ありません。しかし、私には隠しておく理由がなかったのです!」
「愚か者。お前の振る舞いにより、王族の威信が損なわれたのだぞ。父としてではなく、国を背負う王として言う。もはや、王子としての立場だけでは済まされぬこともある。肝に銘じよ、ルシアン」
王の声が広間に響き渡るたび、壁に飾られた紋章さえ揺れるかのように重くのしかかった。
それでも、ルシアンは一歩も退かなかった。悔しさに唇を噛みながらも、強い意志を込めて答える。
「はい、父上……しかし私は、信じるものを貫きます」
その姿に、国王はさらに深く目を閉じた。玉座の上で、肩の重さを噛みしめるように、静かに、深く嘆息する。
(なぜ、こうも息子は夢と現実の境を見誤るのか……その眼差しがまっすぐであるほどに、心が痛む)