問題児、教室へ現る
入学式の日。
王立魔導学園の大講堂には、新入生たちとその家族、関係者が一堂に集まっていた。天井高く響く荘厳な鐘の音と、舞台に設けられた巨大な紋章入りの幕が、場の空気を一層引き締めていた。
壇上に現れたのは、麗しい金髪に蒼い瞳を持つ、堂々たる風格の少年――第三王子、ルシアン・エルグレイン。
「新入生代表、ルシアン・エルグレインがご挨拶申し上げます」
拍手と共に始まるそのスピーチは、流暢で堂々としており、礼節と気品に溢れていた。
だがその一角、別の意味で注目を集めていた生徒がいた。
「なぜ僕ではないのだ。僕ほど優秀な人材に代表挨拶をやらせぬとは、学園の見る目はその程度ということか」
レオン・フォン・アスカルトが隣のセリスに呟いたその瞬間、周囲の生徒たちの視線が一斉に彼に刺さるように集まった。
(お願いです坊ちゃま、もう喋らないで……)
セリスは表情を変えずに、そっと耳元でささやくように言った。
「坊ちゃまは入学試験を受けておりませんので、学園側も実力を把握しておらず、選ばれなかったのは当然かと」
「それに、第三王子がいるにもかかわらず他の者が代表に選ばれたら、王子の面目が立たなくなります」
「メンツを気にしなければならないとは、王族も大変だな。僕みたいに優秀であれば、メンツなど気にせずとも勝手についてくるのにな」
(本当に喋らないでください。周りの視線が……冷たいです)
セリスの願いも虚しく、レオンの言葉は周囲に確実に聞かれていたようで、隣の生徒たちは一歩距離を取っていた。
そんな緊迫した空気の中、壇上のルシアンが次の言葉を放った。
「私は……転生者だ!」
一瞬、時が止まったような静寂が講堂を包む。
次の瞬間、ざわざわとした動揺が一気に広がった。
「て、転生者って……あの!?」「伝説の!?」「本当に存在したのか……」
レオンとセリス、そして教師陣の目も、驚きと疑念の入り混じったまなざしで壇上の王子を見つめていた。
新たな波乱の幕開けが、今、確実に始まろうとしていた。