静かなる閃光
翌日の基礎魔法演習の授業。
教師が魔力測定装置を準備しながら、生徒たちに呼びかける。
「今日は初等課程の魔力量と属性傾向を測定する。気負わず、普段通りに魔力を解放してくれ」
生徒たちは順に前へ出て、測定器へ手をかざしていく。
魔力が球体へ注がれるたび、炎の赤、風の緑、水の青などの光が瞬き、数値が浮かぶ。
「ルシアン殿下、火・風・水・土、すべて安定した数値です。優秀ですね」
教師が賞賛を口にすると、ルシアンは得意げに頷いた。
次に名が呼ばれたのはノア・フェリクス。
教室が一瞬ざわつく中、ノアは静かに立ち上がり、測定器の前へと進む。
彼が手を置いた瞬間、装置がかすかに震え、黄金色の光が周囲に溢れ出した。
「光属性!? この純度は……」
教師が思わず声を上げた。
「ノア君、この年齢でこの数値は異例です。後で追加検査をお願いできますか?」
教室の空気が一変し、驚きと敬意の視線がノアに向けられる。
ヴァルトは硬直し、レーベンは視線を逸らした。
ノアは何も言わず、静かに席に戻る。その背中は昨日よりも少しだけ凛としていた。
放課後、レオンとセリスは帰路につきながら、王宮からの送迎馬車へ向かうルシアンの姿を見つけた。
「セリス、少し寄り道をしよう」
「……坊ちゃま、また何か……いえ、承知しました」
レオンがルシアンの前に立ち塞がるように歩み寄る。
「ルシアン王子、今日の計測もお見事でした。まさに勇者の血脈を継ぐ者、というところでしょうか」
「うむ、それほどでも……いや、やはりそうだな。勇者たるもの、誇りを持たねばな」
レオンは穏やかな笑みを浮かべながらも、明確な意志を込めて言葉を重ねる。
「……転生者同士として、よろしく頼みますよ」
空気が一瞬にして張り詰めた。
「なっ……お主、何を……」
「女神からは目立たぬよう忠告されたものの、あの場であれだけ堂々と名乗られるとは、さすが王子様ですね」
ルシアンの目が鋭くなる。
「お主、本当に……転生者なのか?」
「さて、どうでしょうか。ご想像にお任せします。ですが、僕は“同類”には興味がありますので」
セリスが一歩前に出て、間に入る。
「王子殿下、どうかお気になさらず。坊ちゃまは……少々刺激的な表現をされる癖がありまして」
「だが、あの言葉……“転生者”とは軽々しく使うべきものではない」
「殿下が憧れておられる“勇者伝説”に感銘を受け、自らもそうありたいと――そういう、表現の一環かと存じます」
セリスの説明にルシアンはしばらく思案した後、納得したように頷いた。
「ふむ……なるほど。ならば、我もその想いに応えよう。同志として歓迎する」
「ありがとうございます。未来の勇者殿から学べることは多いでしょうから」
レオンの微笑の奥に込められた真意を、セリスだけが見逃さなかった。
(坊ちゃま……やっぱり、わざとですね)
静かに、しかし確実に、レオンとルシアンの間に何かが芽生え始めていた。