決闘、その開幕
放課後の訓練場には、既に多くの生徒が集まり始めていた。グローリアクラスの面々も、噂を聞きつけてぞろぞろと集まり、訓練場の観覧席はあっという間に人で埋まっていく。
「なんだ、今日の目玉はレオンとヴァルトか?」
「どっちが勝つと思う?」
「勝負になるのか?」
その中心に、軽やかな足取りで登場するのはレオン。
「まったく、無益な衝突は好まないが、こうして注目を集めるのも悪くないね」
「坊ちゃま、頼むから“注目”される理由を考えてください……」とセリスは思わず頭を抱える。
一方、対するヴァルトは剣を携え、気合満点で待ち構えていた。
「この辺境田舎貴族め……今日という今日は思い知らせてやる!」
試合開始の号令が響く。
レオンはすぐに構えることもせず、余裕の笑みを浮かべたまま相手を見つめていた。
「さあ、どうぞ。まずは君から」
挑発に乗る形で、ヴァルトが猛然と突撃する。鋭い剣撃が幾度も振るわれるが、レオンはそれを最小限の動きでかわし続けた。
ただし、その防御はあくまで“適当”で、勢いのある一撃を弾き飛ばした剣閃が観客席に向かって飛んでいく。
「危ない!」
その瞬間、セリスが素早く防御魔法を展開し、飛来する魔力の破片を防ぐ。
「坊ちゃま、もっと周囲に配慮してくださいっ!」
だがレオンは、彼女の言葉に気づくことなく、変わらず余裕の笑みを浮かべていた。
「いや、ちゃんと加減はしているつもりだったんだけどね?」
「加減するなら観客席まで飛ばさないでください!」
またもレオンはセリスの言葉には気づかない。
「どうした、まだ息が上がっているが、戦いは始まったばかりだろう?」
ヴァルトの顔がみるみる紅潮していく。
「うるせぇぇぇっ!」
怒りに任せて、ヴァルトは本気の魔法を詠唱。重い火球が訓練場の空間を焼き尽くさんと迫る。
「やばい、あれはケガじゃ済まない……!」観客の誰かが叫んだ。
だが、レオンは微動だにせず、片手を軽く振った。
「僕にかかればこの程度、なんということはないよ」
放たれたのは、基礎中の基礎、初歩の風魔法。しかし、それは見事に火球を巻き取り、空中で消散させた。
「……バカな……」ヴァルトの呟きが聞こえる。
そしてその瞬間、レオンの指先が光を放つ。
「遅い。いや、君の努力は評価するけど、僕に挑むには少し――いや、かなり足りなかったね」
風の刃が再び走り、ヴァルトは剣を弾かれ、無様に地に伏す。
観客が静まり返る中、レオンは軽く息をついて言った。
「これが“現実”さ」
セリスはすでに懐から文書を取り出し、相手の家宛の謝罪状を記し始めていた。
「……だから、準備しておかないといけないんですよ」