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僕L  作者: 氷憐 仁
4/4

この気持ちは?

「今日は楽しかったです!またどこか行きましょうね。」桜さんが笑顔で言う。

「まぁ、考えておくよ。」と僕はそっけなく答えたが、内心少しだけ悪くないかもしれない、と思っていた。

桜さんと別れたあと、僕は家に向かって歩きながら考えた。

こんな風に誰かと過ごす時間も、悪くないかもしれない。

しかし、同時に自分のペースが崩れていくような不安も抱えていた。

(まぁ、どうなるかわからないけど…。)

とりあえず今日のところは、平和な一日だったと言えるだろう。

その夜、家に帰ってからも、僕の頭の中には桜さんの笑顔が浮かんで離れなかった。昼間の町探検や、公園での夕陽、そしてあの一瞬の会話――すべてが、心の中で柔らかく輝いているようだった。

「なんだよ、これ……」

一人で呟いてみる。だけど、答えなんて出るはずもない。気づけば机の上にカバンを置いたまま、ベッドに寝転がっていた。

その時、スマホが振動した。画面を見ると、桜さんからメッセージが来ていた。

『今日は本当にありがとう!楽しかったです!また一緒に写真会しましょうね!』

読み終わると、自然と笑みがこぼれてしまった。

どう返事をしようか少し考えてから、短く「もちろん、気が向いたら」とだけ返信した。

送信ボタンを押した後で、もう少し長く書いてもよかったかなと後悔する。

でも、変に気合を入れるのも違う気がして、それ以上の追伸は送らなかった。

しばらくスマホを見つめていたが、メッセージの画面を閉じると、ふと今日の最後に桜さんが撮った写真のことを思い出した。

「「君の表情、すごく素敵だったから」」

その言葉が頭の中でリフレインする。何が素敵だよ、と思いながら、内心悪い気はしなかった自分が恥ずかしい。あの写真、どんな風に撮れているんだろう。桜さんの手元にある限り、僕が見ることはないんだろうけど。

そんなことを考えながら目を閉じると、気づけば意識が遠のいていた。

翌日、日曜日。僕はぼんやりと目を覚ました。窓の外からはカーテン越しに柔らかな陽射しが差し込んでいる。時計を見ると、すでに午前10時を過ぎていた。

「あー、寝すぎた……」

だるい身体を起こし、顔を洗うために洗面所に向かう。昨日の疲れが少し残っている気もするが、不思議と悪い気分ではなかった。

朝食を済ませ、リビングでぼーっとしていると、またスマホが振動した。再び桜さんからのメッセージだった。

『おはよう!そういえば、昨日撮った写真、現像してみたんだけど……一枚だけ狼谷さんに見せたいのがあるんだ!今から送ります!』

写真を送る、という言葉に少し緊張が走った。どんな写真なんだろう。でも、昨日の彼女の様子を思い出すと、どれも特別な一枚になっている気がする。

「ありがとう、見ます」

そう返信すると、すぐに一枚の写真が送られてきた。画面に映し出されたのは、夕陽に照らされた公園で、ぼんやりと遠くを見つめる僕の姿だった。

背景のオレンジ色が柔らかく、なんだか幻想的で、でもその中にある僕自身はどこか穏やかな表情をしていた。

「これ、誰だよ……」

自分の写真なのに、そう思ってしまうくらい不思議な感覚だった。でも、桜さんがこれを選んでくれた理由が少しだけ分かる気がした。写真と一緒に送られてきたメッセージに目を向ける。

『狼谷さん、すごくいい表情してたから、どうしても見せたかったんです。この写真、気に入ってくれたら嬉しいです!』

「……ありがとう」

思わずそう呟いていた。返信には、「すごくいい写真だ。ありがとう」とだけ書いたけれど、その言葉の裏にはたくさんの感情が詰まっていた。

桜さんと過ごしたあの日。写真に残ったその記憶は、ただの一日を特別なものにしてくれた。これからもこんな時間を共有できたらいいな、なんて、少しだけ贅沢な願いを心の中で唱えてみる。

さて、次は、どこに行こうか。それを考えるだけで、少し胸が高鳴るのだった。

その続きの学校生活を書いて


週が明け、月曜日の朝。学校の門をくぐると、いつも通りのざわめきと雑然とした空気が迎えてくれる。日常が戻ってきたはずなのに、なんとなく少しだけ違って感じるのは、きっと週末のあの時間のせいだ。

教室に入ると、クラスメートたちがそれぞれの朝のルーティンに忙しそうだった。僕の席は窓際の後ろから2番目。椅子に座ると、目の前の景色が少しだけ特別に見えた。桜さんがいるだけで、学校も少し違って見える……そんな気がした。

「おはようございます!狼谷さん」

声が聞こえて顔を上げると、そこには桜さんが立っていた。彼女はいつも通りの笑顔で手を振りながらこっちに歩いてくる。その姿は、どことなく週末よりも学校モードに切り替わっているように見えた。

「おはよう、」

「いつも通りですね〜私は週末のおかげで充電バッチリです!」

彼女の元気さにつられて、つい口元が緩む。周囲のクラスメートたちがチラチラとこちらを見ているのに気づいて、少し気まずさを感じた。桜さんは何も気にしていないようで、自然に僕の机に寄りかかって話を続ける。

「狼谷さん、昨日送った写真、ちゃんと保存しました?」

「うん、ありがと」

「ふふっ、よかったです!実は、また写真撮りたい場所見つけたので、また一緒に!」

「うん、わかった」

そのやり取りを聞いていた男子の一人が、「おいおい、転校生とデートかよ」なんて冷やかしてきた。それをきっかけに周囲がざわつき始める。

「!、、、いや、その、、、帰りにた、たまたまあっただけで」

慌てて否定する僕の様子を見て、桜さんは楽しそうに笑った。

「そんなの気にしないでいいのに。そうだよー帰り道に写真取ってたらたまたまあったんだよねー」

そう言って微笑む彼女の表情に、何も言い返せなくなる。どこか、悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。気のせいであってほしい。そう思う自分がいた。


その日の授業中はなんとなく落ち着かなかった。隣の席の友達がこっそり肘で突っついてくる。

「お前、最近桜さんとよく話してるよな。あれってどういう関係?」

「どうって、ただの友達だよ。写真が趣味らしくて、それに付き合ってるだけ」

「ふーん、まぁいいけどさ。あんまり目立つと、他の男子に嫉妬されるぞ?」

冗談めかして言われたけど、あながち間違っていない気がする。桜さんは明るくて誰にでも親しげだから、他の男子からも人気がある。そんな彼女と特別に接している自覚は、正直ちょっとある。でも、それが何かに発展するわけでもなく、ただ友達……いや、スポット案内役として過ごしているだけだ。

そう自分に言い聞かせるけれど、ふと窓の外に視線をやると、桜さんがカメラを持っている姿が頭に浮かんだ。夕陽の中で、笑顔でシャッターを切る彼女の姿は、どうにも心に残っている。


放課後、部活のある日だった。僕は文芸部に所属しているけれど、あまり活動が活発な方ではない。それでも、静かな部室で本を読んだり、文章を書いたりする時間は嫌いじゃない。

部室に向かう途中、桜さんが校庭でカメラを構えているのを見かけた。彼女は夢中になって何かを撮っていて、僕には気づいていない。その横顔を見て、少しだけ声をかけようか迷ったけれど、邪魔をするのも悪い気がしてそのまま通り過ぎた。

「……なんなんだろ、僕」

少しだけ胸の奥がざわつく。この気持ちが何なのか、まだ自分でもよく分からない。ただ、桜さんと過ごす時間がこれからも増えたらいいな、そう思う自分がいることは確かだった。

学校生活の中で少しずつ近づいていく僕たち。その関係がどこに向かうのかは分からないけれど、この日常が、いつかもっと特別なものになる予感がしてならなかった。


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