第1話 才能アリ
こんにちは!作者です!
執筆活動の歴はあまり長くありませんが、描きたいものを書いていきたいと思っています。お時間があれば是非読んでください!
「豊穣の主より給わりし約束の勝利よ、欲に溺れた末の焔に己が咎を終ぞ知れ!ヴィクトール!」
青年の手によって形成された魔法の刃が少女のいる方に飛来する。少女は恐怖に思わず目をつぶる。
「っ!!」
魔法の刃は少女、ではなくその後ろにあった人型の影の塊に命中した。人型の影は青年の魔法により切り裂かれると音もなく霧散した。
青年はその様子を確認すると、もう大丈夫であると言う旨を少女にぎこちない手話で伝える。
スッスッ
(ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみません。)
(大丈夫。それより君、怪我はない?)
(大きな怪我はありません。心配してくれてありがとうございます。)
ひとしきり手話で会話をして青年ははたと思い至る。少女の着ている服はくたびれてはいるものの汚れの類いは少ない。
その様子から恐らく貧しい家庭の子供か、家出少女のどちらかであると青年は推測する。青年は再度手話での会話を試みる。
(君、家は?)
少女はその質問に答えるのをためらった。口元をきゅっと結び、視線を落とす。どうやら家出少女のようだ。
青年はしゃがんで目線を少女と合わせて、努めて優しい笑みを浮かべながら手話で伝える。
(私の家に泊まる?)
少女はこの提案を予想していなかったのか目を見開いて目の前の青年を見つめる。そうしてしばらく悩んだ末に首を縦に振った。
危険な要素は十二分にあったが、少女には野宿して誰かに襲われるより目の前の青年に着いていく方が安全に見えた。
(そっか。着いてきて。) (、、、ありがとうございます。)
程なくして、2人は青年宅に到着する。青年は普通に靴を脱いで家に入るが、少女は少しの恥じらいを持ちながら家に上がる。
(お風呂使う?それとももう寝たい?)
(やっぱり私臭いですか!?)
少女は顔を赤らめながら高速の手話で伝える。青年はそんな少女の様子を笑いながら返事をする。
(まだ大丈夫な範疇だよ。疲れてるならもう寝た方が良いと思うよ。)
(、、、お風呂お借りしても良いですか。)
(うん、わかった。)
そうして少女は青年の浴室を借りることを決意する。青年はこのくらいの年齢の子供はやはり体臭を気にするということを再認識するのだった。
少女が浴室を使っている間に青年は今後の彼女への扱いや彼女の状況を考えながら、着替えを選ぶ。そして少女と出会った瞬間のことを思い出す。
少女の背後に立っていたの人型の影。アレの名前はアイブス。人を襲い、殺してから長い時間をかけてその人の血肉や骨すらも消してしまう恐ろしい存在。
「アイブス、単なる噂じゃなかったんだな、、、。」
黒色の半袖パーカーと白の大きめのスウェットパンツを取り出しながら青年は呟く。
アイブスはその存在を知られてこそいるが、知っている人の多くは都市伝説の範囲に留めている。
ガチャリ
不意に浴室のドアが開く音がする。少女があがって来たのである。青年は極力その体躯を見ないようにパーカーとスウェットの上下を少女の足元に置く。
青年がよく分からない何かに勝ったかの様な感覚に浸っている間に着替えた少女が青年の元に歩いてくる。
(、、、ドライヤーで髪乾かそっか。)
少女は青年のその手話を見て、小首を傾げている。青年は手話を間違ったかと思い、ウェアラブル端末で調べる。
しかし、間違っている手話はなかった。青年の頭は混乱したが髪を乾かす旨を伝えて洗面所に誘導する。
(少し熱いかも。嫌だったら避けてね。)
(分かりました。)
ドライヤーを見てもまだ不思議そうな顔をしている少女を見て青年は彼女はドライヤーそのものを知らないということに気がついた。
少女の少し赤みがかった小豆色の髪を優しい温風がなびかせる。
ドライヤーの風が心地良いのか恍惚とした少女の顔を鏡越しに見て、青年の口から言葉が漏れた。
「ドライヤーの風、気持ちいい?」
(はい、とても。)
青年のその言葉にはどこか優しさ以外の何かが混ざっていたように少女は感じた。しかし、会話はそこで途切れてドライヤーの駆動音だけが洗面所に響く。
そうして、少女の髪を乾かし終わる。
「ん?」
青年はふと違和感を覚える。
「、、、君もしかして耳聞こえてる?」
(はい。私、言葉は理解できるのですが上手く話せなくて。貴方は手話ができてるみたいなので説明する事でも無いのかなと。)
「えっと、今度から普通に喋って良い?」
(はい、もしかして不便でしたか?)
「あぁ、いや、、うん。」
その後、青年もシャワーで汗を洗い流し、意外にも図太く他人の家の布団で寝ていた少女のタオルケットを掛け直してから、青年も床につく。
先程まで全力疾走で警備から逃げていたからか、青年は深い眠りについた。
翌朝、青年が起きると驚くべき光景を目の当たりにした。
「ん!?、、、ん?!」
(あっ!!これ読んじゃ駄目な本でしたか!?)
なんと少女は魔法書を読んでいたのである。
「君、、ルーン文字が読めるの!?」
(読めますよ。、、、何かまずかったでしょうか!?)
少女は明らかに興奮している青年の様子に何か自身が粗相をしたのではと酷く狼狽しているが、青年はそんなことにも気づかずに言葉を続ける。
「いやいや!マズイどころか」
「ひゃうぅぅ!」
「君才能アリだよっ!」
「、、、ふえぇ?」
最後には少女の腑抜けた声が部屋に小さく木霊した。
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