静かな波紋と騒がしい昼下がり
決闘後の熱が冷めぬまま、午後の授業が始まる前の一時。
校舎内の中庭には、午前中の話題でもちきりの生徒たちが思い思いに集まっていた。
レオンはと言えば、例によって自分が中心となっている状況に、どこか満足げな様子でベンチに座っていた。
「ふむ、静かだな。これだけ話題になったというのに、僕を称える花束のひとつも届かないとは、王都の文化は遅れているのでは?」
「坊ちゃま、決闘の直後に花束が届く文化なんて聞いたことありません」
「いや、表彰されるくらいのものだろう?」
「まずは反省してください」
セリスの突っ込みにも全く動じる様子もないレオンだったが、そこへまたもや影が差した。
「アスカルト、話がある」
現れたのはルシアン王子。先程よりも表情はやや真剣で、珍しく丁寧な言葉遣いだった。
「なんだい、王子。また僕の輝かしい才能を讃える会でも開くのかい?」
「違う。我らがこの学園で果たすべき使命について、改めて確認しておきたい」
「使命?」
「そうだ。勇者とは、ただ強ければいいのではない。理想を掲げ、皆を導く存在でなければならぬ。そのためには、力をどう使うかも問われる」
「……ふむ、道徳の講義を受けるとは思わなかったが、それもまた貴族の務めか」
ルシアンはふっと真面目な顔を見せた。
「それと……この決闘でお前の立場が危うくなるようなことがないように、父上に私から伝えておこう。誤解があってはならない」
「ふむ、それはありがたいね。僕の立場がどうこうなるとも思っていなかったが、王子の言葉ならなおさら安心できる」
そのやり取りを、ノアはやや遠巻きに聞きながら小さく声をかけた。
「あの、レオン様……決闘の時の魔法、とても綺麗でした。力強くて、でも精密で……あんなふうに使えたら、きっと……」
「ありがとう、ノア君。君もなかなかの魔力の持ち主だ。いずれ手合わせしてみてもいいかもしれないね」
「は、はいっ!」
セリスは二人のやりとりを見ながら、ほんのわずかに表情を和らげた。
(坊ちゃまも、少しはまともな交流ができるようになってきた……のかしら?)
だが、次の瞬間、レオンがさらりと言い放つ。
「君の魔力の波長、観察するに光属性だね? なら、こういう組み方の詠唱がより効果的になると思うんだ」
そう言って、いきなり地面に魔法陣を書き始めるレオン。
「ちょ、坊ちゃま!? 授業前に実験はやめてください!!」
「いや、簡単な実演だから。危険性はゼロだよ、ゼロ」
(それを信じたことなど一度もありません!)
再びセリスの頭痛が始まるのであった。