もうひとりの転生者
入学式後の学園内は、ルシアン王子の「転生者宣言」で騒然としていた。
大講堂での衝撃は冷めやらず、生徒たちは口々に噂話を続けている。
「マジで王子が転生者?」「じゃあ前世の記憶とかあるのかな?」「魔法の天才って、それかも……」
王族の中でも特に知名度が高いルシアン・エルグレインが、まさかの異世界転生者であるという事実。信じる者もいれば、眉をひそめる者もいた。
そんな中、レオンは椅子に背を預け、腕を組んで顎に手を添えていた。
「ふむ……僕以外にも転生者がいたとは。これはいささか予想外だが、まあ問題はない。どちらが真の異世界の理を理解しているか、見せてやるだけだ」
隣に座るセリスが、そっと小声で言う。
「坊ちゃま、それ以上声に出さないでください。本当に。今の空気、完全にピリついてますから……」
教室内の騒がしさの中で、遅れて入ってきた教師が手を叩いて注意を促した。
「静粛に。今日から君たちは特待生クラスの一員だ。騒動に心を奪われている暇があるなら、まずは学園の規則を覚えることから始めなさい」
このクラス――特待生クラスは、王立魔導学園でも最上位に位置する選抜クラスである。例年は貴族の中でも特に名門の子息しか配属されない。
だが、今年は異例だった。平民出身の生徒がひとり、試験の成績だけでこのクラスに選ばれていた。
貴族生徒の間ではひそかに動揺が広がっていたが、そこにルシアン王子の爆弾発言が重なり、完全にかき消されてしまった。
教師の説明が続く中、王子――ルシアンがゆっくりと立ち上がり、全員を見渡して言った。
「皆さん、改めて挨拶をさせていただきます。ルシアン・エルグレインです。ともに学べることを光栄に思います」
堂々とした態度に、生徒たちは自然と拍手を送った。
(立ち居振る舞いからして違う……)
そんな空気の中、レオンは静かに立ち上がる。
「ふむ、ようやく面白くなってきたじゃないか」
その言葉に、セリスは思わず頭を抱えた。
(やっぱりこの学園、波乱しかない……)