魔法の実技
翌朝、特待生クラスの生徒たちは、訓練用の服に着替え、魔法訓練場へと向かっていた。
学園では、従者は基本的に学園内の警備や清掃を受け持つことになっており、授業や訓練場への同行は原則禁止とされている。
だが、セリスはギルバートに頼み込み、特別にレオンの授業周辺の警備という名目で訓練場の補助に加わる許可を得ていた。
「王子の従者と一緒に並ぶのは気が引けますが……坊ちゃまなら、魔法の実技で校舎を壊しかねませんから」
そう心中で呟きながら、セリスは訓練場の片隅で気配を殺して待機していた。
広大な訓練場には、魔力を吸収する特製の石畳が敷かれ、遠距離・近距離双方の魔法が安全に試せるよう設計されている。
担当教官が現れ、生徒たちを前に告げる。
「では順に、基礎属性魔法の発動から見せてもらう。火、水、風、土、それぞれ自分の得意属性を選んで構わない」
生徒たちは緊張しながら前に進み、次々に魔法を披露していく。
「おお、さすがマルセリウス家の令息だ……」「風の精霊が応えてる」
その中でも特に注目を集めたのは、ルシアン王子の魔法だった。
彼は一歩前へ出ると、淡々とした様子で両手を掲げ、次の瞬間には火、水、風、土の各属性の魔法を美しく、そして精密に放った。
威力は高く、発動までの速度も極めて早い。制御も完璧で、すべての魔法が的確に標的へと届いた。
「ルシアン殿下は……闇属性と希少属性以外、すべての基本属性を自在に操るそうだ」「あの発動速度と魔力の安定……やはり王族……」
見事な魔法に教官も頷き、「優秀」と一言だけ評価した。
そんな中、レオンも名を呼ばれ、前に進み出た。
「お見せしよう。全属性適性持ちの実力を」
「全属性……!?」「そんな話、聞いてないぞ……」
周囲がざわめく中、レオンは一歩前へ出て、指を鳴らした。
次の瞬間、彼の周囲に四種の魔法陣が展開され、火、水、風、土の魔力が同時に具現化される。
「ははは、やはり僕の制御力は異次元だな」
そのとき、セリスは訓練場の結界の内側に魔力を流し込み、即座に防御魔法を展開した。
(やっぱり……! 今回も調子に乗りましたね、坊ちゃま!)
巨大な風の刃と火柱が訓練場を駆け抜けるが、セリスの防御結界がそれを受け止め、校舎に被害が及ぶのを防いだ。
生徒たちの目が驚愕と困惑に染まる中、教官は額を押さえた。
「アスカルト君……基礎の範囲を超えている。次からは調整を頼む」
「心得た」
レオンは満足げに戻っていくが、その背を見送るセリスの胃は、今日も静かにきしんでいた。