魔導器と発明家の少年
翌日の講義は、理論魔導学と魔導器技術の基礎についてだった。
教師が教壇に立ち、魔導器の歴史や基本構造について語る一方で、生徒たちはそれぞれ支給された小型の初級魔導器を使って簡単な動作確認を行う。
「さて、今日の課題は“魔力制御回路の簡易修正”だ。壊れた回路を見つけて、自分で修復してみること。これは実技成績にも関わるぞ」
各生徒に配られた魔導器の中には、意図的に回路がズレているものや、魔力の流れを遮断するよう設計されたものもある。
苦戦する生徒たちの中、一人だけ、手際よく作業を進める少年がいた。
ベルトに工具をぶら下げ、何やら小さなルーペ付きのゴーグルをかけたその姿は、明らかに他の生徒とは一線を画していた。
「……よし、修復完了。魔力流通、再起動っと」
ピピッ、と音が鳴り、彼の魔導器は見事に再稼働した。
教師が目を丸くする。
「クロイツ君、これは……驚いたな。どこで学んだんだ?」
「家で。親父が技術局だから、工具は握らされて育ちました」
彼の名は――ベルン・クロイツ。グローリアクラス随一の魔導技術オタクであり、ひねくれ発明家としても有名な存在だった。
教室の一角、セリスが静かに見守る中、レオンがベルンのもとへ歩み寄る。
「ふむ、あの修復法……なるほど、ああすれば安定するのか。これは参考になるな」
レオンは隣の机に腰を下ろすと、工具を手に取って言った。
「技術とは観察と応用が命だからね。技術は見て盗むものだからな」
その言葉に、ベルンがちらりと視線を上げ、ぽつりと呟く。
「……いいこと言うじゃん」
ふたりの技術バカが一瞬だけ目を見合わせ、小さく頷き合った。
数分後。
「完成だ! これが僕の改良型、魔力増幅型の自己修復型魔導器だ!」
レオンが誇らしげに掲げたその装置から、ビビビッという嫌な音が響く。
「えっ、それは――」
次の瞬間、魔導器が火花を散らし、小規模ながら爆発音とともに黒煙が教室に広がった。
「げほっ……何を作ったんだ……!」
「自動で回路修復を……いや、ちょっと効率を上げるように魔力増幅回路を加えたら……些細な誤差だね」
教師の怒鳴り声と、セリスの慌てた謝罪が教室に響く中、ベルンはただ一言。
「……あれはやりすぎ」
そして、教室の隅でその様子を見ていたのが、ルシアン・エルグレインだった。
(あいつ……まさかここまで魔導器の応用ができるとは。ふん、だが我が栄光の道において、避けて通れぬ宿敵となるやもしれぬ)
自らを勇者だと信じて疑わぬルシアンは、勝手にレオンを“ライバル”と見なし、静かに闘志を燃やしていた。
こうして、教室の片隅では、ふたりの技術バカによる静かな戦いが――片方の暴走により爆発四散したその裏で、もうひとつの火種が芽吹いていた。