プロローグ
熱い真夏の日差しを避けるがごとく、僕は部屋の隅っこで横たわっていた。
扇風機の横に、だらしなく肢体を畳に放り投げ、意味もなくボーと天井を見続けていた。
そんな怠惰な僕の様子を見て、妹の佐智子は「お兄ちゃんはカビゴン」だと言う。
確かに寝っ転がっている僕に良くあてはまる言葉だ。 でも、決してやることがなく、暇って事ではない。
さっき、自分の携帯が鳴った。 相手は、小学以来の悪友の将だった。 その将が「江ノ島の海に泳ぎに行かない?」と誘ってきたのだ。
でも、僕は気が進まなかった。 わざわざ、人が一杯でイモ洗いのような海に泳ぎに行かなかった。
「悪い。 断るわ」
そう、簡単に言うと、将は「聞いて驚くな! あの秋月さんも一緒なんだ。 秋月さんと海に行くチャンスをお前は逃すのか?」と言う。
「ふ~ん」将の意図とは裏腹に僕は軽く流した。 きっと、将は秋月さんの友達を上手くダシに使ったんだろう。 それに、クラスで一番可愛い秋月さんだろうか誰だろうか、はっきり行く気になれなかった。 正直、女の子がいるから、尻尾振って行く事自体、馬鹿馬鹿しかった。
「悪い。 それでも行かない」
そう言っても、将は食い下がらず、相変わらず、秋月さんの名前を連呼しては必至に僕を躍起にさせようとしたが、無駄な努力だった。
「いけないんで、じゃあな」
僕はそう言い残し、電話を切った。 最後まで、将は諦めてなかった。 あの、クラス一番の秋月さんの水着が見れる云々としつこく言っていた。きっと向こうでは、「ノリ悪いなあ~」って愚痴愚痴と陰口叩かれているに違いない。






