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僕L  作者: 氷憐 仁
3/4

きっと、気の所為、、、


その後も僕らは、町探検のようなものをして回った。

桜さんは普通の駄菓子屋ですら、「見たこともない!」と目を輝かせ、気づくとシャッターを切っていた。そんな無邪気な様子はなんだろう、妹のような感じに暖かく見守っていられた。うん、断じて年頃男子としてみているわけではないのは言っておこう。まぁ、茶番はおいておいて、とにかく、いつも歩いている町のはずなのに桜さんと歩くだけで僕の見る景色は色づいていた。そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ、土曜日が終わろうとしていた。

最終的に公園に戻ってくるとあたりは、夕陽に照らされてオレンジ色に染まっていた。風に乗ってどこからか子供たちの笑い声が聞こえる。桜さんはその音を耳にすると、「懐かしいな」とつぶやいた。

「懐かしいって、桜さん、こういう公園とかで遊んだりしてたの?」

僕が尋ねると、桜さんは少し照れたように笑った。

「ううん、実はあんまり遊んだことなくて。でも、こういう雰囲気はなんとなく昔のアニメとかで見たことがあってね。子供たちが駆け回る感じとか、夕陽の色とか、そういうのが“日本っぽい”って思っちゃうの」

“日本っぽい”って言葉に少し引っかかりながらも、桜さんの目がどこか遠くを見つめているのを感じた。彼女にとって、この町の何気ない風景が特別に見えるのは、きっとその背景に理由があるんだろう。でも、それを聞くのは今じゃない気がした。

「そういうの、いいよね。」

僕は曖昧に返事をして、ブランコに腰掛けた。桜さんも隣に座る。チェーンが軽く軋む音が、心地よい静けさを強調する。しばらくお互い無言で揺れていたが、ふと桜さんが口を開いた。

「ねえ、今日はありがとう。本当に楽しかった。」

「いやいや、そんなに感謝されるようなこと何もしてないよ。ただ案内しただけだし。」

僕は照れ隠しに笑いながら答えたが、桜さんは首を振った。

「違うの。普通に歩いているだけで楽しかったの。狼谷さんと一緒だったからだと思う。」

夕陽に染まったその笑顔は、いつも以上に輝いて見えた。一瞬、胸がきゅっと締めつけられるような感覚に襲われる。

「そ、そっか。ならよかった。」

僕は目をそらして曖昧に返事をした。いやいや、なんだこの雰囲気。全然普通の妹みたいな感じじゃないじゃないか。自分の胸の高鳴りに戸惑いながら、なんとか平静を装おうとした。

すると桜さんが立ち上がり、カメラを持って僕に向けた。

「はい、動かないで!」

カシャッとシャッター音が響く。

「な、何撮ってるんだよ!」

「だって、夕陽に照らされてる君の表情、すごく素敵だったから。自然な感じが一番いいね。」

どっちが自然じゃないんだよ、と言い返したかったが、なんだか負けた気がして言葉が出なかった。ただ、ほんの少し照れくさいけれど、そんな特別な瞬間をカメラに残してくれたことがちょっと嬉しい気もしていた。

太陽が沈み切ると、町には夜の気配が広がり始める。僕らは再び歩き出し、静かな夜の町を抜けて帰路についた。この日がずっと続けばいいのに、なんて、そんなことを考えるなんて自分でも驚きだったけれど、やっぱり今日という日は特別だった。

桜さんがくれた、そんな不思議で鮮やかな一日。きっと忘れないだろう。


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